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斎木学園騒動記8−3

   ☆         ☆         ☆


 一方、一郎は快調な進撃を続けていた。

 現在位置は、二十階。

 ただしツインビルの、省吾たちとはちょうど反対側のビルの方へ入り込んでいた。

 

「ええい、撃て!敵は一人だぞっ」

 保安部の分隊長が叫んだ。その周りで五人ほどの保安部員が、サブマシンガンを撃ちまくっている。

 一郎がここまで上がってくる間に、どれだけの人数がやられたことか──。

 それに対して一郎は無傷。化け物みたいな奴だ。

 その思いが、保安部員たちの銃撃に激しさを加えた。

 狂ったように、連射する。

 

 その勢いに、さすがの一郎も前進することができず、廊下の角で機会を伺っていた。

 ふと、腰にぶら下げた手榴弾に目を落とす。

「よし」

 ライフルを足元に置き、銃声が途絶えた一瞬にその一つを投げつけた。

 しかし、使い慣れていないため。

「やば、撃針ピン抜くの忘れた──」

 大ボケ。それでは爆発しない。

 

 しかし、チャンスはできた。

 興奮した男たちは、手榴弾が投げ込まれただけでパニックになり、そんな事を確認する余裕もなくなっていた。

 気がそれた。

 すかさず一郎は床のM16を拾い、その先に取り付けられたグレネ−ドランチャ−を撃ち込んだ。

 

 吹っ飛ぶ瞬間、ようやく男たちは気づいた。手榴弾に撃針ピンが差し込んだままなのを───

 だからといって今更どうにもならず、ただ自分のマヌケぶりを悔やむのであった。

 血だらけの保安部分隊長は、それでも最後の力を振り絞って上司に報告をした。

「二十階も、突破されまし・・・た」


    ☆         ☆         ☆


「何という奴だ!FOSの保安部を子供扱いしとる」

 メディカルル−ムにおいて、田崎は頭を抱えた。

 

 そこでまた、インタ−カムが鳴った。

「私だ・・・何っ、第二ビルタワ−にも侵入者だと? 何とか押さえろ! 全員でかかれ、これ以上好き勝手にさせるな!」

 はあはあ言って、田崎は受話器を叩きつける。それを横で見ていたダニ−が、

「一体どうしたのじゃ?」

 と訊ねる。

 

「判らん、第一ビルタワ−には武装高校生、第二ビルタワ−には笑い猫やニンジャが現れて暴れまわっているそうだ」

 それを聞いて、ダニ−の目がぎらりと光る。

「笑い猫、だと?」

 ちろり、と舌なめずりして、いやらしい笑い声をたてた。

 

「面白い、よし、この日本支部にいるDセクションの連中を全員出すがよい。黒い風のエスパ−かFOSか、勝負じゃよ」

 田崎の顔が引きつった。

「奴らを・・・全員出すというのか? 侵入者ぐらいで? ジョニ−と兵藤で充分だろう」

 そういう田崎の表情には、かすかに嫌悪の色が浮かんでいる。

 

────Dセクション。

 

FOSの非合法作戦・・・すなわち暗殺、テロ、特殊調査活動などを専門に受け持つ、特殊な能力の持ち主で構成された集団であり、兵藤やジョニ−もこれに所属している。

 一郎の暗殺作戦の打合せ時におけるトラブルからも判るが、このDセクションに属するメンバ−は、F0Sの本部直属の実戦部隊であり、支部レベルで行動している非合法工作員たちとは一線を画しており、能力的にも格段の差がある。

 また本部直属であることから、組織内においては特別扱いであり、意見力もあるかなり自由な身分なのであった。

 

 今現在、この日本支部には兵藤とジョニ−の他に二名のメンバ−がいる。ダニ−はその四人を総動員して、侵入者にぶつけろというのだ。

 

「その通りじゃ、第一ビルの方に兵藤とアルコン、第二ビルの方にはジョニ−とホウランをそれぞれ送り込む」

 きっぱりと、ダニ−は言った。

「しかし、奴らは暴走する恐れがあるという理由で、部屋に閉じ込めてある欠陥品だぞ」

「保安部の連中を全滅させられてからでは遅いのじゃぞ?」

 ぎらりと底冷えのする視線で、ダニ−はにらみつけた。

 

「貴様も言っておったろうが、あれはまさしく相沢乱十郎の息子よ、あの化け物の再来じゃぞ!」

 ダニ−の言葉に、田崎は苦虫を噛みつぶしたような顔になり、気乗りしない感じでインタ−カムに手を伸ばした。

「私だ、Dセクションの連中を使う。アルコンとフウ・ホウランを部屋から起こせ──」


    ☆         ☆         ☆


「そらよっ、くらいやがれ!」

 そう言って、一郎は最後のグレネ−ドランチャ−を廊下に築いてあるバリケ−ドの奥に撃ち込んだ。

 爆発とともに二、三人が吹き飛ぶのが見える。

 バリケ−ドの奥に誰も動くものがいないのを確かめて、一郎は弾丸切れになったM16を放り投げ、右手に持ちかえたM60に、肩にかけていた弾帯を差し込む。

 

「今、四十階か」

 つぶやいて一郎は天井を見た。確かこのビルは五十階建てだから、もう少しで第一ビルタワ−の屋上になる。

 

 実際には、和美は地下に閉じ込められているのだが、一郎は根拠もなく最上階にいると信じて疑わなかった。

 囚われのお姫様は、高い塔のてっぺんにいるに決まっている、という強い固定観念があるらしい。

「もう少しだ、待ってろよ和美ィ」



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