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その日は確か子憎たらしくなるほどに空の高い晴れた日で、凝り固まった首を思いきり伸ばして雲の向こうを見ようとした気がする。
どこか黒ずんだグレーの煙がいやに強い主張で煙突から吐き出され、さほどの高度まで伸びることもなく風に吹かれて霧散していく。初めて目の当たりにする光景だったが、想像していたよりも、というよりも一切のにおいを感じなかった。
なんとなく、人間の焼かれるにおいは、もっと生々しいものだろうと思っていた。
「――煙草、やめたんやなかったん」
聞き覚えのある声に、優希は、しかし振り返ろうとしなかった。
背後で砂利を踏む音。あえて視線を下げて、対話の意思のないことを背中で示す。
「……骨上げ、少し時間ずれるかも、やって」
そういうこともあるのか、と思った。
父は往生際の悪い男だった。灰にされる最期の瞬間まで、彼は意地汚くこの世に執着して、粘り続けているのかもしれない。
背後の気配が消えてから、空を仰いで、肺に入れた煙を吐き出した。
煙突から勢いよく流れる煙と混じり合ったような気がして、ひどく不快だった。