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斎木学園騒動記4−2

         ☆         ☆         ☆


────斎木町駅前通り。


 この町のメインストリートは真夏の日差しを浴びて、ゆらゆらと陽炎を立ちのぼらせていた。

 平日だということで、人通りや交通量が少ないことがせめてもの救いであったろうか。

 バス停では腰の曲がったおばあちゃんが、のんびりと次のバスを待っている。


「ありゃー、ようやくバスが来たのかねえ。ずいぶん遅かったけどねえ・・・」

 おばあちゃんは高齢のため、すっかり目も耳も悪くなっていたらしい。


 ごごごご・・・と大地を震わせて道路をやって来たのは、五台もの重戦車軍団!


 キャタピラをきしませ、アスファルトを耕しつつ行進する鉄の固まりは、腹に響くエンジン音をうならせつつ、思ったよりもずっと速いスピードで、おばあちゃんの目の前を

通りすぎていった。

 重苦しい地鳴りが遠ざかっていく。


 顔の汗を手拭いでぬぐって、おばあちゃんは一言しみじみと、

「暑いねえ・・・・」

 と、つぶやいた。


  次第に街はざわめき始める。


 平和な夏の昼下がりに、突然異分子が乱入してきたのだ。

  行進を続ける戦車の姿を見て、数少ない通行人が目を見開く。

 まだ、砲弾をぶっ放したりした訳じゃないので、人々はただ好奇心からこの“鉄の塊”たちを見物していた。

 そこらへんを走っていた自動車も、道ばたに停車させてきょとんと見つめている。

 どこかで映画を撮っているのかと、カメラを探してきょろきょろする人もいる。


  気の弱い者は、右翼が暴れ出したのかと疑い。

  少し気のつく人は、ああ、これはまたあの学校で何かあったな、とうなずいた。


 人々の好奇の視線を受けて、悠々と戦車が進んでいく。圧倒的な迫力を誇示しながら道を行く彼らを邪魔する者はなかった。


  いや、いた。


 戦車の突き進む方角に、一台のサイドカーが道の真ん中に停まっていた。

 沢村は苦笑しながら、戦車を出迎えた。


「まったく、とんでもないことになったもんだ」

 その言葉とはうらはらに、この状況を楽しんでいる感じがする。

  きゅっとヘルメットをかぶると、沢村は不敵な笑みを浮かべた。

「久し振りにワンマンアーミーの実力を見せるとするか」

 つぶやいて沢村は、サイドカーのアクセルをいきなり全開にした。弾丸のような勢いで戦車に一直線に向かっていく。

 戦車たちはそれに対して、何のとまどいも見せないようだった。予告もなしにいきなり主砲が火を吹いた。

「ひょおお」

 沢村はあわててサイドカーをターンさせた。そのすぐ横の地面で爆発が起こる。

 砕けたアスファルトが、沢村のヘルメットにこつんと当たった。


「あ、痛て。やれやれ問答無用って訳か、さすがFOS・・・わわわわっ」

 つぶやくヒマもない。すぐさま砲弾が撃ち込まれてきた。

  次々と炸裂してアスファルトをめくりあげる。

 沢村はそれらを道路の幅を目一杯使ってスラロームし、ぎりぎりかわす。


  真昼の市街戦の幕開けであった。


 歩道で見物していた連中は、悲鳴をあげて逃げまどい始める。

 人が少ないとはいえ、それでもちょっとしたパニックにおちいっていた。


  沢村は戦闘に際して、冷静に敵を分析してみた。

 計五台、いずれも今まで見たことのない型である。おそらくFOSの開発した新型戦車であろう。見るからに頑丈そうだ。

 重量感に満ちた都市迷彩のボディが、不気味にキャタピラをアスファルトに食い込ませつつ、着実に斎木学園に向かっていた。


 ムダかな、と思いつつ沢村、SW・M659で先頭の戦車を狙い撃つ。

  たいていの鉄板なら貫くはずの特製九ミリ軍用弾は、あっさりと跳弾した。

 それなら、とキャタピラに三発撃ち込む。これも駄目だった。

 沢村は舌打ちした。拳銃をホルスターに戻す。


「仕方ない、本気を出すか」

 つぶやいて沢村、サイドに手を伸ばし、シートの下からずっしり重いバズーカ状の物を取り出した。

「さて、と」

 沢村はいったん戦車たちに背中を向け、逃げ出した。そして、左手に持ったそれを肩ごしに後ろへ向けて、ぶっ放す。

  大当たり。

 先頭のがいきなり爆発炎に巻き込まれ、動きが止まった。

 今の一発でキャタピラがイカれたらしい。しかし、ボディはへこんだが、総合的に見て致命傷にまでは至ってないようである。

  とてつもなく頑強な戦車だ。


「ほう、M67・90ミリ無反動砲でキャタピラ程度か、FOSめやっかいなモン持ち出しやがって」

 ぼやいて沢村は使い捨てのバズーカを放り投げると、またなにやらシートの下から武器を取り出した。

 今度のはライフルっぽいが、やけにごつい。それもそのはず、この武器は普通単発でしか使用できないグレネードランチャーを、十連発できるというシロモノ、“XM174オートマチックグレネードランチャー”である。


