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05 解答

 Rose Chessにおいて、プレイヤーは一人一つのアバターを用いる仕様となっていた。だがそれはあくまでプレイヤーとは別の存在、つまり「駒を動かし薔薇を奪うプレイヤー」と「駒の持つスキルとオプションを駆使し味方を騙しながら自分の主人であるプレイヤーを勝利へ導くアバター」という設定があったからだ。もちろん、実際はプレイヤーが全ての操作を同時に行っている。また駒によって持つスキルは異なりよくプレイヤーを惑わせた。


 …ここはどこの駒なのか。もし私が完全にランダムで選ばれた駒を使うプレイヤーであればわからなかっただろう。

 ここで最初には説明しなかった課金による制度が関係してくる。課金は主にアバターの容姿を変更するために用いられるが、それ以外にも用途はある。

 それは、使用したい駒を選ばれやすくする確率上げ。

 自分がどの駒を使うことになるのかはマッチング時にランダムで決定されるが、使いたい駒の出る確率を最大90%まで引き上げることが出来る。

 もちろん私は常にクイーンを90%の確率で出るようにお金を入れプレイしていた。

 クイーンを選ぶ理由としては、やはり「白薔薇の女王」としての威厳があったことが大きいだろう。ただ毎プレイ課金しているとお金が底をついてしまうので、他の駒を使用したい時には別のアカウントで楽しんでいたのだが。


 頭を振り余計な思考を追い払う。今は過去の思い出に浸っている場合ではない。

 りんごを食べる前よりも凛々しく見える彼の顔をじっと見つめる。


 深い蒼の瞳。陽の光を浴びてキラキラと輝くグレーがかった髪。もしかすると光の反射でグレーに見えているだけで本当はもっと白いのかもしれない。


 アバターの使用出来る12のスキル。

 それが人の形をしているのなら……

 もし私の考察が当たっているとすれば……自らを聖騎士と名乗る彼も、スキルの一人のはず。

 ごくり、と唾を飲む。スキル。彼のようなスキルはあったか。彼のような……


 そんな時、微動だにしない私の姿勢に焦れたように空気が変わった。

 今まで見つめ返してくるだけだった瞳に突如浮かべられた軽蔑の色。

「いつまでそうしてるつもりだ。終わったらさっさと動け。」

 私のたじろぎも虚しく発せられた言葉に、驚きを隠せない。

 そして同時に思い出されるひとつのスキル。


 今の彼は先程の彼とは違う。まるで人格が入れ替わったかのように。そうだ。前の彼も水から出たあとの私を助けてくれた彼も、違う人。


 第4スキル「四面相」


 彼は……それなんじゃないか。

「なんだ。まだ何かあるのか。」

 苛立ちを抑えられないのかチッと大きく舌打ちするグレーに今出せる精一杯の答えを告げる。


「あなたは、四面相…なのですね…」

 少し驚いたのか纏っていた空気が緩む。

 しかしそれも一瞬のことだった。彼は沈黙を許さない。

「…だからなんだ。」

 ますます不機嫌になった彼をこれ以上怒らせまいと、俯きつつ「何もありません」と小さく返事をした。

「………っ、いいか。今日から俺がお前の近侍だ。くれぐれも俺を腹立たせるな。」

 右手で頭をガシガシと掻きながら続ける。

「りんご食ったんだから腹は空いてないだろ。本当は聖堂に連れていくつもりだったんだが………気が削がれた、今日は好きにしろ。」

 俺は自室に戻らせてもらう。という言葉と共に派手な音を立てながら部屋を出ていった。


 へなへなとへたり込む。

 一人になったとたん寂しさに襲われた。


 狭い心に圧迫され、溢れた感情は涙となって流れ出す。両の手を組み、どこかの神に祈るように問う。私はこれからどうなってしまうのかと。


 恐怖、安堵、嫌悪。それらは混ざり合い嗚咽となって酷く明るい部屋にこだました。

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