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ある日の夕暮れデラは、ヴィオラの食事を取りに厨房へと来ていた。すると、丁度他の侍女達数人と出会す。


瞬間デラの顔は強ばった。正直な所、顔を合わせたくない面々だ。彼女達と関わるとろくな事がない。


「あら、デラじゃない」


3人いる内の1番気の強そうな侍女のライラが、話しかけてきた。


「深窓のお嬢様は、元気でいらっしゃるのかしら?」


ライラの言葉に後ろの2人はクスクスと笑う。頗る気分が悪い。深窓のお嬢様、これは嫌味だ。


「貴方達にご心配頂かなくても、ヴィオラ様は元気に過ごされてます故、心配無用です」


少しでも怯む様な素振りや表情を見せれば、こういった者達は面白がり益々調子に乗る。故に軽く聞き流しあしらって、相手にしないのが正解だ。


デラは、ライラ達の横を通り過ぎ厨房の奥にいた料理人コックに声を掛ける。ヴィオラ用の食事を確認すると、それを手にして早々に厨房を後にしようとしたのだが。


「本当、貴女って貧乏くじよね」


「本当、本当〜」


「可哀想ですわ」


本当に相変わらずだ。多少苛つきはするが、聞こえないふりをして通り過ぎようとした。だが、道を塞がれてしまう。


「実はテレジア様、公爵家のご嫡出様とご成婚なさるのよ」


3人の内、今度は1番意地悪そうな顔の侍女サリヤがそう言った。


テレジアとは、この公爵家の長女でありヴィオラの実姉だ。デラは余り見かける機会はなく、テレジアの事は詳しく知らない。ただ、記憶が正しければ如何にも気位の高そうな女性であった。話し方も金切り声の命令口調で話すそんな印象で、ヴィオラと血の繋がりがあるとは到底思えなかった。


「テレジア様は公爵夫人になられるのよ。素晴らしいでしょう?しかもテレジア様は、なんと私を一緒にお連れ下さるって仰ってるの〜。どう?羨ましいでしょう?」


でしょう、でしょう煩い。とデラは思うが黙って聞いていた。ここで何か言えばこの下らない話が長くなるだけだ。その後もサリヤの自慢話は続き……。


「貴女も大変ね〜。ヴィオラ様の世話係りじゃ……歩けないヴィオラ様を引き取って下さる奇特な方なんていらっしゃらないでしょうに……本当、同情するわ〜。くす」


デラは唇を噛み締める。事ある毎に誰もがヴィオラを莫迦にし見下す。


「何しろ、歩けないんですからね」


「本当、運がないわよね、デラは」


「これなら、下位の主人に仕えた方がマシね」


クスクスと一斉に笑う声が耳障りで、気持ちが悪い。


だがサリヤ達の言っている事が、強ち間違いではないのも事実だ。デラの様な侍女達は、使える主人によって、自らの人生が左右される。それこそ将来有望な主人に仕える事が出来れば、自らの将来も安泰といえるだろう。


数ある貴族の中でも、侯爵家の侍女になれた時点で本来ならば勝ち組と呼べる。だが、サリヤ達の言わんとする事は、折角勝ち組になれたにも関わらず、足が不自由で将来に期待が出来ないヴィオラに仕えるくらいなら、下級貴族に仕える方がマシだという事だ。


悔しいが、大半の者ならそう考えるだろう。ヴィオラはこの先、嫁ぎ先が決まる事は難しい。幾ら侯爵令嬢であろうと、このご時世身体に障害のある人間を気嫌いする者達が殆どだった。だがデラは。



「私はそうは思いません。寧ろ、テレジア様の様に侍女を物のように扱い、冷遇なさる方に仕える方が不幸せだと思いますけど。ヴィオラ様は心の優しいお方で、私の様な侍女に対しても偉ぶる事なくお心を砕いて下さいます。他者を思い遣る事も出来ず、見下すしか出来ない様な方なら、どんなに地位や名誉のある方でも私は願い下げです」


「はぁ?テレジア様の事を悪く言うつもりなの⁈何様よ‼︎」


いつもなら聞き流せた筈だった。だが、ここまで主人ヴィオラを莫迦にされ、黙っていられる程デラはお人好しではない。


「先に仰ったのはそちらです。それに私は真実を述べたまでなので……失礼します」


毅然とした態度でデラはそれだけ述べると、3人の間に突っ込むようにして退かし道を作ると、足早にその場から立ち去った。背中越しに、まだ何か喚いているが今度こそ聞こえないふりをした。



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