斎木学園騒動記10-1
みんな、新型インフルエンザなかに負けるなヨ?
雨ふらしも、負けないぞ。
ACT・10
「うわああっ!」
天地がひっくり返るような衝撃があり、地下室の天井にもヒビが入った。
ぱらぱらと、細かい破片が降ってくる。
「何だ、何事だっ!?」
床にしりもちをついた田崎は、目を白黒させて叫んだ。
それとほぼ同時に保安部員が一人、慌てた様子で部屋に飛び込んできた。
「大変です、沢村がビルに攻撃をかけています!」
「何っ、沢村だと!」
立ち上がりかけた田崎だったが、再度起こった爆発の振動により、またしりもちをついてしまう。
びしっ、と音をたてて防弾ガラスにヒビが走る。
「いかん!」
それを見て、ダニ−が叫ぶ。
「今だ、皆さん力を貸して下さい。飛び出しますよ!」
省吾の合図で、学生たちが一斉にガラスへ体当たりした。
がつん!
失敗、もう一度。
がつん!
いい感じ、ヒビが広がった。
がつん!
さらに広がった!
「どいて!」
とどめとばかりに、ホウランが両手から電撃をほとばしらせた。プラズマ化したその攻撃により、防弾ガラスがこっぱみじんに砕け散って、五人の身体は外へ転がり出ていた。
「よくも一郎をっ!」
間髪おかずに、弥生が田崎に飛びかかり、一瞬遅れて陽平も飛びかかっていった。
「ひいっ」
へたり込んでいる田崎は、情けない声をあげて両手で頭を抱え込んだ。
おかまいなしに、その上から弥生は殴りつける。
空手は見様見真似だが、以前、試し割りに使う厚さ三センチの松の板を三枚重ねて叩き割ったのは空手部でも伝説になっている。
まあ、それでも修羅王で殴られるよりはマシだろう。今の弥生が木刀を手にしていたなら、おそらく田崎は殺されていたに違いない。後から飛びかかった陽平が、手を出せないほどすさまじい連打であった。
だが、その弥生の身体は、だしぬけに見えない力によって後ろへ吹っ飛ばされていた。
「くっ」
くるり、と宙返りして着地した弥生は、ジョニーをにらみつけた。念力で吹っ飛ばされたのはこれで二度目だ。
「またあんたね、人のことぽんぽん弾き飛ばして──」
そうつぶやく弥生の声は、意外に低く静かだった。
そして両手を前に出し、あたかも剣を持っているかのように腰を落とした。
「?」
ふふん、とジョニーは肩をすくめる。
はたから見れば手ぶらで構えたようだが、弥生は剣の代用品を手にしていた。
右手首を左手で押さえ、その先から突き出している一本のボールペン。
「あんたも許さないわよ、覚悟しなさい」
それを聞いて、ジョニーは腹を抱えて大笑いした。
「そのセリフ、そっくり返しますよ小娘! 先程は生かしておきましたが今度はそうはいきません。あなたたちも」
唇を歪めながら、弥生とその後ろにいる省吾、陽平、明郎にも言った。
「どこからでもかかって来なさい」
その言葉に、弥生は無言で間合いを詰めた。
この距離では、攻撃するのに遠すぎる。たとえ踏み込んでも、そのスキに念力で吹っ飛ばすことができる。
ジョニーはそう考えていた。
弥生が何か飛び道具でも持っていれば別だが、その様子もない。この小娘は、ただのボールペンを正眼に構えているだけだ。
その目は精神集中のため細められていたが、ジョニーは気づかない。
自分のサイコキネシスの威力を信じ切っている彼は、すっかりリラックスしているのだ。弥生が飛びかかってきてから、余裕を見せつつ叩きのめすのを狙っているらしい。
薄笑いを浮かべながら、彼は弥生の目がくわっと見開かれるのを見た。
当然、次にくるべき攻撃は捨て身の特攻だと思っていた。
違った。
次の瞬間、弥生の口から衝撃波のような『気合』が放たれたのだった。
「いえええええあああっっ!」
それは物質的なパワーを持ち、ジョニーの全身を叩いていた。
巨大なハンマーがぶつかったようなものだ。
驚きの表情で吹き飛んだ彼が床に落ちた時には、もう弥生が襲いかかり、手の中のボールペンを深々とのどにめり込ませていた。
ばっ、と弥生が飛退ると、ジョニーは白目をむき、血を吐いて悶絶した。
すさまじい技であった。剣士は剣とともに生き、剣とともに死ぬ、という原則を覆している。
『遠当ての術』とでも言うべきそれは、要するに気合をもって相手のバランスを崩し、そのスキをついてとどめを刺すものである。 口で言うのは簡単だが、その奥義は極度に体力を消耗するのか、かくんと弥生は膝をついた。




