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レナードが城へ戻ってから、もうふた月経ってしまった。相変わらず、レナードからなんの音沙汰もない。ヴィオラの寂しさは募るばかりだ。


「ダメ、やっぱり……書けない」


痺れを切らしヴィオラは自ら筆を取ろうとするも、目前に置かれている紙には一文字も書かれておらず、白紙だ。


ふた月も、何の連絡もないのだ。こちらから手紙を出して、やはり連絡がなかった時の事を考えるとショックが大き過ぎて立ち直れない。


情けない話だが、こんな事を毎日繰り返している。ヴィオラは手をキツく握り締めた。


「君の大好きな王太子殿下に、婚約者が出来たらしいね」


「へ⁈」


相変わらず、ノックなどなく突然現れたテオドールはそう言って笑う。


「婚約者……何故テオドール様が、そんな事を⁈」


「風の噂だよ」


いつもながらに、曖昧な回答だ。


「で、でも!レナード様の婚約者は、私、で……」


レナードの婚約者は自分の筈だ。レナード本人がそう言っていた。


「君、記憶がないんでしょう。騙されたんじゃ無い?遊ばれたんだよ」


瞬間心臓が跳ねた。薄々自分でも感じていた事を改めて口に出され、ヴィオラは動揺した。息苦しい。上手く息が出来ない。そんなの、嘘。


「そんな事っ、ありません‼︎レナード様は、そんな騙す様な事をするお方じゃないです!優しくて、誠実で、それで……」


「うん、それで?何?」


「それ、で……」


それで……?この時ヴィオラは初めて自分がレナードの事をまるで知らなかった事に気がついた。


「王太子は君が思っているような人間じゃないよ。前にも言ったけど、彼は悪人だ」


こちらを、真っ直ぐ見据えるテオドールに、ヴィオラは息を呑んだ。とても、嘘を吐いている様には思えない。


「目的の為なら手段を選ばず、平気で人の命を奪うような人間だ」






その夜、ヴィオラは中々寝付けずにいた。昼間のテオドールの言葉頭から離れない。


私は信じない。レナード様は、優しい方だ。人殺しなどする人じゃない。


きっと、テオドールは意地悪であんな事を言っているに違いない。



「姉さん……、起きて、姉さん」


「ん〜……何?へ⁈」


「姉さん」


ヴィオラが目を覚ますとそこには、テオドールが立っている。ただいつもと様子が違う。部屋の中は、靄に包まれ視界がボンヤリとする。


これは、夢か何かか……。そもそもこんな時間にテオドールがいるわけがない。しかも姉さんって……。


よし、やはり、これは夢だ。


「テオドール様、私は貴方の姉ではありませんよ?夢でまで、ふざけるのはおやめ下さい!そんなに子供みたいな事なさってると、天罰が下ります!」


どうせ夢だ。ここはビシッとキツく注意をしてやる。だが、天罰はいい過ぎかも知れない。


「姉さん、僕はテオドール?じゃないよ。()()()()だよ」


「ミシェ、ル?誰、それは……ミシェル……?」


何だか酷く懐かしい響きだ。誰だったか。



「僕の事、忘れちゃったの?酷いよ、姉さん」


悲しそうにミシェル(かれ)はヴィオラに近付くと、手を握った。

温かい。生きている証拠だ。本当にこれは、夢?


「姉さん……」


ミシェル(かれ)は、私の頬を優しく撫でると、唇も親指で撫でた。そのまま、ミシェル(かれ)の顔が近付いてきて……。





「っ‼︎痛っ‼︎」


「バレバレですよ‼︎テオドール様‼︎」


耳を力一杯ヴィオラに引っ張られたミシェル(かれ)もといテオドールは、痛みに声を上げた。


「なんで、バレたの⁈おかしいなぁ」


「当たり前です!そもそも、ミシェルはこんな事しませんから!」


ヴィオラは、ハッとして黙り込む。ヴィオラの言葉に、テオドールはにやりと笑った。


「思い出したみたいだね、ヴィオラ」


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