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斎木学園騒動記3−3

実は私ゃ、ブログも持ってますw


興味がおありの方は、

この作品名で、探してみてくださいませー?



        ☆         ☆         ☆


 月がきれいだった。


月齢十三日というともうほとんど満月のようなもの、月光がかなり明るい。


 和美は部屋の電気もつけず、カーペットに直接座り込み、開け放たれた窓から忍び込む月明かりを浴びていた。膝を抱えた姿勢のまま、身動きひとつしない。

 そよそよと、夜風が和美の髪をなぶっていった。黒から青へと変化する髪を。


 なぜ? と和美は自問する。何万回と繰り返した問い。

 なぜ、自分の髪の色は青になるのか? なぜ、自分にはこんな『力』があるのか?


 すう、と髪が青くなり、和美はその姿勢のまま床から数センチ浮き上がった。

 すぐに、すとんとカーペットに落ちる。

 すべてはこれがいけないのだ。 そう思い、ため息をつく。


 自分が普通じゃないから・・・・


 髪の色が元に戻った。


 また、転校しなければならないのか。 その思いがある。

 彼らがやってきたのだ、自分だけならともかく他の人に迷惑をかける訳にはいかない。 ふと、和美は一郎の事を思った。昼はもう少しでヘリコプターの下敷きになるところであった。関係ない者を、あのように危ない目に合わせる訳にはいかない。

 だから、逃げる。 しかし、はっきり言って和美は逃げるのに疲れていた。

 どこへ行っても、やつらはすぐに見つけ追ってくる。


いっそ、夢の国へでも行けたらいいのに。 と、空想的な想いが胸を占めた。

 ピーターパンのいるネバーランドにでも行くことができたら・・・・

 和美の目から、涙があふれかけたその瞬間。


「うっわ────っ!」 びったああんっっ!


 きょとんとして、和美は開け放った窓に目をやった。確かに今、外を人が通り過ぎていったような・・・・しかも、上から下へ向けて?

・・・ここは二階である。

 何が起こったのか判らないまま、和美はきょとんと窓を見つめていた。


  くそォ勢いつきすぎた、二階で止まらないで地面まで落ちちまったぜ。


 和美は、地上にいる人物がこう言ったのを聞いた。すると今のは自殺ではないらしい。 しかし、二階以上から落っこちて平気な人間というのは・・・・


 和美はぎょっとした。何かが壁を駆け登ってくる!


「こんばんわあ」

 ぬ! と窓から顔を出したのは、一郎であった。

「夜這いに来たんだけど、入れてくれるか?」


  和美の目は点になってしまった。


「え・・・ええ、いいですよ・・・」

 それを聞いて、よっこらしょとスニーカーを脱ぎ、一郎は窓から部屋に入った。

 ぽかん、としている和美を見て、一郎は頭をぽりぽり掻きながら、

「え〜と、き、きれいな月だな」

 などとよくわからん事を言う。


「あ、ははっ、そーですね」

 と、答えた和美もどこかぎくしゃくしている。


 こうして、二人のちぐはぐな会話が始まった。何しろ互いに変に意識して、上手に会話ができないものだから、どーにもおかしな話になってしまう。


「こ、こんな満月の夜には、きっとどこかで狼男が喜んでるだろうな、ははっ」

「そうですね、うが〜っなんて吠えたりして、でもあれってどうして満月を見て変身するんでしょうね」

「あ、そうだよな、別にまんじゅうでもハゲ頭でもかまわないのにな・・・・ただ、月の満ち欠けってのは人間の精神にある程度の影響を与えてるらしいぜ。実際、満月の日には殺人事件が増えるんだってよ。英語のルナティック(気ちがい)てのも月の“ルナ”からきてるらしいし」

「ああ、そういえば聞いた事あるような気がします・・・」

 ふっと笑って、一郎はため息をついた。


「満月だからかな?変な事が起こるのは・・・・」

 ふいに、一郎は和美の顔を真正面から見た。


「か弱い女の子がさらわれかけたり、ヘリコプターが襲ってきたり・・・・なあ、お前は一体何者なんだ?」

 真剣な表情で、一郎は聞いた。何とも言えない気迫がこもった、その目つきで見据えられた和美は金縛りにあってしまった。何を言う事もできない。

「オレでよければ、力になるぜ」


 一郎は、目をそらさず正面から言った。その一言を聞いて、和美の中で張り詰めていたものが、ぷつんと切れた。


「あたし・・・」 和美は言った。「超能力者なんです・・・」

 その告白を自分から他人にするのは、生まれて初めての事だった。

 言ってすぐ、和美は目をそらしてうつむいた。

“やはり、この人も自分を気味悪く思っているのだろうな・・・”


 ところが、


「なんだ、やっぱお前エスパーだったのかよ!なるほど、またか」


 という見当違いの明るい声に、逆に和美はズッコケた。それに「またか」とはどういう意味か?

