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斎木学園騒動記8−6



    ☆         ☆         ☆


 一方、一郎のいるのとは別棟の第二ビルタワ−では、さっきの騒ぎの中で「陽平・明郎」組と、「弥生・省吾」組にメンバ−が別れてしまっていた。

 

 こちらは「陽平・明郎」組。

 忍者と電気工作男というこの奇妙なコンビは、ひたすら目立たぬように廊下を歩いていた。

 

「はてさて、ここはどこでござろう」

「う〜ん、すっかり迷っちゃったなあ」

 どこまでも続く同じような光景に、ふたりはやるせなさを感じ始めた。

 

「さっきここ通らなかったっけ?」

「いや、確かに別の場所なんでごるが、つくりに変化がまるでないでござる」

 忍者である陽平の方向感覚とカンだけに頼って、明郎がその後をついていく。

 一郎が大騒ぎしているおかげで、大分人員が回されたらしく、このふたりに対するマ−クはほとんどないようだ。

 

「しかし、こうしてると思い出すなあ、一郎と知り合ったばかりの時」

 ぽつりと明郎がつぶやく。

「あの時のことでござるか?」

 足を止めて、陽平は振り向いた。

 互いの顔を眺めた一瞬に、ふたりの脳裏には同じ光景がフラッシュバックしていた。

 

「あの時も、えらい騒ぎだったでござるな」

「ん、ひどい目にあった」

 ふうう、とふたり深いため息をついて、再び歩き始める。

 

「あれは、やっぱり一郎が原因・・・だよなあ」

「オレもそう思うでござるよ、転校してきたと思ったら、大騒ぎの連続。しかも、引っ越す前の土地からヤクザやら暴走族やらのお礼参りが主だったでござるからな」

「霧原の由紀ちゃんがさらわれた時は、どうしようかと思ったよ。丁度あの時もこんな風にヤクザのビルに忍び込んだんだったっけ」「そうそう」

「こんなどでかいビルじゃなくても、刃物やら拳銃やらも持ってたっけなあ・・・」

「そう、タチの悪いチンピラがぞろぞろ向かってきたでござる」

「そうそう、丁度あんな具合に・・・」

 明郎が指さす先に、廊下の角から複数の保安部員が姿を現した。

 

「全くあの時と同じだ、ワンパタ−ンだねえ」

「冗談言ってる場合じゃないでござる!こっちに気づいたでござるぞ!」

 くるりと回れ右をして、陽平と明郎は同時に逃げだした。が、前からも別の男たちが現れ、ふたりはたたらを踏んで立ち止まった。

 キョトキョトと、前後の男たちを見比べる。

 

「・・・ちょっと、逃げられそうもないでござるな」

 そう言って、懐に手を入れようとするのを、明郎が制する。

「こらこら、もうケムリは止めにしてくれよ。またはぐれたら今度は独りぼっちになるんだからさ」

「それじゃ、ここらで一発やるでござるか?」

 ちら、と意味ありげに陽平が目配せする。

 

「ん、一郎すら知らない、オレのもう一つの隠し芸を披露するとしようか」

 ポケットからトランプを出しながら、明郎はどこか嬉しそうに言った。

「オレが、電気製品いじりだけじゃないところをお見せするよ」

 

 その間に、走り寄ってきた男たちが足を止めた。

 明郎と陽平が、背中合わせになって身構えたからである。

 男たちは、手にしたごつい金属製の警棒を握りしめた。

 

 どうやら銃を使うつもりはないらしい。たかがガキを相手にするのにムダ弾丸を使うこともない、と考えているらしかった。

 ボコボコに殴りつけ、おしおきを食らわせてやるつもりだった。

 乱闘の直前の、重い空気がその場を流れていく。

 

「じゃ、オレから先にやるよ」

「半分コでござるぞ」

 短く言い合うと、明郎は前後の男たちに気障な仕草で一礼した。

「では、始めましょう。天才『手品師』宮前明郎の、特別マジックショ−!」

 ぱちぱちぱち、と陽平が拍手をする。

 

 はあ?

