~第三十九章~
「な!?」
生唾がのどを通り抜ける。
まじかよ・・・
言葉を失った。
どんな言葉を選んで発すればいいのか分からなかった。
カーテンの奥から姿を現したのは、三本の尾を持つ老いた大狼だった。
伏せるようにして岩場に座っているのだがその全身から放たれる殺気はまるで俺達の心臓を直に握っているようだった。
今にも握りつぶされてしまいそうな威圧に俺も篠崎も杉弓も体の震えを抑えることが出来なかった。
「ち、長老!!」
再びシーナが声を荒げる。
今度は立ち上がって。
「・・・ふ、何、大丈夫じゃ。別にとって食ったりはせん。」
その言葉と同時に張り詰めていた空気の糸が途切れた。
それと同時に今まで聞こえなかった心臓の鼓動が自分にも聞こえるようになってきた。
よ、かった・・・俺、まだ生きてる。
この大狼を目にした途端、殺されると思っていた自分がいた。
「それに、この者たちからは災いの匂いはせんからの・・・」
「無論です。私の目に狂いはないです」
そういって立ち上がり身構えていたシーナも落ち着きを取り戻していた。
しわがれた声とやせ細った体、それに今にも折れてしまいそうな翼のこの大狼が長老なのかと一瞬思ったが先ほどの殺気がその考えを一瞬にして否定した。
「すまぬな客人、ニンゲンと対峙するとつい威圧してしまうのじゃ」
「い、いえ・・・大丈夫です」
先ほどの殺気とは似ても似つかないほどの優しい声と表情に俺の心に安堵が流れる。
「シーナから聞いているやも知れぬがワシはこのウィンガルムの集落をまとめる長、グリムハウンドじゃ」
「俺は上総・・・伊織です」
一瞬、さっきのシーナの件で自己紹介に戸惑ったがグリムハウンドはすぐに理解してくれた。
「私は篠崎未来です」
「俺は杉弓吾朗座と言います」
それをきっかけに篠崎と杉弓も簡単に自己紹介を済ませた。
「うちのフリントとシーナが迷惑をかけたな」
「いえいえ、気にしないでください。怪我しているものを助けるのは当たり前ですから」
この言葉に嘘偽りはなかった。本音を言ったまでだった。
「・・・ふぉふぉふぉ。そなたはやはりニンゲンらしくないのう!」
しわがれ声で大きく笑った後、若干咽ていた。
きっと長い年月生き続けてきたのだろう。
その後にシーナがすぐにグリムハウンドの容態を気にしていた。
「ゴホッ、ゴホッ・・・すまぬな客人。今日は疲れたであろう。寝床は用意させた。シーナ案内してやりなさい」
「はい。イオリ。こっちだ」
シーナが一礼した後に篠崎と杉弓を連れて行く。
確かに今日はへとへとだった。
いっぺんいにいろんなことが起きたからな・・・
疲れたの一言じゃ片付けられないくらい本当にいろんなことがあった。
「イオリ・・・」
シーナに付いて行く篠崎達の後を追おうとすると再び後ろから声をかけられた。
振り返ると、
「時間があったらゆっくりと話そう。そなた達の力になれるとおもうぞ」
「ありがとうございます!」
深く一礼して俺はこの場を立ち去った。
「全く・・・親子というものはこうまでして似るものなのだな、レンジよ・・・」




