表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/60

斎木学園騒動記1−1

      ACT・1 


「さて、どーするか ね」 

 長い足を机の上に放り出し、相沢一郎は悩んでいた。

「どうするかって・・・どうしようもないだろ」

 と、横からメガネの長髪男、宮前明郎が大学ノートをぶらぶらさせている。

「次の世界史のテスト、今さら勉強してもムダムダ、あきらめるしかないね」

「う〜、そういうことではいかんでござる。オレは最後まであきらめないでござるぞ!」 などと、一郎と明郎があきらめきった表情をしているのを無視して、沖 陽平だけは必死で“テスト前の十分間集中勉強”をしていた。


 どこの高校でもよくある、休み時間の情景である。


が、そのうち、

「あーっイライラするっ!」

 と、一郎が突然叫びだし、教科書片手にブツブツやってる陽平の胸ぐらをつかんで持ち上げた。片手で!

「のわっ、い、一郎、落ち着くでござる!」

 じたばたもがく陽平を片手で宙吊りにして、一郎はくわっと牙をむいた。

「ったく、予告もなしにいきなりテストをするってのは何だ?しかも二教科連続だぞ!次の世界史が終わったら、今度は数学だ!すうがくっ!」

「べ、別にオレがやるわけではないでござる!そんなにテストが嫌なら、エスケープすればよいではござらんか!」

 ぶらぶらされながら陽平が叫ぶ。と、急に一郎の身体から力が抜けた。同時に陽平の身体も床に落ち、しりもちをついた。

「あ、そうか、サボりゃいいんじゃねェか」

 急に、にこやかな顔になって一郎はつぶやく。すると明郎も、

「そのアイディアいいなあ・・・よし、決まった!」

 がしっ! 一郎と明郎はがっちり腕を組んだ。そして、じろりと陽平をにらみつける。 陽平は教科書と二人の顔を見比べて、

「判ったでござるよ!オレもつき合うでござる!」

がしっ と三人は手を取り合った。その瞬間、彼らの間には完璧なるチームワークが誕生したのだった。

「よし、エスケープだっ!」

「おおっ!」

 その時、

「あーら三人とも、どちらへお出かけかしら?」

 こそこそと、教室から脱出しようとしていた三人を呼び止めた少女がいた。

「げっ、弥生か!てめえには関係ないだろ」

「あら、そうなの、あたしにそんな事言っていいの?」

 わざとらしく前髪をかき上げながら、少女・・・島村弥生は、ちらりと三人を見た。

 ぞっ と陽平と明郎が身をすくませた。こういう目つきをするときの弥生に逆らってはいけない、というのがこの学園のルールだ。

なにしろこの島村弥生、色々な武道に秀でていて、特に剣術となると恐るべき強さを発揮する。段位こそ持っていないが、その腕前は五段以上ともいわれている。

 彼女が愛用の木刀「修羅王」を持ち出した時には、血を見なければおさまらない、とも言われている。

 斎木学園のことわざ、「キチガイに刃物」ではなく「弥生に木刀」。

 これは、ぜひとも覚えておきたい。

 しかし、一郎は、そんな弥生に対し、真正面から立ち向かえる数少ない男であった。

たじろぐことなく弥生につっかかっていく。

「ほーう、てめえに何ができるってんだ?」

「学校新聞にあんたの寮での生活ぶり、・・・特にタバコと飲酒の件ね・・・をレポートして職員室に提出してあげる」

「ばば・・・バカヤロウ!そんなことされてたまるかっ!」

 ぐぎぎ、と一郎が歯ぎしりする。

 それを見て、にっこり笑いながら弥生は手を出した。

「何だ?」

「口止め料。そーね、今回はサーティワンの三段重ねでいいわ」

「ぐぎぎぐぎり・・・・」

 弱みを握られた一郎は、歯がみしつつうなずいた。

「おほほほ、じゃあね」

と、走り去る弥生に一郎はあかんべーをして、すぐさま飛んできた上履きを軽くかわした「と・・・とにかくっ邪魔者は消えたぞ、みんな」

「おおっ!」

 そう言うと、また三人の男たちは、こそこそ教室を抜け出していった。

 その様子を、少し離れた所で見ていた弥生は、

「いつ見ても、こーいうことだけはチームワーク抜群ね。・・・ん?」

 ふと、自分と同じく三人組を見つめている少女に気がついた。

 あれ?

 弥生は首をかしげた。学校新聞部部長という肩書きのため、いつも学校中をネタ集めでうろついている弥生。すでに全校生徒の顔を覚えたはずだったのだが・・・その少女は、名前どころか、見た覚えすらない。

 セミ・ロングのふわっとした髪を、横でちょっと結んでいる。くりっとした目の、おとなしそうな女の子・・・・

「ああ、ひょっとすると転入生かな?ねえ、ちょっと あなた」

 弥生はその少女に声をかけ、近づいていった。

 威勢のいい声をかけられて、少女は多少びっくりしたようだ。目をぱちくりさせて弥生を見る。

「あ・・・はい、何でしょうか?」

 オドオドするかと思ったが、意外としっかりした声だった。何となく声をかけた弥生は一瞬、何と話しかけようか迷ったが、そこはそれ、

「あなた一年生?何、あの三人のコト見てたけど、何かされたの?」

「あ・・・いいえ、別にそういう訳じゃないんです・・・・」

「ふうん、それじゃあいつらの誰かに、▽なのかな?」

 あまりにズバリと言い切るので、この少女は赤くなってうつむいてしまった。

「いえ・・・あの・・・」

 と言うと、耳まで真っ赤な少女は、くるりと振り向いて逃げ出した。

「あ!ごめんごめん!それじゃこれだけ教えて、あなたの名前は?」

 たたた、と走っていた少女は、ちょっと立ち止まり、

「相沢 和美です」

 そう言って、また走り出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