表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/10

嘘も方便

(俺はいつから遥の彼女になったんだ?)


 反射でつっこみそうになったが、寸前で飲み込む。おそらく、俺の女装といい、小学生の素直を連れていることといい、「なんらかの事情」を察してまるっと受け止めた上で即興で合わせてくれているのだ。さすが幼なじみ、頼りになる。頼りに……。

 高校生とはいえ、男三人が加わったことで、あきらかに素直の親父は気勢が削がれている。引き気味の態度で、それでいてどことなく不穏な微笑を浮かべて言った。


「いや、着物のお嬢さんじゃなくて、その後ろの子に用事があるんだ。俺はその子の親で」

「人違いでは? この子は彼女の妹で、俺は子どもの頃から知っています。家族ぐるみの付き合いの幼なじみなんで、姉妹の親のことも知っている。オッサンは完全に無関係の他人じゃないですか」

「人違いなわけがない、その子は俺の」


 往生際悪く言う相手に対し、俺も遥の肩の横から顔を出して、すかさず言ってやった。


「この子は私の妹です。これ以上騒ぐなら本当に警察呼びますよ」


 俺の横で、他の二人がスマホを構えつつ、壁になって素直を相手の視界から隠していた。ありがとう。

 素直の親父は全然納得していない様子ながら「人違いか?」と言い捨てると、背中を向けて足早に歩き出した。その背が完全に道の向こうに見えなくなってから、俺はほっと息をついて、遥の腕に手で触れた。


「助かった、ありがとう」


 途端、他の二人が「やっぱり澪だよな!?」と声を上げる。まさか半信半疑だったのかよ。女装が完璧だったと、喜ぶところか。嬉しいな。

 俺は、皆で囲って隠していた素直を振り返った。


「大丈夫だった? 大丈夫じゃないよね。今の」

「うん……大丈夫じゃないけど……、良かった」


 見上げてきた大きな瞳が潤んでいる。怖かったんだな。俺は(せわ)しない仕草で、水野さんから借りてきたバッグからスマホを取り出した。


「うちの親父と里香さん、この後食事の予定だけど。前の親父さんと会ったことは連絡しておこう。逃げていたんだよね? 後をつけられたりしたらまずいんだろ。対策を話し合って……」

「そうすると、結局、二人のデートを邪魔しちゃう」

「そこは気にしない。素直さんが危ない目にあって怖い思いをしているときに、何も知らないでデートしていたなんて後から知ったら、あの二人二度とデートしなくなる。こういうことはすぐに連絡しないと。それで里香さんが予定を変えて迎えに来るって言うなら……、ついでに親父にも来てもらって、そのまま四人で食事もアリかな。クリスマスのファミレスはガラガラだから、席には困らない。まずはどこかの店に向かおう」


 俺の説得に応じて、素直さんはスマホを取り出し、里香さんに電話を始めた。

 その間に、俺は友人三人見渡して「いろいろ事情があって……」と小声で言う。「なんか大変そうだな」「男に絡まれるだなんて、美人姉妹は苦労をする」と口々に言われたが、黙って聞いていた遥がぼそりと言った。


「訳ありの女の子を預かっていて、大人を呼ぶ間、どこかの店に入ろうとしているってのはわかった。俺たちもこの後別に用事があるわけじゃないから、そこまで一緒に行こう。さっきの男が引き返してきたら、()()()だと何かと大変だろ?」


 あ、と俺は一瞬言葉につまってから、遥の腕を掴んで耳元に口を寄せて囁いた。


「合わせてくれたのは助かったけど、彼女設定は余計だよ。俺に恋人がいるとこの子が勘違いすると、気を使うから。クリスマスは本当はお前と過ごす予定だったんじゃないか、て」

「実際、イブに予定があると澪が言い出したときは何かと思った。デートだったのか?」

「馬鹿。相手は小学生、俺は保護者。お姉さん役」


 声を潜めてやりとりしているうちに視線に気づく。素直が見ていた。

 いつから何を見られて、どこまで聞かれていたのかわからないまま「あはは」と笑うと、素直は俺から視線をそらして無表情となり、遥を見た。

 無言のまま見つめ合ってから、俺の羽織の袖に手を伸ばしてぎゅっと掴んでくる。


「お母さん、有末(ありすえ)さんとこっちに向かうって言ってました。近くのファミレスに入っているって言っておきました。澪さんと澪さんの彼氏がいるから心配しないでって」


(……わーっ!! 里香さんは俺が男だって知ってるから、それは少しややこしいことになるんじゃないか?)


 何かおかしなことになってる、フォローを頼む、と遥を見る。遥は俺とは全然目を合わせることなく、素直を見下ろして、妙に力強く言った。


「わかった。安全が確保できるまで一緒にいるから、安心して」


 お前はお前で、この状況を楽しんでいないか?

 声に出して言うことができないまま、俺はひとまず口を閉ざした。



★本日2話更新。続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i545765
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