 と、男たちは、この不可解な行動にぽかんと口を開いた。

 

「まずは、『カ−ド』!」

 明郎は、持っていたトランプを素早くシャッフルし始めた。

 目にも止まらぬ早さで手が動き、次に右手と左手の間を少し開け、その間の空間を右から左へカ−ドが舞っていく。

 見事だった。

 これだけのカ−ドさばきができれば、ラスベガスのディ−ラ−にも引けはとるまい。

 

 カ−ドが全て左手に移った。くいっと手首を返すと、カ−ドが扇のように広がる。

 右手を添えて、それを元のようにまとめ、また広げた。

 

 男たちが驚きの表情を浮かべる。

 突然カ−ドが倍の大きさになったのだ。

 

「for you」

 明るくいいつつ、明郎はそのカ−ドを飛ばした。

「ぎゃっ!」

「うわっ」

 武器を持った男たちの手に、そのカ−ドは深々と刺さった。

 しかし、なぜか手に刺さっているカードは、元のサイズに戻っている。

 その困惑が、男たちの動きを止めた。

 それを小馬鹿にするかのように、明郎は気障にウインクしてみせた。

 

「次は、オレの番でござるな」

 言って、陽平が懐から巻物を一本出した。

「見よ、忍法『自在布』!」

 叫びつつ右手を振ると、しゅるると巻物が伸び、前方の男の顔面を痛打した。

 端は陽平の右手に握られているが、何か特殊な力の加え方でもあるのだろうか、それはすぐに巻き戻されて陽平の手中に収まった。

 

「貴様ッ!」

 鼻血を出して吹っ飛んだ仲間を見て、激怒した男たちは陽平に殺到した。

 

「むん!」

 気合とともに、陽平は再度『自在布』をふるった。

 

 男たちはまた驚かねばならなかった。

 巻物は直線で攻撃せず、蛇のごとく空中で角度を自在に変化させ、男たちを殴り倒したのだった。

 迫り来る布をナイフで切り裂こうとした男は、いきなりホップしたそれにアゴを砕かれ、掴みかかった奴の腕には逆に絡みつき、骨をへし折り大きく投げ飛ばした。

 

『自在布』

 

 本来ならば布を使用する術だが、陽平は巻物で代用した。

 長い布の端におもりをつけて操る技であり、陽平の得意技なのである。

 一見ゆるやかな攻撃が、空中でうねうねと角度を変え、敵をからめとり打ちのめし、また自らを防御する楯ともなる変幻自在さから『自在布』の名がついた。

 

 ともあれ、このように奇妙な技を立て続けに見せつけられて、男たちから余裕が消し飛んだ。

 だが、手品にしろ、忍術にしろ、拳銃には勝てまい!

 そう考えた時には、残った男たちは迷わずホルスタ−から銃を抜いていた。

 

「動くな!」

 一人が重みのある声で叫んだ。脅すにはぴったりの声である。

 加えて、各々の銃口はしっかり明郎と陽平の胸にポイントされている。

 

「むむっ」

 と陽平は、巻物を握りしめたまま動きを止めた。

「宮前明郎、沖陽平。最大のピンチ!ふたりの運命やいかに?」

 他人ごとのように明郎が言った。

 

 この状況下でとぼけることのできる度胸は、さすが斎木学園の生徒である。

 

 明郎は、ぱちりと指を鳴らして、何もなかったはずの胸ポケットから赤いバラを抜き取り口元へ持っていった。

「時間のムダだね──はっきり言って」

「そーでござるな、一気に勝負をつけるでござるか」

「よし!」

 陽平のセリフが終わるか終わらないかのうちに、明郎はバラに強く息を吹きつけた。

 

 これも手品だろうか?バラの花びらが、全て宙に舞った。

 いや、一輪の花にこれほど大量の花びらはない。

 明郎は、ただ一本のバラから、数十本分の花びらを宙に舞わせたのである。それにより視界が奪われ、男たちは動揺した。

 

「畜生っ、小僧ども!どこだっ」

「撃つな!同士討ちになるぞっ」

「そうだ、撃つな!撃つんじゃないでござるぞ!」

 叫ぶ声も誰のものか判らない状態である。

 

 拳銃を構えた男たちは身動きしなかった。花びらの乱舞が収まるまで、不用意に動かない方がいいと判断したのだ。

 しかし、驚愕に男たちの目が見開かれた。

 突然、彼らの目の前に人影が立ったのである。

 不思議なことに、六人の男たち一人一人の目前に、である。

 

「何だ!敵はふたりのはずだ。いつの間に六人に増えた?」

 六人同時に打ち倒され、六人同時に失神していく中で、六人同時に同じことを考えつつ、六人同時に床に伏した。

 乱舞していた花びらが、小春日和の日差しにはかなく溶ける淡雪のように消えていくと、後には失神している保安部員たちと勝ち誇って立っている明郎と陽平がいた。

 

