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「っ……」


数本先に立ち、テオドールが手を差し出している。だがヴィオラはニクラスに支えられた状態で、足は震え一歩も前へ進む事が出来ない。

 

「大分、筋肉はついてきたんですが……中々、難しいですね」


始めはベッドの上で足をマッサージしたり、動かしたりした。少しずつ時間をかけて、足に筋肉をつけていく。


大丈夫だと口にしてみたものの、正直な所ニクラスはこれと言って根拠がある訳ではなかった。だが、ニクラスの見立てでは、ヴィオラは特別何処か異常がある様には思えなかったのだ。


率直に言って、何故歩けないのか分からない。ヴィオラから聞いた話では、物心ついた時には既にベッドの上で生活をしていたそうだが。


そこで、侍女であるデラに話を聞いた。デラはヴィオラが赤子の時から、ヴィオラの実家である侯爵家に仕えていたそうだ。故に、ヴィオラの幼少期を知っているデラの記憶が今は重要になる。





「やはり、私には無理ですっ」


突然ヴィオラは叫ぶとニクラスを突き放し、その場に崩れ落ちる。寸前のところで、テオドールが駆け寄りヴィオラを抱きとめた。


「ヴィオラ、少し休もう」


「……ごめんなさい」


テオドールはヴィオラを抱き上げベッドの上に戻した。そのまま横になると、暫くしてヴィオラからは寝息が聞こえてくる。余程疲れたのだろう。


「ニクラス、ヴィオラはどうなんだ?大丈夫なのか?」


「……う〜ん。そうですね、デラさんにもお話は伺ったんですが」


何しろ、もう17年位前の事だ。無論デラ記憶は曖昧であり、医師でないデラには詳しい説明など出来る筈がない。


「私の憶測ですが例えば……ヴィオラ嬢が生まれつき筋肉の発達が異常に遅く、幼少期になっても歩く事が出来なかった。故にご両親は、歩けないのだからと思い込み、何もせずに歩かせない様にさせてしまった、とか」



ニクラスは以前、少し違うが似たような状況に遭遇した事があった。ある子息は、生まれつき身体が弱く10年生きられないと診断を受けた。子息の両親は身体の弱い子息には興味がなく、部屋から出る事を良しとせず、子息(かれ)をベッドに縛り付けていた。だが実際話によれば、動けない程病弱では無かったそうだ。


本来ならば、然るべき処置を施し治療していけば、なんの問題もなく生きる事が出来た筈だったのに、親の自尊心や世間体の為に子息(かれ)は……。


その当時子息を診た医師も藪医で、多分いい加減な診断を下したのだろうと想像に容易い。そしてそれを鵜呑みにする愚かな両親。親ならばもっと賢明な選択肢があった筈だと、ニクラスは悔いる他ない。


「後は、精神的なものですかね」


デラからの話では、まだ両親がヴィオラの部屋へ出入りしていた頃、ヴィオラに対して両親は辛く当たっていたそうだ。


特に母親は「産むんじゃなかった」「出来損ない」「歩けない娘など、使えない、いらない」など数々の暴言を吐いていたと聞いた。


人は精神的にダメージを受けると、突然声が出なくなったり、耳が聞こえない、視力の低下など様々な事が起こる一方で、手が動かない、足が動かせないという事もある。


もしも、そのどちらもがヴィオラの身に起こったならば。


「何れにしろ、ヴィオラ嬢の足自体には問題ありませんし、筋肉も大分付いてきましたから、後はヴィオラ嬢の精神的な部分が大きい様に思えますね。本人は自分は歩く事が出来ないと思い込んでいます。人間思い込み次第でどうとでもなる事もあります。まあ、医者の私が言う事ではありませんが……」


病は気からというが、ニクラスはたまにその事をヒシヒシと感じる事がある。ニクラスは、ちらりとテオドールを見遣る。きっと、テオドールもその様に感じているのではないだろうか……。



「兎に角、長年培われた、その気持ちを払拭するのはかなり困難ですから。先にそちらをどうにかした方がいいかも知れませんね」


「……僕には、何ができる」


テオドールは、ニクラスをじっと見遣る。


「テオドール様が、ヴィオラ嬢にお力添えをしたいのであれば。ヴィオラ嬢(かのじょ)の心に寄り添ってあげて下さい。一緒に、闘ってあげて下さい」







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