ヒーラーの前に男たちは毎晩ひれ伏す
「「「今日も回復ありがとうございました、カナタ様!」」」
鎧を着た3人の土下座を見ながらの夕食。
今となっては日常風景なので面白くもないが、恒例行事になっている。
初めて着た街の宿で、筋肉しか取り柄のないサムが大声を出した。
「いい加減、こっちも我慢の限界だ。俺たち3人は、今日限りでパーティを抜ける。じゃあなクソ女!」
「ヒーラーに毎晩土下座するなんて、ここだけだぜ。やってらんねーよ!」
「二度とその顔は見たくねーよ、バーカ!」
頭の悪そうな捨て台詞を残し、3人は走り去った。
ヒーラーの機嫌を損ねたら近接職は生きていけない。
それを思い知らせる為に、イラッとした時は回復を死ぬギリギリまで遅らせたりしていた。
元はと言えば、あいつらがヒーラーを無能扱いしたのが土下座会の発端だ。
毎晩強制した覚えもないし、私は悪くない。
冒険者ギルドに替えの近接パーティを探しに行ったら、馬鹿3人が私のある事ない事を吹聴していた。
いらん所には頭が回るらしい。
絶対に声をかけない素人パーティすら、私が近づくと数歩後ずさりする。
……これは良い!
混雑している依頼掲示板前に来ると、全員が避けて目の前が広がる。
うーん、たまには薬草採取をしようか。
依頼書の端を引き剥がしてカウンターに持っていく。
「あら、カナタさんはA級冒険者ですよね? 薬草採取なんてなさるんですか?」
「たまには自分で採取して調合しないと、腕が鈍りますからね」
薬草100gにつき銅貨3枚だが、近隣で薬草が取れる場所にマーキングした地図をくれるのが良い。
私が出口へと向かう中、馬鹿3人が罵倒を始めた。
「やっぱA級といえども、ヒーラーだけじゃ薬草がいいとこだよな!」
「最低ランクの薬草採取依頼って、雑魚すぎない?!」
「しかもソロって!」
それにつられて口々に悪口が囁かれる。
私の機嫌は最高に悪い。
「アンタらが死んでも、絶対に復活魔法は使わないからね!」
その言葉でギルド内は静寂に戻った。
復活魔法が使えるヒーラーは希少だ。
私が元々住んでいた魔法王国では、私以外にもう1人しかいなかった。
恐らくこの場の誰も使えない。
街から出て20分ほど歩いた森の中で、薬草採取を始める。
時期が良いのか土壌が良いのか、効果が高そうなものが多い。
私は途中から、頭を空っぽにして薬草を集めた。
「あの……お1人ですか?」
振り向くと、酒場にいそうな小綺麗な町娘がいる。
だがその手は土だらけで、小さな傷がいくつもついていた。
「えぇ、1人で薬草採取してるの。お邪魔でしたか?」
「いいえ、この辺りでやる人は少ないので。良かったら一緒にやりませんか?」
暇だったので了承し、世間話をして過ごした。
彼女の名前はニーナで、調合屋の娘だと言う。
調合屋と言っても小さな店なので、自分が採取してきた物を調合して細々と商売しているらしい。
「そういえば、カナタさんはどんな魔法を使うんですか?」
「まぁ装備を見れば魔法使いだとバレるわね。ヒーラーなの」
その言葉を聞くと、ニーナは急に手が震え始めた。
私、変な事いった?
