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平原のドラゴン・4

 街に入って二日目の朝を迎えました。

 旅人は今日も夜明けと共に起きました。黒猫はまだ寝ています。

 黒猫を踏まない様にベッドを降り、窓を開けます。

 まだ霧が出ていました。霧は、昨日から晴れる事なくずっと街を覆っていました。


 また昨日と同じように、旅人は宿を出て、井戸に向かいました。

 顔を洗って、水筒の水を補充して、宿に戻ります。


 寝ている黒猫を起こして朝食を取り、マントとナイフを身に付け、リュックを背負います。

 ふと、リュックの重さが昨日と違う事に気付きました。

 リュックを一旦ベッドの上におろし、開けて中を確認します。

 そうして、中を覗き込んだあと、旅人がチラリと横目で黒猫を見ました。

 旅人と目が合った黒猫が、バツが悪そうに視線を逸らしました。

 黒猫は、普段なら目を逸らしたりしません。

 何故なら彼は、自分の金色をした瞳が自慢だからです。自慢のそれを得意気な顔で誰かに見せるのが好きなので、彼は見つめられるとご自慢の瞳を見せびらかすように見つめ返すのです。


「この泥棒猫」


 黒猫にジト目を向けながら旅人は言いました。

 それからリュックの中にあったペンダントや指輪といった宝石のついたいくつかの貴金属を取り出しました。


「まったく、いつの間に盗んで来たんだよ。これは置いていくからね」


「そんなご無体な。次の街で売って美味しい物食べようよ~」


 次々と取り出される高価な物を前に、黒猫はひどく残念そうに言いました。


「持ち主がいる物は駄目だって言っただろ」


「バレないって」


「ダメ」


 ピシャリと言われた黒猫の尻尾がしおしおと力なく床にへたり落ちました。

 手癖の悪い黒猫の落ち込みには構わず、全ての盗品をリュックから取り出した旅人はまたリュックを担ぎなおすと、窓とカーテンを閉め、宿を出ました。


 来た時と同じ道を歩き街を出ます。

 暖かい季節の昼過ぎでしたが、木陰の多い林の中は少しひんやりとしていました。

 不思議と霧は林にまでは届かず、木々の陰にあって薄暗くはあるものの歩くのに不自由はしませんでした。


 街を出て、少し歩いたところで旅人は立ち止まって街の方へと顔を向けました。


「街だけ霧に包まれてるみたいだね」


「そうだな」


 返す黒猫の言葉には覇気がありません。

 次の街でご馳走をたらふく食べるつもりだった黒猫は、当てが外れて霧の事などどうでもいいようでした。

 しかし、五分も歩くと黒猫はすっかりいつもの黒猫に戻っていました。

 何故なら彼は、宝石よりも美しく輝く金色の目玉を持っていたからです。黒猫にとってはどんな金銀財宝よりも価値のあるものでした。


 それからしばらく、薄暗い林の中を、旅人は黒猫と並んで歩きました。林の中の真っ直ぐな道を、真っ直ぐ歩いて行きました。


 どれくらい歩いたか、林の先に広い平原が見え始めました。

 林を抜けて、一人と一匹が平原へと出ます。

 林の中に居たせいか、真上に差し掛かろうかという太陽はいつもより眩しく見えます。


 平原には草木の匂いを運びながら流れる緩やかな風が吹いていました。

 小風にさらされながら歩いていると、黒猫の髭がピクピクと小刻みに揺れました。


「なんか来る」


 黒猫が言いました。


「なにかってな――」


 旅人がそれを言い終わる前に、平原に一際強い風が吹きました。

 横から吹いたその風に、頭からすっぽり被っていたマントのフードが捲れて、旅人の顔がのぞきます。

 露になった旅人の髪がキラキラと平原の陽光を反射させているのは、旅人のその髪が白ではなく銀色だったからです。


 被り直そうかと、旅人はフードを手に掴みながらなんとはなしに風が吹いた方を見ました。


 旅人が向いたそこには、とても大きなドラゴンが一匹。大きな首をもたげて旅人を見ていました。

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