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~第一章~

退屈。


毎日毎日つまらない日常をからくり人形のように繰り返し過ぎていく。


世の中でなにかが起こっても、それは自分達からかけ離れたところで起きる。


強盗、殺人、戦争、震災。


いつもデジタル化された画面の向こう側の出来事だ。


「はぁ・・・」


そんないつもと変わらない日常も今日はズカズカとやってくる。


カーテンの奥から差し込む太陽の光と、朝特有の・・・朝食の匂い。


平常の朝が来た。


「・・・俺は朝からいきなりため息かよ」


重たい体を引き起こし、誰も居ない部屋で呟いた。


自分の部屋なんだ、独り言くらい言っても別に構わないだろう。


トーストの焦げた匂いを嗅ぎ付け、俺は自分の部屋を出た。


一階へと続く階段を降り、俺の家族がいるリビングに移動した。


「あら」


そして・・・


「おはよう、今日もいつも通りね」


決まって俺の母さんが挨拶を投げ掛ける。


「まあね」


寝起きは悪くは無いが、無愛想な返事を母さんに返した。


「シャワー浴びてくる」


「はい、ご飯と弁当出来てるから」


風呂場へ足を運ぶ俺に、母さんがそう呟いた。




「・・・」


頭上から容赦なく落ちてくるお湯は変則な動きを何一つせず俺に降りかかる。


こいつらは蛇口を捻れば出るという風に俺の人生も決め付けられているのだろう。


などと可愛げのないことを思った自分がすこし嫌になった。まぁ自分は好きだけど。


俺はシャワーの責務を全うさせて、浴場から裸体で飛び出した。


なんで飛び出したかって?


「寒っ!」


無理もない。


夏を通り過ぎると決まって寒い季節がやってくる。


10月の寒気の中シャワーを浴びれば寒くもなるのは当たり前だった。


さらに俺はシャワーが長い。30分は入る方だ。


浴槽のドアの脇に引っさげられたバスタオルに包まり、頭を拭いて下着を着、リビングへと足を戻した。



「ごちそうさま」


「おそまつさま」


朝食中に終始、鼻をズビズビすすっていた俺は、暖房の効いたリビングのおかげで震えることはなくなっていた。


「姉ちゃんはまだ起きてないの?」


いつも寝坊がちな俺の姉は、決まってギリギリに起きてくる。


「そうねえ、もうそろそろ起きないと遅刻しちゃうかしら、起こしてきて」


そして、決まって姉を起こすのは俺の役目だ。



コンコン。


『しいなのへや』と可愛く書かれた扉を2度ノックする。


しいなとは俺の姉の名前だ。漢字は椎名と書く。


いつも通りに返事が無いので、扉を開けて若々しい女子高生の部屋に入り込む。


不純?関係ないだろ姉弟なんだから。


ちなみに俺が高校2年生で姉は3年。


年もれっきとしてひとつ違いだ。


「姉ちゃん?遅刻すっぞ?」


「・・・」


返事が無い。ただの屍のようだ。


「おい姉ちゃん!!本気で遅刻だっつうの!」


「・・・」


頑としてぴくりともしない姉。


姉はホント寝起きが悪い。


ちっ、仕方ない。いつものあれを使うか。


そういって俺は、姉の横たわるベットへと静かに歩み寄る。


そして・・・


「しい姉、起きて?」


と、少し高い声で耳元で呟いた。


「!?」


すると姉はベットから凄まじい勢いで、飛び起きると寝ぼけ眼とは思えないくらい瞳を開けて俺を見つめた。


「おはよう姉ちゃん、早く支度しねえと遅刻すっぞ」


さてと俺も支度するか。


起きたことを確認すると姉に背を向けて扉に向かった。


「もう一回!!」


「死ね」


ベットの上で両手をそろえて懇願する姉を見向きもせずに、部屋を出た。


姉の部屋の向かいにある『いおりのへや』と書かれた扉を開く。


そう。俺の名前はいおり。


上総家の長男。上総伊織だ。


少し女っぽいのは、どうやら俺の母さんと親父が姉妹がよかったかららしい。


とんだ迷惑な話だぜ。


この名前でどれだけからかわれたことか。


まぁ嫌いじゃないけど・・・


寝巻きをベットの上に放り投げてクローゼットの中にある制服を取り出す。


灰色のスラックスと紺のブレザーだ。


そしてブレザーの胸元には俺の通う桐峰高校の桐を絵の様に崩したシンボルが入っている。


それを羽織って部屋にある大きな鏡の前に。立ち尽くした。


ドライヤーのコンセントを差込み、コテの電源を入れて髪をセットする準備を始める。


ワックスはそんなに使わないため時間はかからない。


まぁ誰も俺のことなんて見ないだろうが気休めみたいなものだ。


そんなことを言ってるうちにセットは終了した。


早すぎる?いちいち説明する意味は無いから早いだけ。




スクールバックを手にとって『いおりのへや』を出ると、そこに居たのはシャワーを浴びて濡れた髪を拭いている姉が居た。


「伊織~さっきのもう一回だけ言ってよぉ~」


「言うわけねぇだろ、そもそもあれは姉ちゃんが起きないときのための必殺技だ。ゲージが3つたまらないと使えねぇんだよ」


「馬鹿のこと言ってないでお願い」


「人がせっかくぼけたのに流すなよ。もう言わない」


「ご、ごめん!、ゲージって・・・まさか格闘ゲームじゃあるまいし~」


俺がふてくされた態度をとると、そそくさと謝りいかにもな棒読みでそういった。


俺はそんな言葉を無視して1階へと向かった。


なんで姉があの言葉にあんなに執着するのかって?


俺がまだ小さい頃にずっと姉のことをしい姉、しい姉と言っててそれがとても可愛かったらしい。


まぁそれだけのことだ。


俺はリビングに着くと先ほど朝食をとったテーブルに座る。


時間が来るまでニュースでも見てよう。


テーブルの上においてあったチャンネルリモコンを取ってテレビの電源を入れた。


『臨時ニュースです』


タイミングいいな・・・


つけた瞬間に、いつも見慣れているスタジオの風景とアナウンサーの人ではなく、年配の年を取ってしわがれた顔の眼鏡を掛けたおじいさん。


そして背景に無数のテレビと人が行きかう場面になっていた。


『今朝の後部線掛山行きの始発電車が突如・・・』


「伊織~」


ニュースの途中で完璧に支度を済ませた姉が俺とテレビの間に割って入ってきた。


「あっ姉ちゃん邪魔!今俺らのいつも乗ってる電車の名前が出てた!」


「ニュースなんか見てないで早く行こっ?遅刻しちゃうよ~」


そういって姉は俺の手を引き無理やりテーブルから立たせた。


「ちょ・・・ちっ、行ってきまぁす!」


気になったニュースを最後まで見ることは叶わず俺は姉に手を引かれ我が家を飛び出した。






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