07 小さな覚悟
ひとしきり泣いたあとにすることといえば簡単だった。部屋の探索だ。
涙で感情が流れたおかげか気分は晴れ、前向きになれた自分がいた。
もう何も知らないままではいたくない。
その想いが彼女の足を壁際に設置されていた本棚へと向かわせる。
びっしりと並べられた分厚い本たち。その一つ一つに細かな装飾が施されていることは背表紙を見ただけでわかった。
目線から少し下の位置にあった、あまり派手でないものを引き抜く。
表紙には見慣れない文字。
悪い方向へ向きそうになる思考を止め、パラパラと捲ってみた。
やはり……
(うぐっ…よ、読めない…)
落胆しそうになる気持ちを必死に支え持っていた本を戻し、また違う本を手にする。
しかし結果は虚しく、私に読める文字はどこにもなかった。
嘆きつつ、ある違和感に気づく。
ここに置かれているどの本も新しいのだ。
まるで全て新品の様な……
これが全て最近の、新しいものであれば、これよりも古い書物であれば読めるものもあるかもしれない。
そんな一縷の希望に思いを馳せ全ての本を所定の位置に戻し終えた私は窓まで歩いていく。
今まで全く気がつかなかったが、窓の外は美しい庭園になっていた。
(うわぁあ……!!)
それはとても癒される光景だった。
窓を開き、流れ込んでくる新鮮な空気を吸い込む。「空気が美味しい」というのはまさに、今の状態のことをいうのだろう。
大学にも庭園があったがそれとは比べ物にならない、と比較しているとある一人の少年がこちらを見上げていることに気がつく。
腕に子猫を抱えたのおかっぱの少年。半袖短パン姿だ。一見少女ととれなくもない美しい容姿に見惚れてしまう。
なんといっても一番目を引いたのは少年の瞳だ。
彼の眼は、黄金と蒼のオッドアイだった。
子猫の「にゃ〜」と鳴く声に我に返ったのか、走り去ろうとする。
「ま、まって!」
慌てて引き留めた。半袖半パンでも、彼の着るその服は聖騎士団のものに違いなかったから。
怪訝そうな表情。何か?と言いたげな目に本来すべき質問を忘れてしまう。
「…綺麗な、庭園ですね。」
あなたが手入れしているのですか?
彼の服はところどころ汚れた箇所があり、きっとそうなのだろうという考えからの質問だった。
大きな瞳を驚いたように見開く。すると私の質問には答えず一礼し、スタスタと歩いていってしまった。
……また、やらかした。
(名前を聞くつもりだったのに)
それでも悪い印象は与えなかったはずだ。あのグレーの近侍よりは上手くいったはずだと自分を納得させた。
それにしても……
(綺麗な瞳だったなぁ)
オッドアイと大体何番目のスキルかは予想がついたが、確証はない。
「次に会ったら、絶対に名前を聞こう。」
そう心に決め、美しい世界の窓を閉じた。
ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございます(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)
初めて段落の先頭を下げてみたのですが、こちらの方が読みやすいでしょうか?
よろしければご意見をおきかせ下さい。