斎木学園騒動記10-8
さあさあ、物語も終盤戦。
偶然読んでいただいたアナタ、ほんのひとときでも楽しんでいただけたなら幸いでっす!!
ご感想お待ちしてますゾ?(笑
by雨ふらし
「まだまだ、勝ち誇るのは早すぎるぞ──」
口の端から、血を流してうめく。
「てめえ、いい加減にしろよ!」
一郎は怒号した。
「おっと近づくな、これを見ろ」
沢村が、はっとしてポケットを探る。
────ない。
先程、沢村がダニ−に対して脅しに使った爆弾のリモコンが、田崎の手に握られていた。
和美に吹っ飛ばされた時、落としていたらしい。
「二分後にドカン、だったな? ティンカ−ベルの捕獲失敗。たかが五・六人の攻撃で支部は壊滅状態。本部直属のエスパ−であるダニ−も死亡──。もはや本部から処分されるのは明白だ、だが、ただでは死なんぞ! 貴様らも道連れにしてやるっ」
狂気の色をはらんだ瞳を、ぎらぎらと光らせながら、スイッチを押した。
「ひえっ」
「押したあっ!」
陽平と明郎が抱き合う。
爆発まで、あと二分!
「省吾っ」
沢村が、素早く相棒を呼ぶ。
テレポ−テ−ションで和美を引っこ抜いて、一気にトンズラだ。 だが、その瞬間、その場の全員が異様な耳鳴りを感じた。
ESPジャマ−だ!
「うあああっ」
頭を押さえて、省吾はしゅがみ込んでしまった。
和美も同じく苦しんでいるため、念力でどうにかする訳にもいかないようだ。
田崎は咳き込み、唇の端から血の泡を飛ばしながら笑った。
「はははあ、笑い猫のテレポ−トもこれで無理だろう? ここは地下三階だ、お前らの逃げ場は無くなった訳だ」
「くそっ」
舌打ちして、一郎は部屋の中を見回した。
あった。天井にカモフラ−ジュされた機械。
「お前ら、省吾にへばりつけっ!」
叫んで、一郎は天井に設置されたジャマ−に向かって跳躍した。 だがその時、横からもう一つの影が跳んでいた。
「うおっ?」
その影は、空中にいる一郎に体当たりを食らわせた。バランスを崩して、一郎が床に落っこちる。
「兵藤オッ」
「終わりだ、念仏を唱えるがいい」
冷たく、彼は言い捨てた。
あと三十秒!
「一郎君! 一瞬でいい、そいつの動きを止めろっ」
鋭く沢村が叫ぶと、
「くおおおっ」
吼えて、一郎は兵藤に向かって真っ正面からぶつかっていった。パンチでもキックでもない、全ての小細工を排した猛烈な頭突きであった。
一郎の、全身のあらゆるパワ−を爆発させた特攻に、兵藤の長身が枯れ枝のようにはね飛ばされた。
その間に、沢村は天井のジャマーに向けて、何と左腕を『発射』した!
「ひょおおお」
沢村のロケットパンチにより、ジャマ−はひしゃげ、壊れた。
同時に、ふっ、と意識を取り戻した省吾が立ち上がる。
あと二十秒!
「よし、皆さんオレの身体につかまって・・・相沢、早くっ!」
一郎は、兵藤を吹き飛ばした勢いのまま、一気に田崎に殴りかかった。
「離せ、この野郎ォッ」
一郎の拳に顔面を潰されて、田崎は向こうの壁まで吹っ飛んだ。
あと、十秒!
「一郎っ、早く!」
誰かが叫んだ。
失神してしまった和美を抱き上げ、皆の方へ戻りかけた一郎の身体がつんのめる。
「!」
一郎の足首を、兵藤が万力のような力で握りしめていた。
あと五秒!
「こいつを頼むっ!」
一郎は、和美の身体を省吾に向かって放り投げた。
あと三秒!
「時間がねえ、オレに構うな省吾、皆を助けてくれっ!」
「一郎!」
「一郎!」
「一郎ぉ!」
「行けえっ!」
一秒っ!
省吾は、皆をまとわりつかせたまま、テレポ−トした。
そして────、
同時に、FOSのビルが大爆発を起こしていた!
☆ ☆ ☆
数瞬後、省吾は最初と同じビルの屋上へテレポ−トアウトした。 全員の目が、崩壊するFOSのビルに釘付けになる。
「うわ・・・」
雄大なコンクリ−トの城が、崩れ落ちていく。
「すごい──」
地震のような揺れを感じながら、誰かがつぶやいた。
高層ビルの姿が、跡形もなく崩れてしまった後、一同は声が出せなかった。
─────終わったのだ。
ふっ、と和美が気づいた。
二・三度まばたきをして、周りを見回す。
「ここは?」
と言ってから、煙を上げるFOSのビルの残骸を見て、もう一度全員の顔を眺める。
弥生、明郎、陽平、省吾、沢村、なぜかフウ・ホウラン──。
「お兄ちゃんは?」
半分答えを判っていながら、和美は聞いた。
誰も答えない。
つう、と一筋の光るものが、和美の頬を伝っていく。
つい先程、再会の感動を分かち合った兄妹は、また離ればなれになってしまった。
吹きつける埃っぽい風の中で、静かに和美は涙をこぼした──。