「あの・・・驚かないんですか?その・・・あたしがエスパーだって判って」

 おそるおそる聞いてみる。


「何で?どうしてエスパーぐらいの事でいちいち驚くんだ?」

 和美、なぜか逆に聞かれてしまう。

「だ・・・だってエスパーですよ。普通の人間じゃないんですよ、だから・・・その」

 何かおかしな気分になって、和美は話すのをやめた。


どうして自分がこうまでムキにならなきゃいけないんだろう? 話があべこべじゃないか。普通の人は、みんなエスパーなんて気味悪がって化け物扱いするのに、どうしてこの少年はすんなり受け入れてしまえるのだろう?


 すると、一郎は言った。

「ひょっとして、お前まだこの学校の事判ってないな?」

 くすっと笑う。


「いいか、この学校はただの学校じゃねえ、エスパーなんぞごろごろしてても珍しくないほど異常なんだよ」

 話についていけず、混乱している和美に、一郎は説明した。


  私立斎木学園高等学校。


 この学校を創立した人物は、非常に変わり者だったらしい。どんな人物だったか記録に一切残っておらず、伝える者も誰もいないので、男か女かも判らない。ただ判ることは、「変人だった」ということだけ。

 その謎の人物が創った学校が、これまた異常であった。

 まず、場所が悪い。星辰の位置は最悪、方角占いでも最悪、地相もメチャクチャな上に鬼門にまで引っ掛かっており、以前とある拝み屋がこの土地に通りかかった時、泡を吹いて倒れた事もあったそうだ。しかし、創立者はこの土地に立った途端。

「ここがいい」と満足気につぶやいたと言う。


 そんないわくつきの土地に建てられた学校である。そこらの学校にある『七不思議』などより、ずっと不可思議な現象が巻き起こるようになった。

 数えあげればキリがないので全ては記さないが、とにかくその異常さは、生徒にまで影響を与えるようになった。


 それは、個性と言えるものだろうか?

「天下無敵のタフネス」「学生忍者」「木刀持たせりゃ最凶最悪娘」「自称天才手品師」「狼男」「吸血鬼」「歩く音響爆弾」「IQ不明のマッドサイエンティスト」「究極の天才料理人」・・・・

 そして、これらの頂点に立つ男「生徒会長」

 あと、生徒ではないが、旧校舎からうようよわきでる幽霊たち。


 他にちょくちょく転校・転入があるため、過去のデータからスプーン曲げ程度の力を持つエスパーは最もポピュラーな「個性」とされているらしい。


 和美が自分の事を普通じゃないと言うのなら、こいつらは一体どうなる?


  二人、紹介しよう。


 まずは、科学部の部長「玉置 克吉」。

 ボサボサの髪に眼鏡、半年は洗っていないといわれる、よれた白衣がトレードマークで常に自分の行動に、絶大な自信を持っている男である。

「何、ボクは天才だからね、君たち凡人にはボクの考え方が理解出来なくて当然なのだようん、うん」

 彼はそう言って笑う。確かに彼は「天才」であるらしい。その頭脳は国連のコンピューターに匹敵すると噂され、常識では考えられない発明を行ったりする。

「天才・玉置に不可能はなああしっ!」

 不可能はなくても失敗はあるらしい。ついこの間もひまつぶしに原爆を作ろうとして、放射能もれを起こしかけ、学校中大騒ぎになったばかりである。

 彼はその時、ひたすら笑ってごまかしていた。(おいおい)


