斎木学園騒動記4−5
☆ ☆ ☆
戦争だ戦争だ、と、わいわいやっている女生徒の前に、『それ』は突然現れた。
血まみれになった省吾であった。
テレポートで逃げてきたのだが、いきなり目の前に血だらけの男に出現されて、その女生徒は悲鳴をあげてしまった。
ただの悲鳴ではないのだ。
彼女こそはSF研究部三人衆の一人、『高野陽子』別名“歩く音響爆弾”。
そのきゃしゃな身体と顔つきからは、想像できない大声を張り上げる少女である。
いや、彼女のはすでに「大声」などというレベルとは掛け離れた、「音の核爆弾」とさえ言われている。
その威力は、走っているトラックをひっくり返した事もあるという。
今回は特にひどい。興奮していたところへ、いきなりショックを受けたものだから、驚きも叫びの量も普段より倍加した。
「きゃァあああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!」
恐ろしい光景であった。
陽子たちのいるのは、本校舎の二階の廊下だが、今の叫び声により片っ端からガラスが砕け、廊下にあふれてわいわいやっていた生徒すべてが吹っ飛ばされた。
「な、何だ? 何が起こった!」
突然、校舎の一部が爆発したような騒ぎに、外にいた一郎は叫んだ。
「大変だ!高野女史が叫んだァ!」
「駄目です。二階にいた連中は全員戦闘不能!」
誰かが伝令して回る。
すると、今度は新校舎の三階から、何かが白煙をあげて四方八方に飛び出した。
逃げまどう地上の生徒のすき間に着弾すると、白煙はさらに広まり、校舎の壁や離れた地面にもそれは着弾し、白煙を広めた。
「何だこりゃあ、毒ガスか?・・・へぇっくしょんっ!」
一郎は、どでかいくしゃみをひとつした。
「ほ、報告します・・・こ、これは、ぶしゃっ、科学部の連中が開発した。へくしょっ、クシャミ・ミサイルだそうです。っくしょん!」
「さっきの・・・高野女史の叫び声のショックで、暴発させてしまったそうです」
すっかり伝令係と化した、新聞部の一年生が伝えて回る。
「まったく、何をやってるのよあの連中は、はっくしょんっくしょっ、くしゅんっ!」
「おお、弥生、陽平、明郎。和美は無事か?」
「は・・・はい、あたしは大丈夫です。くしゅんっっ!」
この騒ぎの中、たまらずに弥生たちは一郎のところへ来たらしい。
ほとんど、全校くしゃみ大会になってしまっている。
学生もFOSの連中も、くしゃみを連発して顔をくしゃくしゃにしていた。
とりあえずこのアクシデントで、殴り合いは一時お休みのようだ。
と、思いきや、またもや校舎の一角が爆発を起こした。
「今度は何だ!」
「また陽子が叫んだの?」
今の爆風で、少しはガスが薄れて、くしゃみ大会もおさまりかけた。
だがしかし、アクシデントというものは重なるものであるらしい。
くしゃみで鼻の頭を赤くした和美が、息をのんで一郎のシャツにしがみついた。
校門を指差す。
「せ・・・せ・・・」
息をつまらせて、言葉が出てこない。しかし、言わなくても充分だった。
その瞬間、全校生徒が声をそろえたのだ。
「戦車だあっ!!」
叫び声に呼応して、戦車の主砲が火を吹く。
校庭の一角に着弾して、ずーん、と火柱が上がった。たちまちパニックが巻き起こる。
「ちっくしょう! ついにお出ましかよ、マスターは何やってるんだ!?」
舌打ちして、一郎がぼやく。
その間にもまた一発、校舎の壁に撃ち込まれて、コンクリートの塊が崩れ落ちる。
形勢は逆転していた。
戦車の出現により、それまでの学生側の勢いというものが奪われてしまい、チームワークに乱れが生じたのだ。
それまで五分に渡り合っていた、ドーピング軍団との闘いも具合が悪い。
「みんな落ちつきなさい! 負けるような相手じゃないわよ!」
弥生がそう言ってみんなを励ますのだが、こうなった以上流れは向こうにある。
「くそォォ・・・むっ?」
