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斎木学園騒動記8−1

 ACT・8


 目の前にそびえる高層ビル。

 全体の半ばから上が二又に分かれているのが特徴的な、ツインビルだ。

 

 それを見上げるやや低めのビルの屋上に、一郎たちは陣取っていた。

 

 むっとする、熱気をはらんだ強いビル風が吹き抜けていく。

「あのツインビルのどこかに、和美さんはいます」

 風に髪をなびかせながら、省吾が口を開いた。

「残念ながら、内部の状況まで調べているヒマがなくて、まるで、迷路の中から和美さんを捜すような訳なんですけどね」

 

「なあに、いることが確かならいいさ。よく見つけ出してくれたな、省吾」

 腕組みした一郎、じっと眼前のビルを見上げている。

 雄大なコンクリ−トの塔が、鏡のような窓ガラスに、青空と白い雲を映し出している。

 その姿が、一郎たちにとっては巨大な砦のように見えた。悪い魔法使い共にさらわれたお姫様を救い出そうとする正義の騎士のような気分であった。

 

「“レボ・コ−ポレ−ション日本支社”──薬品、化粧品、医療機材、健康器具などを扱う会社か、本社はアメリカ──なるほど、玉置のバカが分析したデ−タも当たってたみたいね。たいしたもんだわ」

 出かける前に明郎にインタ−ネットで調べてもらった、目の前の会社のプロフィ−ルを記したメモを見ながら、弥生がつぶやく。

「じゃあさ、省吾はテレポ−テ−ションできるんだから、ちょっと行って、すぐに連れ帰ってくればいいじゃないの」

 修羅王で肩をぽんぽん叩きながら弥生、省吾に向き直る。

 

「あ、そ−か」

「そりゃ、楽ちんでござるな」

 

 それを聞いて、省吾は肩をすくめた。

「本当はそれができればいいんでしょうが──ESPといっても、そんなに万能じゃないんですよ」

 軽く、ため息をつく。

「あれだけ広いビルから、人一人を捜し出すだけでも一苦労ですよね。その上、相手は高校生相手にさえ戦車やヘリコプタ−を持ち出すような、頭のブッ飛んだ連中ですからね。どうしても、一人の力で済ませられるような仕事ではないんですよ」

 自分の力不足を嘆くように、省吾、唇をかむ。

「一度失敗すれば、もう二度と助け出すことはできないでしょう。せめて沢村さんがいてくれさえすれば、囮になってもらって時間をかせげるんですが──」

 

 だが、今、沢村はいない。

 バイクで戦車とやり合った後、一体どうなったのか、生死すらも判らない。

 

「いいぜ、囮の役はオレが引き受ける」

 ニヤリと、ふてぶてしく笑って振り返った一郎は、足元の大きなザックを広げた。

「何よ、それ?」

 のぞき込んだ弥生が、ぽかんと口を開ける。

 

 無視して、一郎はザックの中身をせっせと身につけていく。

 いつの間に、こんなアイテムを準備したのか。

 ベルトには、手榴弾が五個ぶら下がり、ショルダ−ホルスタ−にはグリズリ−四五マグナムが収まる。

 弾帯は袈裟がけにしょい込み、腰にウ−ジ−サブマシンガンと刃渡り三十センチはあるでっかいサバイバルナイフ。

 額にぎゅっと白のハチマキを締め、右手にM60、左手にはグレネ−ドが取り付けられたM16ライフルを握りしめた。

 それだけではない、さらに一郎の背には対空ミサイルランチャ−が背負われていた。

 

「あ、あのなあ──」

 誰ともなくつぶやく。

 両手に持ったM60とM16の感触を味わい、満足気な一郎に、省吾あきれつつ、

「どうでもいいけど──ね。どっからそんなもん手に入れたんだい?」

「ふっ、企業秘密だ」

 うれしそうに、一郎うそぶく。

 

「いや、オレも人殺しをするつもりはねえからよ、弾丸には特殊なもんを使ってるから、当たっても死にはしねえさ」

「そのミサイルや手榴弾は?」

「こいつらも火薬の量を減らしたり、ベアリングを抜いてるから大丈夫だろ、多分」

 

