エピローグ
例年より早く暖かくなった三月に桜の花は満開を迎え、残念ながら四月の入学式を迎える頃にほとんど花は姿を消していた。それでも暖かな日差しと新緑は新たな門出を祝うにふさわしく、新入生とその父母たちを桜の花びらの絨毯が額縁のように包み込み、その和やかな場面を一枚絵のように仕立て上げていた。
二カ月前に自殺した女子高生も、新品のスーツに身を包みカメラに向かって微笑んでいたかもしれない、と思うと彼女は何やら夢の中にいるようなふわふわとした気分にさせられた。待ち合わせのライオンのモニュメントにはすでに多くの新入生が集まっており、スマートフォンを片手に写真を撮ってるグループで賑わっていた。
彼女がスマートフォンの画面をじっと見つめながら画面を連打する集団の一人に加わろうとしたとき、真っ黒な画面に踊る絵文字付きのメッセージが現れた。顔を上げて回りを見渡すと、ダークグレーのスーツに明るいブルーのドット柄のネクタイを合わせた彼が手を挙げてこちらにやってくるところだった。腕に嵌められた真新しいシルバーの腕時計が太陽の光を反射し、存在を誇示しているようだった。
彼女が指を指した先には大学名が大きく書かれた入学式の看板があり、大勢の新入生が記念撮影をしようと列を成していた。彼は大きく首を振ると同じように看板を指したが、今度は彼女が首を振った。彼女は写真を撮り終わった新入生が次の新入生と入れ替わるわずかな間を狙って、看板一枚の写真を撮った。そのままスマートフォンを操作し、壁紙に設定した。
彼が名前を呼ばれ振り返ると、一眼レフを持った彼の両親が少し息を上げてやってきた。校門から講堂までのなだらかな坂は、緩やかに体力を奪っていく。それでも満面の笑みを浮かべてやってきた両親に彼は口の端にだけ笑みを浮かべて応えると、彼女の元を離れて駆けていった。それと同じくして、彼女のスマートフォンに別のメッセージが表示される。遅れてやってきた彼女の両親も到着したようだ。
式の開始時間が迫っていることを告げるアナウンスが流れると、人の群れはゆっくりと講堂に吸い込まれていった。両親に保護者席の案内のメッセージを送り、彼女もゆっくりと講堂へ足を進めていく。
後ろから肩を掴まれる感覚に振り替えると、先ほど両親の元に向かった彼がそこにいた。彼女は微笑み、多くの学生がごった返す各部ごとの座席案内表示の前に彼と連れ立っていった。
優しく、手を引いて。
恋愛といえば甘く切ないそんなイメージがある一方、人を大きく狂わせるドラッグのような効果もあり、一見マトモな人間が色恋に狂わされた話というのはフィクションでも現実でも珍しくありません。
そういう人間の破綻に興味を抱き、なんとか完成させたのがこの話です。
物語を完成させたことがほとんど無く、とにかく完成させることを目標に話を作っていったため、強引で拙い部分は多々あると思いますが、それでもこの物語に最後までお付き合いいただけたのであれば重畳です。
アクセス数は書き続ける励みになりました。
ちょっとでも読んでいただけた方、通して読んでいただいた方、すべての方に感謝いたします。
この話は一旦完結といたしますが、加筆や修正が今後あるかもしれません。