斎木学園騒動記4−4
みなさーん?
ゴールデンウィークはいかがお過ごしですか?
明日やあさって、ちょっと雨模様なのは、
やっぱ雨ふらしが、でかける予定を立てたからでしょか?
(泣
☆ ☆ ☆
「ひょおおお」
奇妙な叫び声をあげて、バイクの男が廊下を突っ走る。
片手に持ったチェーンを振り回して、窓を片っ端から割っていき、女生徒が悲鳴をあげて逃げまどう。
猛烈な勢いで走り続けるバイクの前に、ひょい、とモップの柄が差し出された。
それにラリアートを食らう形になり、のどを引っ掛けた男をそのままにして、バイクだけが先に走っていきひっくり返った。男も、のどを支点にしてモップをへし折り、宙をきりきりまいして床に落っこちた。
しかし、男は異様にタフであった。口から血を流しながらも、起き上がろうとする。
そこへ消火器を持って走ってきた女の子が、勢いよく泡を吹きかける。
ようやく男は動かなくなった。
ふう、と息をついて女の子はへたりこんだ。
もはや、これは本当に戦争のようであった。
校舎の中、外を問わずに、FOSのやつらと斎木学園の連中とが戦っている。
まだバイクに乗って暴れまわっている奴もいれば、バイクから降りて戦っている奴もいる。FOSの男たちは、どいつも異様にタフであった。少しの事ではびくともしない。
やはり、薬物による強化人間なのかもしれなかった。
だが、逆にこの強敵を喜んでいるのが、斎木学園格闘部連合であった。
日々鍛えた、人を倒すための技術を遠慮なく使えるのである。しかも、ルール無用ときた。こんなにおいしい話はめったにない。
率先して、この戦いに参加していた。
そのおかげで、戦いは学生側に分があるようだ。
「和美ちゃん、こっちこっち!」
「きゃっ!」
「くらえ、忍法・乱れ手裏剣!」
和美に追いすがってきたヘルメットの男に、陽平が手裏剣を投げつける。左右の腕に、一本ずつまともに刺さり、男は声をあげた。
そのスキに、明郎が和美を連れて廊下の曲がり角を曲がる。
「どわっ?」
叫んで、明郎は立ち止まった。ずどどっとその背中に和美がぶつかる。
「こっちからも来たっ」
見るとバイクにまたがって、一直線に廊下を走ってくる奴がいる。
あわてて明郎と和美は、もときた所へ逃げ戻った。
角を曲がった所で振り返ると、バイクがドリフトして向かって来るのが見えた。
「まかせるでござる、忍法・風閂!」
陽平は左右に何かを投げつけて、そのままくるりと振り向くや、一目散に走り出す。
その時、バイクの男は宙にキラリと光るものを認めただろうか?
いきなり、何かに引っ掛けられたような形で男の身体は吹っ飛び、バイクだけが先に走っていき、壁にぶつかった。
床にのびた男の胸には、横一文字に大きな傷が残っていた。
まるで刃物で切ったようであった。
「すげえ、陽平、今の技どーやったんだ?」
「何、タネあかしすれば単純なもんでござる」
にっと笑って、陽平はポケットの中からあるものを取り出した。
「ピアノ線か?」
「その通り、これを廊下のはじからはじへと張りめぐらせたんでござる」
「うわー、痛そ」
のんびりと話をしていたら、和美が悲鳴をあげた。
見ると、今のびてしまったはずの男がむっくり起き上がってきたではないか。
胸の傷から血をにじませ、うつろな目で三人を見すえる。
「ゲゲ、なんちゅうしつこい奴だ」
「ゴキブリ並の生命力でござるな」
陽平は手裏剣を構えた。が、突然後ろから強い力で首を絞められる。
「ぐううっ?」
陽平は宙へ持ち上げられてしまった。
首を絞め上げているのは、さきほど腕に手裏剣を刺された奴だ。
「陽平っ!?」
「陽平さん!!」
今度は明郎に、胸の傷の男が殴りかかる。
男の右ストレートをモロに食らい、明郎は眼鏡を飛ばして吹っ飛んだ。
「明郎さん! しっかりして下さい!」
和美は明郎に走り寄った。
くうう・・・と、宙吊りにされた陽平が苦しそうにうめく。
和美は、男たちが笑っているのを見た。
へへへ、へへへ・・・とうつろな目で、男たちは唇を歪めていた。
「へへえ」
ぺろりと舌を出して、陽平を宙吊りにした男の腕がふくれあがる。
首を絞めるのにさらに力を込めたのだ。
「ぐう・・・」
陽平の顔が、みるみる赤くなっていく。
死ぬ!?
和美は真っ青になって目を固く閉じた。
その時、明郎が叫び声をあげて、首を絞めている男に飛びかかった。
「りゃあっ!」
強く、男の背中に右手を押しつける。
途端に、男の目がくわっと見開かれて、髪の毛が逆立った。
手の力が抜けて、陽平の身体が床へ落とされ、陽平は激しく咳き込んだ。
男はそのまま床へ倒れて、小刻みに痙攣を続けている。
明郎は振り向きざまに、胸の傷の男にも攻撃をかけた。
すっと右手を男に伸ばす。何かを握っているようだ。
男もそれに気づいて、伸ばされたその右手を手刀で打った。
「くっ」
びしっと骨まで響く一撃に、明郎は手の中の物を落としてしまった。カラカラーッと、高い音をさせて、それは床を転がった。
和美にはそれが何か判らなかったが、それは知る人ぞ知るスタンガンだった。
手の平サイズではあるが、先端から強力な電撃が発生し、プロレスラーでも失神させることができるという、護身用の武器である。
「しまった」
舌打ちして、明郎は和美を後ろにかばった。
陽平はまだ苦しんでいるし、絶体絶命である。
男は手を伸ばして襲ってきた。
その時・・・
ぼくん。
にぶい音がして、男は白目をむいてその場に崩れ落ちた。
「?」
明郎と和美は顔を見合わせる。
「まったく明郎、陽平、あんたたちがついていながらこのザマは何よ」
「弥生か!助かったぜ」
修羅王を片手に、ハチマキまでしめている弥生の姿を確認して、明郎はほっと息をついた。
「陽平さん、大丈夫ですか?」
和美は心配そうに陽平に声をかける。
「大丈夫でござるよ、鍛えてあるでござるから。それより、怖い目にあわせてすまなかったでござるな」
「ほんと、和美ちゃんに何かあったら切腹もんよ。ま、このあたしが来たからには、もう安心だけどね」
確かに普通だったら恐ろしいだけの女だが、こういう時にはひどく頼りになる。
「ところで一郎さんは?」
という和美の問いに、
「あー、あいつ?あいつなら校庭で一番派手にやり合ってるはずよ」
弥生が答える。
―――それは、その時起こった。
天を貫くような、ある女生徒の『悲鳴』が響きわたったのだ。
「まさか!!」
「あいつか!?」
訳が判らないのは、転校してきて日の浅い和美のみであった。