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斎木学園騒動記・間奏1

          〜 間 奏 〜


 目の前にはずらりと並んだ高層ビル。

 青空を背景に、ガラスが日光のきらめきを反射させている姿は、雄大なコンクリートの城を連想させる。


 その間を強いビル風が吹き抜けていく。


 一方、それら高層ビル群からやや離れたビルの屋上に、一人の男が立っていた。

 身体つきや雰囲気に、まだ少年の面影の残る若い男である。両目を覆うほど長い前髪が印象的だ。


 高層ビルのビル風の影響で、その場所にもかなりの強風が吹きつけていた。

 ごお、と少年の身に叩きつけてくるように風が吹く。

 その風に、一瞬少年の前髪が乱れ、隠れていた両眼がのぞいた。 しかし、固く閉じられたその瞳は何も見ていない。


────彼は盲目なのだった。


「やれやれ」

 右手で髪をなでつけながら、少年はうんざりしたような声を出した。

「あれがFOSの極東支部か──まさかこんな目立つ所に堂々と居を構えているとは思わなかったなあ」


 あきれた様子で少年は苦笑する。

 変だ。

 この少年の口振りからすると、まるで目の前の景色が見えているようだ。しかし、彼の両眼は一度も開いてはおらず、完全な失明状態にあることは間違いない。

 何も見えるはずがないのだ。

 それでも盲目の少年は、高層ビルをじっくりと上から下まで『見つめて』いる。

 観察している。

 しばらくの間そうして身動きしなかったが、やがて肩の力を抜いてため息をついた。


「ダメか──オレ程度の透視能力じゃ、ここから和美さんを探し当てるのはちょっと無理みたいだなあ」

 少年は冗談にしか聞こえないことを平然とつぶやいた。

「といって、むやみに忍び込むわけにもいかないし──せめて沢村さんがいてくれれば」


 軽く唇をかんで、思わずグチをこぼしてしまった事に肩をすくめる。

“ま、言ってもしょうがないか”

 そういった意味がその動作の中には含まれているようだ。


 彼の背後で、階段に続くスチール製のドアが開けられたのはその時だった。目付きの悪い、ごつい顔立ちの警備員がぬっと姿を現したのだ。

 手に持った警棒を、これみよがしにぶらぶら振ってみせている。

「こらあ、そんな所で何をやっとるっ!」

 じろりと少年の姿をにらみつけると、野太い声を出した。

 立入り禁止の屋上に入り込んだ人間を注意するというよりは、単に人をおびえさせるための声のかけ方であった。

 この警備員は、役職をかさに着て人を恐がらせるのが趣味であるようだ。

 クッチャクッチャと、ガムを噛むいやらしい音をさせながら警備員は背後に近寄ってきたが、少年は大して気にしていないらしい。

 彼の関心はあくまで目の前の高層ビルにあるのだ。

 並の人間ならば青ざめてしまうはずの怒声をあっさり無視され、警備員のこめかみに青スジが立つ。


「小僧、どこから入ったのか知らねえが、ここは立入り禁止なんだよ」

 思い切りドスのきいた声をかけたとき、ようやく少年は振り返った。

 その顔が緊張のかけらも示していないことに気づき、さらに警備員は不機嫌になる。

「おい小僧、名前を言え」


 警備員の不遜な物言いに、少年は薄笑いを浮かべてつぶやいた。


「笑い猫さ」


 その次の瞬間、唐突に少年の姿が消え去るのを見て警備員は硬直してしまった。

 何が起こったのか理解できず、警備員はぽかんと口を開けた。

 彼の脳裏には、消える寸前に少年が浮かべた笑みだけが印象づけられた────






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