斎木学園騒動記8−2
☆ ☆ ☆
「どうした、何の騒ぎだ」
非常事態を告げる警報が鳴り響くのを聞き、メディカルル−ムにいた田崎はインタ−カムに叫んだ。
『申し訳ございません、正体不明の高校生らしき少年が内部に進入して暴れています』
雑音が交じり聞き取りずらい音声がスピ−カ−から届いてきた。
「何をやっとるのだ? 保安部は高校生ごとき捕らえられんのか!」
田崎が怒鳴る。
「今こちらの部屋ではティンカ−ベルの精神治療中なのだ、デリケ−トな作業を行っているのに騒ぎ立てて邪魔をするんじゃない!」
そういう田崎の背後には様々な計測機器や医療機材、パソコンのディスプレイなどが、和美のベッドの周囲にごちゃごちゃと設置されている。
さらにそのセットの方法と取扱いについて、ダニ−が中心になって指示しているらしい。
『それが、どういう訳かマシンガンなどで武装していまして、我々では取り押さえることができ──』
ブツッ、という音がして会話が途切れる。
「?」
田崎は眉を寄せた。高校生が完全武装で攻撃をかけている?
「何だというのだ、上で何が起きているというのだ?」
☆ ☆ ☆
「う〜ん、何かドンパチ始まったようだね」
屋上でオペラグラスを覗く明郎がのんびりとつぶやいた。
一郎が突入した正面玄関から銃声がかすかに聞こえてくる。
「あれだけの装備をした一郎じゃ、ひょっとすると一個大隊並の戦力があるかもなあ」
「FOSの冥福を祈るでござる」
なんまんだぶ、なんまんだぶと明郎と陽平はやり出した。
「ねえ、あたしたちも早くいこうよ」
と、弥生。戦いたくてうずうずしながら省吾のそでを引っ張る。
「そうですね・・・しかし、まさか正面から突っ込むなんて・・・」
「一郎のこと?まあいいじゃないの、あれがあいつのやり方なんだから。それに、ちょうど陽動作戦にもなってることだし」
「陽動作戦ですか、それは言えますね」
攻め込む前からあれだけ目立つ行動をした一郎である。ビルの中でもさぞ派手に暴れていることだろう。
「よし、オレたちも行きましょう。皆さん捕まってください」
「?」
言われるままに三人は省吾にしがみついた。
「では行きます」
次の瞬間、三人は意識が飛んだ。
ぱっ、と目の前が暗くなり、重力がふっ、と消失するような実に奇妙な感覚であった。
と思うと、目の前に今までと全く別の光景が現れた。
「さあ着きましたよ」
「え?」
「ありゃ、ここひょっとすると──」
「FOSのビル!いつの間に?」
きょろきょろと周りを見回す三人に対し、省吾はにっこり笑いかけた。
「これが、テレポ−テ−ションですよ」
省吾の説明に、三人はああ、とうなずいた。
頭では理解したつもりでも、やはり一瞬のうちに数百メ−トルも移動してしまうというのは感覚がついてこない。
「今、我々は最上階にいます。和美さんがどの階にいるか判りませんので各階を見て回るしかありません。気をつけてくださいよ、いくら相沢が注意を引いてくれているとはいえ、ここは敵のど真ん中なんですからね」
と省吾が言ってるそばから、廊下を曲がって男が一人やってきた。四人とばっちり目が合う。
「あ・・・」
男は廊下の真ん中に立つ四人を見ていぶかしげな表情になって、少ししてやっと状況が飲み込めたらしかった。指をさしてわめきだす。
「な、何だお前たちは!どうやってここへ入り込んだ?」
ホルスタ−の銃を抜こうとしたのを見て、省吾の身体がすっと前に出る。
抜きかけた拳銃を押さえ、省吾のにこやかな顔はすでに男の目の前にいた。
「まあまあ、笑い猫って聞いたことないかい?」
くすくす笑う省吾を見て、男の顔がすっと青ざめた。
「まさか、お前があの──」
「おやすみ」
省吾は膝蹴りを男の腹にめりこませ、首に手刀を叩き込んだ。
白目をむいて気を失った男を床に横たえて、省吾は振り返った。
「さ、皆さん、このようにいつ敵に出会うか判りません。充分周囲に気を配りながら行動してください」
と、省吾は肩をすくめる。
「さ、行きましょうか」
と言った後、少しもたたないうちに今度は逆の角から人の気配がした。しかも複数。
今度は省吾も動く間がなかった。
まず一人が倒れている男に気づいた。四人と男を見比べて、目つきが変わる。
「貴様ら、侵入者か?どこから入り込んだっ!」
「動くな、撃つぞ!」
五人の男が一斉に拳銃を構えた。この距離では、まず外さないだろう。学生たち四人は動けなかった。
「ど、どうする?」
パニックに陥った明郎がわめく。
「思いどおりにはいかないって訳ね。現実ってきびしいわ──」
忍び込んだ途端に見つかってしまい、絶体絶命のピンチである。 その時、動いたのは陽平であった。
「オレにまかせるでござる」
「どうするの?」
「こうするでござる!」
叫ぶなり、陽平はふところから黒い玉を取り出し、男たちの足元へ投げつけた。
BOMB!
閃光とともに、おびただしい煙が視界を覆い尽くした。
「うおおっ?」
「それ、逃げるでござる!」
「どっちーっ!?」
「こっちかい?」
「そっちだ!!」
「いや、あっちだ!!」
一面煙幕に覆われているので、右も左も判らない。
「侵入者め、動くな!」
「ばか! オレだっ!」
「逃げられんぞっ!」
「落ちつけっバカども!」
五里霧中の状態で、けたたましい騒ぎになってしまった。
敵味方の区別もなく、隣の人間の顔すら判らぬまま、FOSの男たちは銃を発砲することもできずに怒鳴るのみであった。
だが、エアコンが煙を吸い出す頃には、その騒ぎも収まった。
四人の姿はすでに無かったのである。