ぎりぎりと歯がみする一郎の足元に、ふいに何かが出現した。
血まみれの省吾であった。
「沖田か、やられたのか?」
「う・・・相沢、悪いな、こんなはずじゃなかったんだけれども・・・」
呻くように言って、省吾は、げふっ、と血を吐いた。
「相沢・・・今すぐ和美さんを連れて逃げてくれ」
「何だと?このまま尻尾まけってのかよ!」
一郎の目の色が変わった。
「・・・聞いてくれよ、敵は思ったより強大だったんだ・・・甘く見てた訳じゃないけどオレはこのザマだし、恐らく沢村さんもやられちまった」
そこまで言うと、省吾はまた激しく咳き込んだ。
一郎はぎゅっと拳を握りしめ、歯を食いしばって立っている。
ずーん。 背後では戦車砲の音。
学生とFOSの男たちが争う声。 絶叫。 悲鳴─────。
くいっ、とシャツを引っ張られて、一郎は振り向いた。
和美。
「もう・・・」
小柄な少女は目に涙をにじませ、じっと一郎を見つめていた。
「もうやめて下さい、あたしのせいでこんな事になったんです・・・あたしがあの人たちについていけば、誰にも迷惑はかからなかったのに・・・・」
すう、と和美の目から涙が流れる。
その途端、一郎の中で何かがふくれあがった。
いきなり和美の胸ぐらをつかんで、強く引き寄せる。
「いいかげんにしろっ!」
そばにいた弥生、陽平、明郎までもぎょっとするような迫力の一喝であった。
一郎は本気で怒っているようだ。胸ぐらをつかんだ腕に、容赦ない力が込められているのが判る。
「そういう事を口にするな! いつまでもメソメソしやがって、自分の殻に閉じ込もったままで何ができる?悲劇のヒロインぶってあきらめきってりゃ、何もできっこねーだろう!? 少しでも可能性のあるもんなら、絶対にあきらめるんじゃねェよ。自分自身の力ってものをもっと信じたらどうだ? 誰だってひとつくらいは他人に負けない物を持ってるはずだ。お前にだってあるだろう!それを使ってみろよ!
自分で自分の道を切り開いていくんだよ!」
そう言った一郎の気迫に押されて、和美は一言もしゃべることができなかった。
一郎はつかんでいた手を離し、みんなに背を向けた。
すうっ、と目が細くなる。
誰も気づかなかったのだが、そちらにひっそりと兵藤が立っていたのだ。
「いい演説だった」
にいっ、と兵藤は唇のはしをつり上げた。
しかし、目は笑っていない。
その冷たい目を、一郎は怒りに燃える瞳でにらみ返した。
「弥生、沖田を医務室へ連れてけ」
視線はそのままでぼそりと言う。
「わ・・・判ったわ」
「相沢、よせ・・・そいつは人間じゃないんだ」
弥生の肩にもたれかかりながら、省吾は訴えた。
それを聞いているのか、一郎は兵藤をにらみつけたまま微動だにしない。
明郎が肩をすくめる。
「ムダだよ、今の一郎には何言ってもさ」
「その通りよ、こいつは目の前の敵をさけて通れるような奴じゃないわ」
弥生もため息をついて首を振った。
「しかし・・・」
「ええい、ごめんね」
まだ何か言おうとする省吾に、弥生は当て身をくらわせて気を失わせた。
「それじゃ、後は頼んだわよ」
言うと弥生は、ぐったりした省吾の身体をずるずると引きずって行った。
それを見て兵藤は鼻で笑う。
「笑い猫も沢村も、噂ほどの事はないな。何だあのザマは」
「だまれ・・・」
低く低く、一郎は言った。だが、平然と兵藤は言葉を続ける。
「結局、小娘一人守りきれずに戦線離脱、そのおかげでこの学校まで破壊されてしまう事になるわけか・・・」
「だまれっ!」
一郎は叫んだ。怒り心頭に達していた。
「兵藤・・・だったな。今度はオレ、相沢一郎が相手になってやるよ」
心配そうな表情で、シャツをつかむ和美を横へ押しやって一郎は言った。
「おとなしくその娘を渡した方が身のためだぞ」
「るせえっ!」
一直線に、一郎は兵藤にぶつかっていった。
二人の凄まじい攻防が始まる。
目でとらえるのがやっと、というスピードで二人の手足、身体が動く。