「ふっふっふっ、見たか!マジックと忍術の合体秘術、名付けて『影分身花弁乱舞』!」

「うーむ、ネーミングが今いちでござるな」

「──まあ、後でじっくり考えよう」

 ふたりがそういいながら、鼻の頭を掻いた時、

 

「ふーん、影分身花弁乱舞かァ、すごいすごい」

 

 ぱちぱちぱち。

 拍手されたので、ふたりは振り返ってふんぞり返った。

「いやあ、それほどでも、はっはっはっ」

「ところで、君は誰でござる?」

 目の前にいつの間にか立っていたのは、チャイナ服を着た小柄な少女であった。

 くりっとした大きな瞳で、ふたりを見つめている。

 

「あたい?あたいはフウ・ホウラン、FOSのエスパーなんだァ」

 舌ったらずのしゃべり方で、にっこり笑った中国娘に対して、すっと血の気がひくのを明郎と陽平は感じた。

 

「あは、は・・・エスパーなわけ? 君」

 こくん、とホウランはうなずいた。

 

「そうなの、でね、あんたたちをやっつけに来たんだァ、けどォ、あんたたち面白いからつい保安部の連中見捨てちゃったんだよねェ、へへっ」

 ぺろっと舌を出して、自分をこづいたりする様子を見て、明郎と陽平はあっけにとられた。

 

 この娘が、一体どんな超能力を使うのか?「やっつけにきた」と言うからには、やはり和美と同じような念力だろうか、それとも念力発火とか念爆とか──とにかく物騒で破壊的な能力であろう。

 その外見からは、とても想像がつかないだけに、逆に不気味な刺客であった。

 

「んじゃ、そろそろしよっか?」

 とまどうふたりをよそに、ごく気軽にホウランは言ってトコトコと近づいてきた。

 さらにふたりが困惑したことには、

 

「はい」

「え?」

 すっ、とホウランが手を出し、握手を求めてきたからである。

 

「はじめまして、よろしくね」

「あ、こちらこそよろしくでござる」

 あまりにも自然な仕草だったため、陽平もつい握手に応じた。

 その途端、

 

「ぎゃっ!」

 突然、全身を硬直させ、白目をむいて陽平は倒れてしまった。

「陽平、どうしたっ!」

 あわてて、床に転がった陽平の身体を明郎が抱き起こすが、完全に気を失っている。

 その明郎の首筋に、ぴたりと少女の掌が触れた。

「がっ!」

 明郎もまた、叫び声を上げて陽平に折り重なるように倒れ込んでしまった。

 

「ふふっ」

 それを見て、ホウランがいたずらっ娘のように笑う。

「なァんだ、案外あっけなかったなァ、つまんないの」

 両手を腰にあてて、ふんと鼻を鳴らし、

 

「この男たちもあたいの敵じゃなかったかァ、あーあどっかにあたいにふさわしいオトコはいないのかなァ」

 そうつぶやいて、両手を後ろで組んでつまらなそうに立ち去ろうとする。

 その、ホウランの足が止まった。

 ふらつきながらも、明郎が立ち上がってきたからである。

 

「うう、効いた──クラクラするよ」

 ぶるるっと頭を振りながら、明郎がホウランに向き直る。

 

「驚いたよ、これが君の超能力かい。触っただけで相手に電撃を食らわせることができるとはね」

 まだ、目がちかちかするらしく、何度もまばたきを繰り返す。

 

 きょとんとして、そんな明郎をホウランは見つめた。

「あんた、あたいの電撃食らって平気なの?」

 

 下がってきたメガネを指で押し上げて、明郎が答える。

「かなり効いたね、並のスタンガン以上の電圧だったと思うよ。けど相手が悪かったね、昔から電気製品いじりをしてきて感電には慣れっこさ、黒コゲになるほどの電圧でなきゃオレには通じないよ」

「それ、本当?」

 ホウランが覗き込むようにして聞く。

 

「その通り、だから君の超能力もオレには無意味ということさ」

 内ポケットに手を突っ込んで、明郎は何か新しい道具を出そうと身構えた。

 しかし、ホウランの目の光が、段々変わっていくのに気づいて動きを止めた。

 

「やっと、やっと見つけたわ・・・」

 胸の前で両手を組んでつぶやくと、みるみるうちにホウランの瞳がうるうるしてきた。

 

「?」

 この不可解な態度に、明郎がとまどった瞬間、思いがけない素早さで、ホウランの身体が明郎に向かって飛びかかってきた。

「しまった!」

 よけきれない。

 明郎はそのまま押し倒され、きつく…

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