「これが通じないとなると・・・ちょっとヤバイかな」

 祈るような気持ちで沢村が引き金を引こうとした途端。

 戦車の砲弾がすぐそばに着弾して、沢村はとんでもない方向へグレネードの弾丸をばらまいてしまった。

 二秒とかからず全弾が斉射され、道路わきのビルに雨のごとくグレネードが降り注ぐ。そのすさまじい破壊力と爆発により、あっという間にビルは半分崩れ落ちてしまった。


 火が出て、火災も発生したようである。


 沢村は舌を出して、眉をしかめた。なんだかどんどん騒ぎが大きくなっていくような気がして、やるせなさを覚え始めたのだ。

 頼みのグレネードランチャーに、新しい弾丸をつめなおす余裕もなく、沢村はひたすら逃げの一手であった。


  ふと、彼は聞き覚えのある音に気づいた。

 パトカーのサイレンである。前方でバリケードを作って待ち構えていた。

 三台ほどのパトカーが横になって道をふさいでおり、その周りに機動隊員が多数集まっている。


「そこのサイドカーと戦車に告ぐ、ただちに戦闘を中止せよ!くり返す、ただちに戦闘を中止し、その場に停止せよ!」

 一人がスピーカーを持ってがなりたてているが、それにかまっているヒマは、沢村にはなかった。

 よりスピードを上げて、パトカーの真ん中に突っ込む。と、その直前で見事にサイドカーはジャンプし、三台のパトカーを飛び越えてしまった。

 それをあっけにとられた機動隊員たちは、ぽかんと見ているだけであった。だが、すぐに正気に返った何名かは、サイドカーの後を追って突っ込んできた戦車に拳銃を撃ち込んだ。

 この戦車に対して、そんなちゃちな拳銃弾が通用するはずもなく、あっさりとはじき返された。


 戦車は平然と前進を続け、パトカーをはじき飛ばして無理矢理道をこじあけ、沢村のサイドカーを追っていった。

 沢村は頭痛を感じた。


“たかが高校生をさらうのに、なんでこんな重武装の機甲部隊が出てこなきゃならないんだ”

 ぶつぶつ言いながら沢村、今度は手榴弾を二個、シートの下から取り出してピンをくわえて外すとキャタピラめがけて投げつけた。

  三秒して腹に響く震動。


「ダメか・・・」煙の中から戦車は現れた。一体どういう装甲をしているのだろう?

 すると、また砲を発射させてきた。

 サイドカーのすぐ左手の路面に着弾する。爆風でサイドカーがふわっと持ち上がった。


「させるかァ!」

 叫んで、沢村はサイドの持ち上がったまま走る車体を、無理矢理押さえつけた。

  すごい足腰の力であった。

 車体を安定させて、沢村はぎりりっと歯がみした。


「くそ、命中率が高まってきやがったな、チョコマカ逃げるのにも限度があるし・・・・仕方ない、今使わなきゃ終わりだ」

 沢村は、ハンドルについた幾つかのボタンのうち、赤いボタンを押した。

 すると、突然側車の後部カバーが音をたてて外れ、四角い穴が現れる。

  そこには、六つの棒状の物が並んでいた。

  小型のミサイルである。


 なりは小さいものの、こいつは通常の手榴弾よりも三倍近い火薬が詰められているという特別製なのだ。

 このサイドカーに装備されている武器の中で、最強最後の品である。


「行っけー!」

 くぐもった発射音とともに、それらはいきおいよく飛び出した。

  それと同時に沢村はサイドカーを急ターンさせ、四台の戦車と向かい合う。

 沢村の目に、六本の火線が写った。すべて外れることなく、戦車に吸い込まれていく。 と、手榴弾などとはケタ違いの大爆発がとどろいた。

 ぐおっ、と高さ十メートルにも及ぶ火柱が上がり、今度こそ戦車の一台が大破し、もう一台を巻き込んだ。

 二台の戦車が大爆発を起こして、熱風が沢村のヘルメットを叩いた。


  ほっとするヒマはない。まだ二台も残っているのだ。


 爆発炎上する二台の横から、あちこちへこませながらも迫ってくる。

  もはや、沢村の手持ちの武器ではこいつらは倒せまい。かといって、このまま斎木学園へ攻め込まれたら一巻の終わりである。そして学校はすぐそこなのだ。

 なんとしてでも、ここで食い止めなければならない。

 そう考えた時には、沢村はサイドカーを発進させていた。向かってくる戦車二台に対して、真正面からフルスロットルで突っ込んでいく。

 沢村のすぐ頭の上を、砲弾がかすめた。

「まだまだァっっ!」

 沢村は吠えた。

 大小ふたつの影はものすごい勢いでぶつかった。

  爆発の火柱がまたも天を貫いた。


 自らをミサイルと化す、これが沢村の本当に最後の手段であった。



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