兵藤の繰り出すパンチ、手刀、貫手、蹴り、いずれもスピード・タイミング共に申し分なかった。
一郎もまたそれらをかわし、ブロックしてカウンターでパンチを出す。
一瞬たりとも気を抜けない、互角の闘いであった。
わずかなまばたきすら負けにつながる勝負である。見ているほうが汗だくになりそうであった。
途切れることなく二人の攻防は続いたが、初めて互いのパンチが相手に当たった。
クロスカウンターであった。
どちらも数メートル吹っ飛び、すぐさま起き上がった。
「ぐぅ」
しかし、兵藤は呻いて膝をついた。かなり効いたらしい。だが、一郎のダメージも深いようだ、立ったのはいいがふらついている。
肩で息をして、二人はにらみ合った。
ぺろり、と兵藤は唇をなめた。
「らちがあかないな・・・」
つぶやくと、兵藤の目つきが変わった。
「奥の手を、出すか」
ひゅううう─────・・・と、長い呼気がその口からもれた。
ぐり、と目がつり上がり、ギラギラと殺気で光り始める。そしてめくれあがった紅い唇から見えているのは、肉食獣の持つ牙だ。
両手の指から鋭いツメが伸び、兵藤は両手を地についた。
四足獣のような姿勢になる。
ふい─────っ!
笛のような声を出し、一郎をにらみ上げた。
“猫!”
そのイメージが一郎の頭に浮かび上がった途端! 今まで以上のスピードで兵藤が飛び掛かってきた。
「くうっっ!」
かろうじて直撃は食らわなかったが、一郎の右肩を兵藤の鋭いツメがえぐっていった。
間髪入れずに、兵藤の身体が跳ね上がり一郎に覆いかぶさった。
のどに牙をたてようというのだ、必死で一郎は抵抗した。
肩に兵藤のツメがめり込んで激痛が走ったが、かといって腕の力をゆるめる訳にもいかない。
ぎりりっ。
一郎の奥歯が鳴り、その音を合図にざあっと一郎の髪が逆立った。
同時に、一郎の全身にこれまでとは比べ物にならないパワーがみなぎる。
兵藤が体内に妙な“気”を持っているのと同様に、一郎にもこの力があったのだ。
今にものどを噛み切ろうとしていた兵藤は、じりじりと一郎の身体から引きはがされ、巴投げで一気に吹っ飛んだ。
だが、さすがは山猫、鮮やかな身のこなしで足から着地すると同時にダッシュした。
一郎に向かって、ではない。
彼の進行方向には、和美がいた。
風のように陽平と明郎の間をすり抜け、逃げようとした和美の首を兵藤はがっちりつかまえた。
「和美ちゃん!」
数瞬遅れて、陽平と明郎は振り返った。陽平の手には、得意の手裏剣が握られている。
「おっと、全員動くな」
すっ、と兵藤は和美ののどにツメを当てる。
ナイフ以上の切れ味を見せたツメである、和美ののどを切り裂く事など一瞬であろう。
「てめえ、汚ねえぞ!」
すごい形相で一郎は叫んだ。それに対して兵藤は唇のはしをつり上げつつ、
「オレの目的はこの小娘の入手なんでな、貴様とのお遊びはここまでだ」
「野郎ォ・・・ふざけやがって」
手も足も出ない一郎、牙をむいてうなった。
和美は、のどにツメを当てられたまま、横目で一郎の顔を見た。
ずーん。ずーん。と、一郎たちの背後でたて続けに戦車砲が火を吹いている。
それらは確実に校舎を破壊していく。また、いくつかは校庭に着弾し、何人かの生徒が吹っ飛ばされた。
FOSの連中とまともにやり合っているヤツも、ほとんどいなくなっている。
血まみれになって地面に横たわっている奴。
顔中アザだらけだというのに、それでも立ち向かっていく奴。
「ちくしょう・・・」 明郎がうなる。「オレたちの学校が・・・」
燃え出した教室に、消火器を持って走ってくる女生徒。
バケツでやたらに水をかけて、大火事になるのを防ごうとする奴。
「斎木学園が燃えてるでござる・・・」
黒々と天をつく煙を、陽平は茫然と見上げた。
和美ははがいじめにされながら、それだけのものを見た。
これだけの騒ぎになったのは誰のせいだ?
