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斎木学園騒動記1−6



「おい、この中学生の小娘で本当にいいのか?」

 ガムを噛みながら男の一人が聞く。


「ああ、間違いない」運転しているヤツが答えた。「この娘が『ティンカーベル』だ」


 巨漢が何人も入り込んでいるので、車内はかなり狭かった。

 和美は両脇からごつい手に押さえつけられ、ぴくりとも動けない。

 その上、口にはさるぐつわをかまされて、大声で叫ぶ事もできない状態である。

 もっとも、たとえ両腕が自由だったとしても、身長百五十五センチそこそこのいかにも『か弱い』和美ではどうすることもできはしまい。


「ま、大体この計画にはあんなのが多いからな」

 和美の右に座っている男がいまいましそうに言う。

「見かけじゃ判らないな、こいつがそんな『化け物』とはね」

 男は和美のあごに手をあてて、ぐいと自分の方へ向けさせた。


 遠慮なしに、じろじろとなめるように和美の顔を見つめる。

 和美は、口臭がにおってくるほどの位置にある男の顔から顔をそむけようとした。だが強い力で押さえられているため、それができない。

 弱々しく、視線だけそらせる。

 いやらしく、男が唇をゆがめるのが視界のすみにうつった。


“力があれば───”

 和美の目に涙があふれてきた。


 その時。

 にぶい、木の棒が折れるような音が車内に響いた。


「ひっ・・・ひいいいいっ!」

 悲鳴があがった。見ると、和美の顔を固定していた男の腕が、異様な角度にねじ曲がっていた。

「な・・・・」

男たちは見た。和美の髪が青く輝き、ざあっと生き物のように動きだすのを────。


 一郎は走った。信じがたいスピードで走った。


 そのスピードは先行している乗用車さえ追い抜いた。

 買い物途中の主婦も追い抜いた。


「────」

「ママー、今どっかのお兄ちゃんが走っていたよ、すごく速いね」

「そ、そうね・・・グリコでもいっぱい食べたんじゃないかしら・・・ホホホ」

「ボクもグリコ食べたらあんなに速くなるの?」

「ええ、ええ、きっと速くなるわよ・・・」


 母親の頭は、理性が現実を否定していた。今自分が何を話しているのかすら、判ってはいない。そして手を引かれている子供は目をキラキラさせて、自分が車より速く走る姿を想像した。

 次の日、グリコの食べ過ぎで、病院にかつぎこまれた子供のニュースが、新聞のすみに小さく出たが本編には関係ない。


 とにかく、一郎は走っていた。

“マスターの話からすると、あいつらはFOSってやつらだな。あんな娘をさらって一体どーしようってんだ”

 少し走っていくと、道が二つに分かれていたので、立ち止まる。


「ちっ」

 舌うちして、一郎は空気の匂いに神経を集中した。

 一郎は体力だけでなく五感までもが人間離れしているのである。

 わずかな排気ガスの匂いを一郎はすぐに嗅ぎわけた。


 どうやら、ここで二組に別れたらしい。車はともかく、バイク集団は目立ちすぎるので、ここから別行動をとったのだろう。

 だが、それはつまり車に護衛はいなくなったということだ。


“追いつければなんとかなる!”

 一郎は、再度走り出そうとした。しかし、正面から歩いてくる人影を見て、目を丸くした。

「な・・・逃げられたのかよ?」

 そこには、うつろな目をした和美が立っていた。

 


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