斎木学園騒動記3−4
〜“X”DAY〜
☆ 午前七時一〇分 ☆
「ふわわあ〜」 省吾が大きく背伸びをする。「朝・・・か」
「朝だな」
沢村が胸ポケットから煙草を出し、火をつける。一睡もしなかったわりに、二人の表情に疲れはない。
FOSは、昨日のヘリコプター騒ぎ程度なら平気で起こす連中である。どんなムチャクチャな行動をしてきても不思議ではないので、いざという時のために、徹夜で学生寮の近くの路上に張っていたのである。
「いつ来るんでしょうね、あいつら・・・」
「さて、やつらの事だ、戦車軍団でも投入してくるかもな」
「はは、それだけじゃなくて改造人間がぞろぞろ来たりして、ははは」
言ってから気づく、相手はFOS、冗談ではすまされないということを・・・・
二人は空を見上げた。
スズメが鳴きながら視界を横切り、その上を見事な青空が広がっている。
今日も暑くなりそうだ。
☆ ☆ ☆
「キッドナップぐらいオレ一人で充分だ」
兵藤は冷たい口調で、新しくなったデスクの向こうの青ざめた軍服に言った。
「いかん、これは上からの命令だ」
「それがどうした」間髪入れずに、兵藤は答える。
もう、軍服は黙り込んでしまった。一般の部下には平気で怒鳴りつけるくせに、兵藤のようなタイプには心から縮みあがってしまうのだ。
軍服はのどをヒクヒク動かして、助けを求めるように視線を横へずらした。
壁によりかかって、二人のやりとりを楽しそうに見物していた男がいた。
見事に長い金髪、長身である程度のトレーニングを積んでいるらしいたくましい身体、そしてその、いかにもプレイボーイです、と宣伝しているような二枚目ぶった顔。
兵藤と同じ、FOSの“壊し屋”ジョニー・ハミルトンである。
「まあまあ山猫、ここは私の顔にめんじて、それにたかがジャパンのハイスクール相手にシリアスになっても仕方ナイでしょう。軽いゲームだと思えばイイ」
両手を上げてまあまあとやりながら、ジョニーはにやにやと笑う。
じろり、と兵藤はジョニーをにらみつけた。
「勝手にしろ」
短く言い放つと、幽霊のように部屋から出ていった。
存在感のない不気味な男である。彼は歩くとき、けして足音をたてないのだ。
それに比べて、こちらの金髪青年は対照的に明るかった。
非常に陽気な雰囲気が、全身からにじみ出てくるのである。逆に、いきすぎてニヤけた感じでもある。
「彼はいつも暗いですネ、人生はもっとエンジョイしなければ楽しくないのに。ところで今回の任務はハイスクールを丸ごとツブすって任務でしたネ?」
軍服は相変わらず青い顔で、首を横に振った。
「どこからそんな話になったのだね?ジョニー、君の任務は山猫・・・・兵藤と組んで、ティンカーベルのキッドナップをするのだよ」
「ああ、そーなのですか、じゃ、ティンカーベルをキッドナップする時に、ついでだからハイスクールも破壊してしまいましょう」
HAHAHA、と笑いながらジョニーは廊下に出ていった。
軍服は深いため息をついた。
「まったく、上部も疲れる連中を回してくれたものだ・・・」
独り言をつぶやいて、軍服は額の汗をぬぐった。