そう、自問してみる。
あたしだ。あたしがみんなに甘えたから、みんなに迷惑をかけてしまったんだ。
答えはすぐに出た。
あたしのために、みんなが闘ってくれているというのに、当の本人は何もしようとはしなかった。甘えていたんだ。だから一郎さんは怒ったのだ。
和美の目の色がふいに変わった。強い意志の光を放ち始める。
甘えていてはいけないんだ。これはあたしのための闘いではないか。
ふいに、腕の中の少女に何かが起こっているのに気づいて、兵藤は眉をひそめた。
「むう・・・」
そして彼の腕の中で少女の黒髪は、光を放つ青い髪へと変わった。
同時に、和美の全身にエネルギーが満ちあふれる。
“そう、これはあたしの戦いだ。あたしが戦わなくてはいけないんだ!”
声なき和美の叫び。
その瞬間、空間がぴいんと音をたてた。
「うおっ!」
兵藤には何が起こったのか判らなかった。
急に見えない力で和美を捕まえていた腕をもぎ離され、自分の身体が宙に持ち上げられたのだ。
一度、空中で停止して、兵藤は逆さまに地面に叩きつけられた。
「げっ」
ものすごいパワーに、さすがの兵藤でも動けなくなる。
それを見ようともせずに、和美は視線を戦車に向けた。
砲を発射させるのが見えた。
すっ、と和美が右手をそちらへ差し延べると、発射された砲弾は空中で停止して、爆発も起こさず地面に落ちた。
「ティンカーベルだ!取り押さえろっ!」
地面に横たわったまま、兵藤は指示を出した。
すると、戦車が猛スピードでこちらへ向かってくる。
仁王立ちのまま、青い髪の少女は迎え撃った。しかめた眉が精神集中を示している。
眼前に迫った重戦車に、和美は無形のエネルギーを叩きつけた。
周りの者はその一瞬、戦車のボディーが大きくたわんだのを見た。
その瞬間!!
まるで巨人の足に踏み潰されたような形で、戦車は爆発してしまった。
ごおおお・・・と爆発の余韻が校庭に響く。
すさまじい和美のサイコキネシスであった。
この学園をあれほど苦しめたFOSの戦車を、あっけなく倒してしまった。
「これが“ティンカーベル”か・・・・」
ふらふらと立ち上がり、兵藤は茫然とつぶやいた。
青い髪をなびかせる和美を見つめる。
「化け物め・・・」
吐き捨てるようにつぶやいた。
途端に、びくっと和美は身体を震わせた。
────化け物。
その一言が和美の胸を貫いたのだ。改めて、和美は自分のやったことを見た。
煙を出してくすぶり続ける、戦車だったもの。
自分がちょっと念じただけで、ただの鉄クズと化したのだ。
はっとして、周りを見回す。
みんなが、じっと和美を見つめていた。────その目つき。
彼女の一番恐れていた事態になってしまったのだ。
他人が自分を見る時の目つき。これが怖くて、今までエスパーだという事を隠し続けて来たというのに・・・・
すーっと、和美の身体から力が抜けていった。髪の色が青から黒に戻り、極度の緊張に耐えきれずに、気が遠くなっていく。
「和美ィっ!」
崩れるように倒れ込んだ彼女に、一郎が走り寄る。
「一郎、後ろでござる!」
無防備だった一郎の背後に、兵藤が迫っていた。
強力な突きを背骨にくらい、一郎は呼吸ができなくなった。
「かはっ!」
と声をあげ、のけぞって倒れる。その間に兵藤は、失神した和美に駆け寄りかつぎ上げた。
「て・・め・・え・・・」
かすれた声で一郎は言った。
「さんざん手を焼かせてくれたな」
冷たい声で兵藤は言った。
「だが、これで本当にゲームオーバーだ」
自信に満ちた態度であった。
すでに、和美を抱えた兵藤と一郎を中心にして、人の円ができている。彼らはいずれも激しい戦闘に耐えた、斎木学園選りすぐりの猛者ばかりだ。
いかな兵藤といえど、和美を連れて逃げることはできまい。
完全に逃げ道はない。
じりっ、と生徒たちが兵藤に迫る。しかし、兵藤は不敵な笑みを浮かべた。
その時、上空から腹に響くヘリのローター音がとどろいた。
一郎の顔がひきつる。空からという手があった!