次に、家庭科クラブ部長「平野 忠」。

 彼は「料理の大天才」である。彼の料理の腕前は、世界料理コンクールに出しても充分通用するほどで、どんな材料からも最高の美味を作り出せるのだ。

 それはそれで別に問題はない、普通の料理を作っているのならば。

 しかし、その天才ぶりを発揮して、「究極の味」を求めた場合、問題が生じる。


  こんな話があった。

 かつて、平野の料理を食べた男がいたそうだ。

「君の持つ才能の全てをそそいだ料理を食べさせてくれ」

 男はそう注文したらしい。それに応じて、平野は腕をふるった。

 やがて現れた料理の素晴らしさに、男は絶句し、感動に身を震わせた。最高だった。

 涙で顔を濡らしながら、男はこの料理の作り方をたずねた。

  こんな味は今まで体験したことがない。と感想を述べると、平野は、

「その通りです、これまでの調理技術ではこの料理は作れません。ボク独自の工夫がなされているからこそ、この味は完成したのです。大変でしたよ、これだけの材料を集めるのは」

 そう言って、男に自分の使った材料を見せた。

  男は知った。 その料理の材料を。自分が食したものの正体を!


 この時、平野の作った料理が何だったのか知る者はいない。

 しかし、その男はその後その日のうちに自殺してしまったそうだ。


  遺書には、こう書かれていた。

『オレは あれを食べたのか』

 その字は、恐怖がありありと伝わってくるものだったそうだ。


「そんなやつらにくらべりゃ、エスパーなんて可愛いもんだ」

 あまりに非現実的な話のため、和美はぽーっとしてしまい、何を言ったら良いのか判らないようだった。それを見て、一郎は苦笑して頭を掻いた。

 沈黙にいたたまれず、窓に歩み寄る。


「あ、待って下さい」

 じゃあな、と言いかけて、一郎は窓枠に足をかけたまま振り向いた。


「もう少し、お話、しませんか」

 そう言って、和美はにこっと笑った。

「あたしのこと聞きにきたんでしょう?」

 ちょっと首を傾げたポーズがとても可愛らしくて、珍しく一郎はドキッとした。

 和美ははにかみながら一郎の横にきて、夜空を見上げた。


「FOSって知ってます?」

 一郎はうなずいた。

「そうですか、じゃ話は早いですね。FOSは、どうやらあたしの超能力に目をつけて、それを利用しようとたくらんでいるらしいんです。あたし、あの人たちに追われて転校を重ねてきたんですけど、今までの高校と違ってこの学校は・・・あの何ていうか」


「ようやく、落ちつける学校にめぐりあえたってことか?」

 和美の顔が、ぱっと明るくなる。

「そうです!何かこう・・・安心できるっていうか」


「オレも転校してきた時、そうだったからな」

 ぼそっと一郎はつぶやいた。

「他の学校にゃ無い、何かがあるんだが・・・よく判らん」

 ぽりぽりと、鼻の頭を掻いた。風が木の葉のざわめきを連れてくる。


  また、沈黙のひととき。


 すると、ふいに和美の目に光るものが現れた。

「やっぱり、あたし転校します」 震える声で言った。


「どうした、急に?」

「あたしが狙われているせいで、他の人に迷惑かけたくないんです・・・・」

 小さく和美の身体が震えている。一郎は、そのきゃしゃな肩に手を置いた。


「そんな事、気にすることじゃねえよ」

 明郎や陽平が聞いたら、大笑いするような優しい声で言う。

「でも・・・」

「ここは何て学校だ?言ってみろ」

 少しきつい声で、一郎は言った。


「え・・・さ、斎木学園です・・・」 おそるおそる、和美は答える。

「その通り、ここは『斎木学園』だ!そしてお前はここの生徒だ、仲間だ!安心しろよ、誰も迷惑だなんて思わねえ。この学校にいるかぎり、仲間が助けてくれる。そして何よりこのオレがいる!・・・オレがお前を守ってやるよ」

 力強く、一郎は言い切った。


「・・・・・」

 無言で和美は一郎を見上げ、見つめた。何か言いたいのだが、言葉がでてこない。

 そんな和美の頭に、ぽんと手をのせ、一郎は唇のはしを吊り上げた。


「ま、とにかく今夜は寝ようや、ぐっすり眠ってまた明日、だ」

「はい!」

 にこっと微笑む和美に笑い返して、一郎は再び窓枠に足をかけた。

「じゃあな」

 そして、一郎は窓から外へ飛び出していった。


 開け放した窓から忍び込む風が、微笑む和美の顔を優しくなでていった。





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