~第三章~
「じゃ、また放課後」
「またね、伊織」
コンビニのビニール袋を手に提げ玄関にある下駄箱で姉ちゃんと別れを告げた。
いや。。。だって学年違うし。
時計に目をやると8時20分。
いつも通りの時刻だ。
「はぁ」
ため息をつき、クラスへと足を進める。
またいつもと変わらない日常が始まった。
別に学校が嫌いというわけではない。
ただ刺激が無さ過ぎる。
平和で平凡なのが一番幸せというが、さすがにここまで同じことを繰り返すのには疲れた。
みなはどう思っているのだろう。
このまま何も変わらない日常を望むか。
変化を求めて日々を憂鬱に過ごしているのか。
少なからず俺は後者のほうだ。
ただ少しの刺激でいい。
ほんの小さなしげ・・・
ドゴォッッ!!
そんな俺の背中に刺激・・・ではなく衝撃が走った。
「おぉぉすぅう!!伊織ぃい!」
出た・・・
怪獣『クソウルサウルス』
名前の由来は・・・
「どぉしたぁ?そんなだるそうな顔をしてぇ!?」
くそうるさいからだ。
「っ痛ぇな・・・憲弘。お前は朝からうるせえんだよ」
「うるさいんじゃない!元気なんだ!」
こいつは憲弘。瀬田憲弘。
尖らせた茶色の髪型が突き刺さるように俺に向けられる。
あからさまに不良のような外見をしているがこいつは違う。
俺とは幼稚園からの腐れ縁で家族の次に一緒にいる時間が長い奴だ。
左耳に3つのピアスが太陽光に反射してきらりと輝く。
身長は180cmある俺よりほんのちっびと低い。
がっつり開いた瞳に合う、凛々しい眉毛。
明らかに熱血タイプの顔だ。
かなりかっこいいとは思うのだが、このうるささゆえ全くのド素人。ドー○ーだ。
俺と憲弘は空手道部に所属している。
2人とも小学生の頃にはじめて、今やめきめきと腕を上げて国体にまで名を上げられるようになった。
日々の努力と血と汗の結晶は決して裏切らない成績になる。
しかし俺は一度も憲弘に試合で勝てたことが無い。
というか憲弘が桐峰空手道部のトップ。俺が永遠のナンバーツーだ。
無論女子空手道部もあるのだが、体格差とそのたもろもろの事情で練習は別々だ。
準備体操や軽い練習は一緒にやるが、組み手は別々。
何かあったら困るだろ?
柔道部とは違って空手道部にはメスゴリラ見たいなのは少ない。
おっと、失言だ。
「少し静かにしろ。朝列車が込んでて機嫌悪いんだよ」
「元気なのが何が悪い」
ぶーぶー言ってふてくされながら俺の横に並ぶ。
黒髪ショートでいかにもな真面目ちゃんぶってる俺とツンツン茶髪にピアスといういかにも不良が並んで歩く。
どう見たっておかしい。
「おはようございま~す。瀬田先輩、上総先輩!」
「あ、瀬田くんに上総くんじゃん!おはよ~」
「おはようございやす!!瀬田さん、上総さん!!」
普通の後輩学生。姉ちゃんと同じ学年の女の先輩。空手道部のいかつい後輩。
様々な生徒から挨拶をされる。
有名人てのはこんな気分なのかな?
「おはよ~」
「おっす!!」
俺と憲弘はそれらに適当に挨拶をしてクラスを目指す。
そう。おんなじクラスだ。
どうやら神様が俺達を一緒にさせたいらしく、仲良くなった小学生時代から一回も別のクラスにはなったことが無い。
「おはよ」
「おっはー!」
クラスの前にたどり着いてその扉を開けた。
すでに数名の学生が仲のいい友人達といつもと変わらない会話をしていた。
昨日のテレビ、他学生の話題、趣味の語らい。
あげれば尽きることは無いが彼らはそれに退屈はしない。
「上総と瀬田、おはよ~」
「グッモーニン!」
そんな会話も一時中断してみんな挨拶を返してくれる。
変化を求めている俺だが、この関係だけはいつまでも変わってほしくはないと思った。
「伊織!憲弘!」
皆が、おのおのに中断していた会話を再会する中、一人の女学生が俺ら2人の『名前』を呼んだ。
「千春か」
「千春おっは~」
隣同士の席に着いた俺達に話しかけてきたこいつ。
こいつは杉下千春。
憲弘と変わらない腐れ縁だ。
幼稚園、小学生、中学生と俺ら3人は仲良し組みでよくつるんでいた。
黒の長髪を左サイドポニーにし、前髪の右側に茶のメッシュを入れている。
大きすぎづ小さすぎづの瞳に手入れのされた眉、特にいじっても居ないのにマッチ棒が3本ほど乗りそうな長く反り返ったまつげ。
小ぶりな鼻と小ぶりな口にすっと細待った輪郭。
率直に言おう。可愛い。
だけど、長年付き合ってきたのか恋愛感情は芽生えず、親友としてとても大好きだ。
よく男女間の友情はありえないというが、すくなくとも俺は友達として見ていた。
それに千春は・・・憲弘のことが好きなのだ。
「伊織、今朝のニュース見た?」
俺ではない、俺の隣にいる奴。
「いつも伊織たちが乗ってる電車の始発列車が突然運休だってね」
いつも真っ直ぐに生きていて、何事にも真剣に取り組んできた奴。
「でも、そのつぎの列車から何にも無かったように運転再開だってね」
瀬田憲弘。千春が好きなのは俺ではなくて憲弘だ。
「次の便に乗ったんでしょ?大混雑だったって・・・」
そう、千春から聞いた。
「・・・聞いてる?」
「んあ?あ、あぁ、悪い。ぼーっとしてた」
あからさまに話を聞いていなかったらしい俺の顔の前で手をひらひらさせて注意を呼んだ。
「もー、聞いてなかったらいいもん」
「悪かったって、そう怒るなよ」
本当に聞いていなかった。千春が何を言っていたのか全く覚えていない。
「そうだぜ千春、こいつが朝からこんな調子なのはいつも通りだろ?」
「確かに~」
そういって千春は授業の準備を始めるといい、席へ戻っていった。
いつも通りか・・・
この友情もずっと変わらずに続くのだろうか。
続いてほしい。続いてもらわなくては困る。
だけど千春か憲弘のどちらかが告白をしたらこの関係は終わるだろう。
まぁ鈍感な憲弘のことだ、自分が好かれていることも自分が誰が好きなのかもわからないだろう。
そう頭の中で解釈すると、1限の授業の教師が入ってきた。
またいつもと変わらない授業が始まる。
「おはよう。今日は気分がいいからいまからテストするぞ~。ノート教科書しまえ~」
いつもと・・・違った。




