~第五十三章~
[篠崎視点]
目の前に広がる陽光に反射して輝く壮麗な泉。
私はそれに心ごと目を奪われていました。
「・・・綺麗」
単純な表現ですがこの言葉しか出ません。
思考すら奪われてしまうような美しさでした。
「あれ?杉弓さん?」
どれ位の間、泉に時間を奪われていたのか、先ほどまで隣にいた杉弓さん、それにダッシュとロードの姿が見えません。
辺りをいくら見回しても気配も姿もとられることは出来ませんでした。
ふと視界の隅に入っていた泉の水面に波紋が広がる。
風などは吹いておらず何故広がったのか分かりません。
気になって泉に視線を移しました。
「なにも・・・いない?」
しかし、そこには何もおらずただ泉の奥から波紋が広がってくるだけでした。
『汝、人間ノ女子カ?』
「!?」
その刹那、どこからか声が響いてきた。
いや、これは・・・
『答エヨ、汝、人間ノ女子カ?』
直接、脳みそに語りかけてきているようです。
頭の中に広がっていくその声はまさに水面の波紋の如く徐々に大きくなっていく。
「は、はい」
少なくとも声が聞こえてくるということはこの周辺にいるということ。
しかし、いくら辺りを見回しても声の主を捉えることは出来ません。
『我ラ、ユニコーンノ泉ニ何用ダ?』
やっぱり・・・この声の主はユニコーンでしたか。
「・・・仲間を助けるため、です」
嘘はついていない。緊張が広がり何とか紛らわそうと生唾を飲み込む。
『仲間?アノ中途半端ナウィンガルムノ女子ノコトカ?笑ワセル・・・』
なんで知って・・・それに中途半端ってどういう意味?
『汝ラノ心ヲ読ムナド容易イコトヨ・・・』
心まで・・・
「そう、ですか」
未だ姿を見せずに私の頭に直接語りかけてくるユニコーン。
『シテ、ナゼ同種族デモナイ者ヲ助ケル?』
「理由なんかありません。困っているから、辛そうだから、その苦しみから助けてあげたい。それだけです」
『ナゼソウ思ウ?』
「理由はありません。苦しんでいる人はみんな助ける。私はそう決めましたから」
『・・・』
急に声が聞こえなくなった。
頭の中に響いてくるという感覚もなくなり、今まで何も聞こえなかった辺りの音も次第に聞こえ出す。
不意に水面に何かが着水する音が聞こえました。
その音のしたほうに目をやると、水面の上に四本の足で立つ生き物が目に飛び込んできた。
「ユニコーン・・・」
私はそれが目的の生き物・・・ユニコーンだと人目で確信しました。
「・・・お前は優しすぎる」
今までの頭直接語りかけてくるような、とても固い口調ではなく柔らかい声で話しかけてくる。
「お前は目に映るすべてのものを救って見せようというのか?」
ゆっくりと水面に浮かぶ歩を私のほうに進めてくる。
「お前はたとえ助かることのないものでも救おうと言うのか?」
「・・・分かりません。出来るかどうかはわかりません。でも考える暇があるくらいなら私は救ってみせようとします」
「・・・そうか」
私の眼前までやってきたユニコーン。
そして、ゆっくりとお辞儀をするように私の前で頭を垂れた。
「受け取れ」
「ありがとうございます!」
ゆっくりと手を差し出すとその上にユニコーンの角が現れた。
何層にも捩れ上がったその角は淡い光を発し、微かな温もりすら感じる。
まるでこの角自体が生きているかのように。
「私の名はユニセロス。人間の女よ、覚えておいてくれ」
「はい・・・」
頭をあげてそう言ったユニコーンの声はとても優しかった。
「私は篠崎未来です」
何故名乗ったのでしょう?でも名乗らなくてはいけない。そんな気がしました。
「そうか・・・未来よ。ウィンガルムの女が助かったら再びこの地へ訪れてくれ。そなたに力を授けよう」
そう言ったユニコーンの声はどこか弱っているように感じがしました。
「大丈夫ですか!?」
「なに・・・力の源を授けたのだ。少し疲れただけのこと。死にはしない」
心配せいて声を掛けるもそう言われてしまいどうすることも出来なかった。
なぜか罪悪感に見舞われる。
「気にするな・・・我は少し休む。またま見えるときを楽しみにしておるぞ」
そう言ってユニコーンは泉の奥に姿を消してしまいました。
「・・・ユニセロス」
つぶやいた言葉もユニセロスには届くはずもなく、辺りは再び静寂に包まれました。
少しした後に後方の草陰から杉弓さんたちが出てきて角を貰ったことを報告すると急ごうといわれその場を脱兎の如く駆け出し、シーナさんの待つ洞窟に向かいました。




