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サディスティック★ゴースト  作者: 猫宮千世子
13/18

幽霊の後悔

我が家から出るころには、日がかなり傾いていた。

長く引き留めてしまったことを母親は再三渚に詫びた。自分のことで親が頭を下げるのを見るのはつらい。

渚も丁寧に頭を下げ、改めてお悔やみの言葉を述べた。私は母親がまた泣きだしてしまうのではないかと心配になったが、私の母親は外では絶対に泣かない気丈な女だった。渚に訪問の礼を伝え、緩やかに送り出す。

私は渚の右斜め後ろに控え、地面に落ちる長い影を見つめていた。一歩一歩踏みしめるように我が家から遠ざかる影が二つ目の角を曲がり、私たちの背中を見つめていた視線が完全に遮断されたそのとき、影が大きく震えた。


「あなた、本当に馬鹿よ。」


渚はぐしゃぐしゃに泣いていた。


「そんなに好きだったくせに、なんで死んだの?生きてさえいたら、ずっと一緒にいられたのに、死んで簡単に誰かに託すの?」


「・・・だって私じゃ無理だったんだもん。無理なのに、あいつは私に依存してるし、私も依存してるし。詰んでるでしょ?」


「そーゆー軽い物言いやめてくれない?!あんた、ひっ・・・人の命、なんだと、思って・・・」


ごめんなさい。

他の言葉も見つからず、私は渚を抱きしめた。不思議なことに、まるで体があるような感覚があり、渚もはっとしたように顔を上げた。


「・・・何泣いてるのよ、今更。」


渚の人差し指が私の頬を伝う雫をぬぐう。死んでから実体を感じたことも見ることもできなかった自分の体がまるでそこに在るかのような、不思議な感覚だった。


「めちゃくちゃ後悔しているじゃない。馬鹿じゃないの。」


「渚さん、語彙が貧弱ですよ。」


「馬鹿に馬鹿以外のなんて言葉をかければいいのよ。」


それまで考えないようにしていた感情が、一気にあふれ出た。

なんて馬鹿なことをしたんだろう。死ななければ、リカルドと一緒になることは叶わなくても彼の幸せを傍で見守ることだってできたはずだ。今となっては叶わない。私のこの魂が、ずっとさまようことになっても、今すぐ消えてしまったとしても、どちらにせよ彼には今後一切干渉できないし、触れることさえできないのだ。

胸をめちゃくちゃに突かれたような鋭い痛みを味わい、私は声を上げて泣いた。そんな私の手を引いて、渚は自分の涙をぬぐいながら岐路についた。長く伸びた影が、時折二つあるように見えたのは、涙で視界がにじんでいたからに違いない。


私のカンは、おそらく合っている。おそらく、リカルドは渚のことが好きだ。

渚は当然そうなのだから二人は両想いで全く問題は無いのだが、なにぶんリカルドが頑なすぎてこのままでは平行線のままじーさんばーさんになってしまってもおかしくない。そこまでリカルドが私に義理立ててしまうと自然に考えてしまうあたり、我ながらすごい自惚れだとは思うのだけど。


「あなたのせいでひどい目にあったわ。」


部屋に入るなりティッシュを手に取り、目の周りを赤くしながら渚はスン、と鼻をすすった。ベッドにどすん、と腰かけ、私を睨みつける。「マジ巻き込んでごめんねテヘペロ★」などと言おうものなら殺されてしまいそうだ。もう死んでいるけど。


「何よ、田井君他に好きな人がいるなんて聞いてないわよ。」


それはあなたですよ、と言うのは簡単だけど渚は信じないだろう。幽霊は見えているくせに、幽霊の言うことは信じられないとはまた厄介だ。


「私のこと騙したのね。協力するなんて言っといて。」


「違う違う。協力するのは本当だってば。本心。」


「でも、好きな子いるの黙ってたじゃない。」


まずい、信用度が一気にマイナス。


「もう、こんな馬鹿に協力した私が馬鹿だったわ!」


渚に罵倒されながら私は考えまくった。受験で使わなかった頭をここでフル回転させずして、いつ活用するのか。そして脳みそが無いのにどこで考えているのか。

一番手っ取り早い方法はリカルドに自分の気持ちを認めさせ、素直に行動させることだ。けれども恋愛にとって近道ほど険しい道は無い。うちの母親が言ったように、大人になって考え方が変わることはあっても青春を棒に振る可能性は大いにある。

幽霊ってこの世に未練がある魂みたいに言われているけど、諸先輩方はどうされているのだろうか。今のところ私の未練はリカルドにあたるわけなのだが、そもそも未練が原因でこの世に漂っているとも限らない。先輩幽霊の方々は想いを達成して成仏されているのか、タイムリミットがきて消滅するのか、地縛霊的にその場所に縛られているのか。いずれにせよ、何か行動しているのであれば参考にしたい。

・・・先輩たちに会いに行けばいいのか。

いつもうろつく時間が昼間で(幽霊になってもマジメな高校生のサガだ)先輩幽霊に会えていなかったのだが、今から行けば誰かしらいるかもしれない。


「渚、ごめん。ちょっと出て考えを整理してくる。」


もう帰ってこなくていいわよ馬鹿、と後ろから聞こえたような気がしたけれど、私は聞こえなかったふりをした。世の中をうまくわたっていくには、見ないフリ聞こえないフリは大事なことだと思う。

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