斎木学園騒動記・間奏6
☆ ☆ ☆
「いや・・・」
和美はその一部始終が『見えて』いた。
頭の中に流れ込んでくる殺人現場の強烈なイメ−ジ。
少女の繊細な感受性にとって、とてつもないダメ−ジを与える光景だった。
頭を抱え込んでうずくまってしまう。
「カズミ? 落ちついて、一体何を見たの?」
エレナが落ちついた口調で問いかける。
「落ちついて、力をコントロ−ルしなさい。あなたはまず自分の巨大な能力を制御するところから始めなくてはならないわ、不安定な状態でESPを発揮するのは必ず不幸な結果を残すの。でもそれができるようになれば、また考え方も変わってくるわ──」
そう言って、例の暖かい波動を送り込んでくる。
しかし、今の和美には彼女の声は届かないようだった。
目の前に広がる血塗られたイメ−ジ。笑う死体のおぞましい姿。
全身に感じる、心地よいエナジ−。安心と信頼感を覚えるエレナという女性の優しげな雰囲気──。
その間に横たわるギャップ。
思考の混乱。
激しい頭痛──────。
「いや・・・」
目を固く閉じて、和美はつぶやいた。
「カズミ、いけないわ、気持ちを落ちつかせなさい!」
エレナは和美の肩に手をかけた。
びくん。
感電したように、和美は身体をすくませた。そして────、
和美はある情景を思い出していた。
母親に言われたこと。
『斎木学園に行きなさい』
立て続けに色々な事があって、今まで忘れていたが、とても大事なことを母は言い残したのだ。
『そこにあなたの生き別れのお兄さんがいます。名前は──』
「カズミ、カズミッ!私の声が聞こえる?」
エレナが肩を揺さぶって、和美の思考を中断させた。
途端にあふれる、おぞましいイメ−ジ。
「やめてっ、あなたたちは信用できないっ」
叫ぶと同時に、髪が青く逆立っていく。
「カズミ──」
「出てって!」
ヒステリックに叫んだとき、一瞬の閃光が迸った。
そして、猛烈なパワ−が和美を中心に爆発を起こしたのだった。
☆ ☆ ☆
「な、何が起きたのだっ!」
建物自体が揺れるような衝撃があった。田崎はミサイル攻撃を受けていると報告されても信じたであろう。
「ティンカ−ベルです。測定不能の数値が検出された途端に暴走状態になりました!」
「エレナは何をしていたのだっ」
「監視カメラが破損してしまい、様子が判りません!」
何も写さないモニタ−からは、雑音しか聞こえてこない。
田崎は唇を噛んだ。
☆ ☆ ☆
メディカルル−ムでは、凄まじい衝撃に、和美自身が呆然としてしまっていた。
極端な能力のパワ−の変動の波が、和美の精神状態も不安定にさせているのだろうか。びくびくと、ちょっとした物音に反応しながら和美は横たわるエレナの身体に視線を落とした。
虫の息ではあるが、呼吸をしているようだ。
しかし、砕けたコンクリ−トの破片や埃だらけの身体は、赤い血にまみれている。
“自分がやったのだ”
目の前が暗くなっていく。
“呪われた化け物の力で、人を傷つけてしまった”
ばっ、と両手で顔を覆い、和美はすすり泣いた。
その、自分の身体が音をたてて床に倒れたが、その寸前に彼女の意識は途切れていた──────。