「ヒーラーなんて最低な職だと知っていたら、声をかけませんでした。ごめんなさい、失礼します」
後味の悪い採取になった。
カゴが薬草で一杯になった私も切り上げ、街に向かう。
ヒーラーを毛嫌いするなんて珍しい。
進んでヒーラーになろうなんて人は、大体自分より他人を優先してすぐ死ぬものなんだけど。
生き残ってるのは私みたいな天才か、よほど運が良いヤツくらいになってしまう。
調合屋に寄って、さっさとポーションにしてしまわないと薬草の鮮度が落ちる。
街の門をくぐって小さな調合屋に入った。
「いらっしゃい、何をお探しで?」
「申し訳ないですが、仕事場を貸してもらえないでしょうか。もちろん、手間賃は払いますわ」
「ご自分で調合なさるとは珍しい。どうぞ、お上がりください」
もしかしたらと思ったが、調合場にはニーナがいた。
目が会ったが、無視しているのかもしれない。
一々気にしてられないし、私も黙って調合を続けた。
しばらくするとチラチラと私を見て、我慢できなくなったニーナが口を開いた。
「私の後をつけてきたんですか、最低ですね」
「私はここを借りる手間賃を払ってるお客だよ? それに、後をつけた覚えはないわ。近い店に入っただけだもの」
「……ふぅん」
それだけ言うと口をつぐむ。
薬草は私の方が3倍は多かったはずだけど、先に調合が終わった。
「もう会う事もないでしょうけど、仕事場を貸してくれてありがとうね」
「お礼なら、お父さんに言って支払ってください。私は何もしてませんから」
店主に代金を払おうとすると、申し訳なさそうに頭を下げた。
「ニーナが言っていた、薬草取りで一緒になったヒーラー様とは、アナタの事だったのですね。娘が粗相を致しまして、申し訳ありません。代金はいりませんので、お気を悪くなさいませんよう……」
「今日は悪口に慣れてるから構わないわ。ここに代金を置いていきます。その代わり、なんであんなにヒーラーを嫌ってるのか、教えてくれませんか?」
店主が言うには、つい2日前に母親が採取帰りに野盗に襲われた。
ポーションを飲ませようにも、まともに飲み込めないほどの重体。
ヒーラーを探し回り、ようやく見つけた人は、払える訳がないほどの大金を要求したという。
どうにか手持ちあるだけで頼み込んだが拒否され、母親は亡くなった。
そのせいではないか、と語った。
……そりゃ嫌いにもなるわね。
さすがの私でも、そこまで悪女にはなれない。
愛想よく腰の低い店主を見て、なんだか申し訳なく思った。
私は、された態度には、同じ態度で返す主義だ。
「私の同業者が悪さをしたようですね。ごめんなさい」
「いえ、謝って頂いても生き返る訳ではございませんし……」
「死んだのは2日前だったわね? 遺体はどこにあるの」
「娘がどうにも気持ちの整理がつかないと、2階に安置してありますが……」
私は黙って2階に上がり、母親の遺体を探した。
まだ腐敗が始まっていないかのような、綺麗な状態だ。
魂もすぐ近くに漂ってるし、これなら楽勝ね。
「ねぇ、そこの奥さん。娘が気になって成仏しないのはいい。でもね、そのままじゃゾンビになって家族を食い殺すかもしれない。それでもいいの?」
母親の幽霊は悲しそうに顔を両手で覆う。
生き返りたい欲望も強そうだ。
「決まりね、復活魔法を使うわ。すこーし記憶が飛ぶかもしれないけどね」
母親を生き返らせると、まず母親が泣きながら土下座。
その声を聞いて飛んできた店主も土下座。
最後にニーナが泣きながら母親に抱きついた。
店主が頭を下げたまま喋りだす。
「生き返らせるほどの高位のヒーラー様だとは思いませんで、失礼を致しました。お礼はいかほど払えば良いでしょうか」
「そうね……この調合屋にあるだけの財産を頂戴。払う気はある?」
ひとしきり泣いたニーナが、私に目を向ける。
キリッとした表情から決意が伝わってくる。
「私が一生、体を使って払い続けるわ。お母さんの命には変えられないもの!」
「そう、じゃあニーナの体を貰うわ。両親とも、それでいい?」
黙って全員頷いた。
母親は、少し悲しそうな顔をしている。
「交渉成立ね。ニーナは私の所有物になった。1つだけ命令するから、しっかり働いてね」
宿屋に泊まって翌日、冒険者ギルドに向かう。
中はとても騒がしい様子だった。
「お優しいヒーラーのカナタ様が、無償で私の母親を生き返らせてくださった。あれほどお優しい方を、私は見たことがない!」
よしよし、ちゃんと宣伝してくれてる。
私の性格が悪い、とあいつらが宣伝するなら、街の者に反対の宣伝をやらせるのが一番だ。
嘘を広めたとして、馬鹿3人は袋叩きにされている。
いい気味だ。
「あら、どうしたの? 騒がしいじゃない」
「おやカナタ様じゃないですか。嘘を撒き散らした馬鹿どもに、制裁を与えている所なんですよ」
「可愛そうじゃない。そんなズタボロの雑巾みたいにしてしまって」
「ニーナの言う通り、本当にお優しい方だ。自分の悪評を撒き散らしたヤツにまで、慈悲をかけるなんて」
「私が、その3人を引き取るわ。慈悲の心を、教え込んであげないとね……」
私は静かに微笑み、男たちは涙を流した。
【皆様へのお願い】
「面白かった」
「続きが気になる」
「応援したい」
少しでもそう思って頂けたら下にある「☆☆☆☆☆」を
「★★★★★」にしてください。
素人作者なので、とても励みになります。