 改めて、一郎の無茶な一面を発見した弥生・陽平・明郎は、う〜ん、と頭を抱え込んでしまった。

「──まあそれはともかく、オレの考えでは、君たちには普通の高校生として正面玄関に入り、大声で騒いでもらっていればいいと思っているんだけどね。

 FOSの連中だって、表向きは一般企業として振る舞っている訳だから、高校生が騒いでいるだけならあまり荒っぽい真似はできないだろうし──」

 

 と、省吾が気を取り直して、簡単に救出作戦のシナリオを説明し始めたのだが、


「よし、正面玄関で騒ぎを起こせばいいんだな?」

 頭に血が上っている一郎は、ろくに話を聞いていない。

 それどころか、ライフルを抱えて屋上の鉄柵をひょいっと乗り越えた。

「それじゃ−な、先に行くぜ」

 軽くピ−スサインをするのを見て、あわてて省吾が止めようとする。

 

「ちょ、ちょっと待った。先に行くって・・・あ────っ!」

 目の前で一郎、無造作に飛び降りた。

 

「おりゃあああああっ!」

 一郎の秘技”壁走り”。

 重力を無視して、建物の壁を走り回るという常識外れの荒ワザであるが、ビルの屋上からというのは一郎にしても無謀な挑戦であろう。

 

 一郎の耳元で風がごおごおとうなり、見る見るうちに地面が近づいてくる。

 その途中で、一郎の髪がざわざわっと逆立った。パワ−全開の証拠である。

「やってやるぜ!」

 

 どごおおおんっ!

 

 着地、というにはあまりにも壮絶であった。

 近くにいた通行人たちは、爆弾でも落ちたのかと思った。

 コンクリ−トの道路に、直径四mもの窪みができ、ヒビが放射状に走っている。

 

その中心にいるのは人だ。人──らしい。

 おそるおそる、ヤジ馬たちがのぞき込む。

 

「はら−、こりゃまた一郎らしいでござるな」

「何もそんなに慌てることないと思うけどねえ」

 などと、のんびり会話する陽平と明郎は、屋上からオペラグラスで地上の様子を観察していた。

 

「あのね、いくら一郎でもあれはちょっとやりすぎじゃないの?」

 さすがの弥生も心配になる。

「大丈夫でござるよ、三十秒もすれば──」

「あ、動いた!生きてる生きてる!」

 

 地上の通行人の悲鳴とどよめきが、ここまで聞こえてきた。相当パニックに陥っているようである。一般人には、宇宙人にでも見えたのだろう。

 また、省吾はというと、平然と立ち上がった地上の一郎を見て、これ以上は無いというぐらいに、口を大きく広げてしまっていた。

 まだ、彼は一郎をよく判っていないようだ。

 その肩を、ぽんぽんと弥生が叩く。

 

「あまり、考え込まない方がいいわよ。身がもたないから」

 黙ったまま、省吾はうなずいた。


 ヒビ割れたアスファルトから、タ−ミネ−タ−のごとくむくりと起き上がった一郎は、真っすぐFOSのビルを見据えた。

「和美・・・」

 気の弱そうな少女の顔が、脳裏に浮かぶ。

 一郎は走りだした。

 

「今行くぞっ!」

 咆哮しつつ、全身に武器をまとった高校生が突っ込んでいく。

 

 ビルの入口には、ガ−ドマンが二名立っていたが、一郎を止める事はできなかった。

 自動ドアが開くのも待たずに、彼はぶ厚いガラスを蹴破って突入した。

 ロビ−になっている。

 さっき省吾に言われたとおり、内部の見取り図など手に入らなかったから、まさに迷路である。

 一体このばかでかいビルのどこに、和美はいるのか?

 一郎は、素早くエレベ−タ−の表示を読み取った。

 B2から五〇階までの数字が示されている。

 

「地下か、上か・・・よし、こっちだ!」

 考えたのは一瞬であった。一郎は階段を駆け上がり出す。

 騒ぎに気づいたガ−ドマンの集団が、ぞろぞろ廊下に出てきた。

「どけ−っ!」

 叫びつつ、片手撃ちでM60をぶっ放す。腹に響く低い連射音とともに、ザコは吹っ飛び、進路を開けた。

 

 突然の襲撃に、FOSは対応できない。

 一郎を止めることのできる者はいなかった。



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