ざわめく学生たちは、何か空気を切るような音を聞いた。
ひゅるるる・・・・
「げっ、まさか!?」 と思うやいなや、いきなり校庭の一角が爆発して数十人が吹っ飛ばされた。
空対地ミサイルだ! もう無茶苦茶であった。
大混乱を起こす学生の間に、二発目が撃ち込まれ、地面がめくれあがる。
そしてそのヘリは、戦闘機じみたスピードで上空を旋回するや、まるで墜落でもするような勢いで着陸してきた。
ばからしくなるようなヘリだ。なんでこんなヘリが使用されなきゃならないのか。
『ベルUH・7SB』それがこのヘリの名である。
そんなにまでして和美を手に入れたいのか。
ハッチを開けてジョニーが顔を出した。サブマシンガン片手に、気障にウインクする。
「ハーイ、山猫、お迎えに来ましたよ」
ひゅんひゅんと音をたてて回るローターの風で、ジョニーの金髪がなびく。
兵藤は和美をかついだまま、ヘリに乗り込んでいった。
「ま、待ちやがれっ!」
吠えて、一郎は走った。
ここで逃がしたら、もう二度と和美には会えなくなるような気がするのだ。
“冗談じゃねえ、守ってやるって約束したんだ”
「おやおや、熱血ボーイがやってきますよ」
フッと笑って、ジョニーは手にしたサブマシンガンを連射した。
一郎はぎりぎり横に跳んでかわす。髪の毛はずっと逆立ちっぱなしだ。
怒りと焦りのため、めまいがしてきた。
タタタタ・・・とジョニーのサブマシンガンが再び火を吹く。
左肩に激痛が走り、一郎はひっくり返った。
「おおおっ!」 すぐに起き上がり、走り出す。
ヘリが浮かび上がった。
一郎は気が違ったように走った。一歩一歩がやけにまだるっこしい。
まばたきする時間の中で、兵藤が薄笑いを浮かべながら何かを投げつけたような気がした。
何だか判らなかった。
それは足元で炸裂したようだった。天と地が逆転する。
自分が吹っ飛ばされたのが理解できず、一郎はまともに地面に叩きつけられた。
「和・・美ィ・・・」
薄れていく意識の中で、一郎は飛び去るヘリの姿を見つめていた。そして────、
ふっ、と気が遠くなっていった。
「一郎ォ!」
「しっかりするでござる!」
気を失った一郎には、みんなが駆け寄ってきたのも理解できなかった・・・
FOSのドーピング軍団も、そのスキに一斉にバイクで逃げ出していった。
黒煙の立ち昇る斎木学園に、静けさが戻ってきた。
戦闘は終結したのだ。
・・・・最悪の形で。
☆ ☆ ☆
「まあ、こんなところか」
静かになった校門の所に、一人の男が立っていた。
サングラスに口ヒゲの男である。ひどくやせているが、なんとなく映画男優に似た感じの人がいたような気もする。
「やれやれ、あいつを信じて手ェ出すのをひかえりゃこのザマか、修行が足りねェなあ、まったく・・・」
ぶつぶつ言って男は煙草をくわえ、ライターを探す。
ない。
仕方なく、火をつけない煙草をくわえたまま、男は校舎へと歩き出した。