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7 出立





 ルアンさん達の空き家から戻った俺は、明日の明朝から街に向かう事をマリアさん達に伝えた。

 最初、セシルちゃんが激しく反発していたけど、話している内に納得してくれた。それでもやはり寂しそうな様子だった。……短期間で本当に懐かれたものだ。


 対照的に、マリアさんは俺の仕事が決まりそうな事を喜んでくれた。「ライトさんが居なくなるのは寂しいですけど、貴方がどこかで元気に暮らしていてくれればそれだけで十分です」だって。最早聖女を通り越してお母さんだよ、その発言は。



「……ふぁぁぁぁ~っ」



 そうしてとうとう朝を迎えた。

 何時もより早めに起床した俺は今日来ていく服に着替えながら、例の如くポイントカードを見る。




──────────────────


所持Zp:80p


利用/ステータス変換/履歴


──────────────────




 兵士達に襲われかけた女性を助けたのと、村人の手伝いをしたので、またポイントが増えていた。

 『履歴』を確認すると



・女性を暴漢から救う > +50p

・畑仕事を手伝う > +3p

・荷物運びを手伝う > +1p     etc....



 と、割と細かくポイントが増えていた。

 この履歴から考えると、恐らく人命やそれに近しい事への危機から救うとポイントが多く手に入るのだろう。ハイリスク、ハイリターンという事らしい。


 取り敢えず、今後の行動を考えて新しいスキルを幾つか取る事にした。



・索敵Lv4  ・火魔法Lv3  ・水魔法Lv3 ・土魔法Lv3



 索敵はスキルレベルに応じて周囲のモンスターの気配を察知しやすくなる。村とは違って、街の方に行けば当然モンスターに襲われる機会が増える筈だし、身を守る為にも早い内に取っておいて損は無いと判断した。


 そして遂に魔法を習得した。やはり異世界ファンタジーに来たからには魔法だよね!!

 しかし習得したは良いものの、頭に魔法の使い方が流れ込んで来る、なんて言う事は無かった。推測だけど、このレベルは魔法の習得限界を表していて、魔法そのものは独力で覚えなければならないのかも知れない。



(……早い話、あのスーシィさんに聞くのが一番なんだろうな)



 あの人真面目そうだから、誠心誠意頼めば教えてくれそうな気はする。だけど見返りが無いよなぁ、無一文だし、俺。



 スキルを全て取り終えた俺の残りポイントは2p。一つの基本スキルならレベル1で習得出来るけど、恐らく習得しても大して戦力アップには繋がらないだろう。だったら今は少しでも貯めておくべきだ。


 ポイントカードの確認を終え、身体にもう一度仕舞った所で扉をノックする音が聞こえて来た。



「ライトさん、起きていますか」


「あ、はい起きていますよ」



 扉を開けた先には、声の通りマリアさんが立っていた。普段より早い時間なのに……もしかして、俺に合わせて起きてくれた……?



「おはようございます、マリアさん」


「おはようございます。準備は出来ていますか?」


「はい。といっても、元々何も持っていないんですけどね」


「そう言えばそうでしたね。朝食はどうしますか?」


「あー、いえ。もうそろそろ時間なので」


「そうですか。分かりました」


「……短い間ですが、お世話になりました」


「いえいえ、こちらこそお手伝い有難うございました」


「また近くを通ったらお邪魔させてください。その時はしっかりとお礼しますので」


「ふふっ、楽しみに待っていますね?」



 マリアさんに一礼して、俺はマリアさんの家を後にした。セシルちゃんに挨拶したかったけど、本人はまだ寝ているらしく、それに挨拶すると中々別れられない様な気がした。……俺も随分と懐いたものだ。





 家を出て真っ直ぐ集合場所に向かうと、『昼花』の四人が既に準備を整え待機していた。



「おはようございます。今日はよろしくお願いします」


「おはよう。よし、少し早いけど今日の行動の打ち合わせといこうか」



 ルアンさんのその言葉に、他の人達が一ヶ所に集まってくる。



「まずは隊列だけど、僕とデラが先頭、スーシィとライト君が真ん中、マークが最後。これでいいかな?」



 全員が頷いたのを確認すると、続けてルアンさんが話し出す。



「ここに来るまでの森の中ではモンスターと遭遇しなかったけど、何時出て来るか分からないから十分に警戒を怠らない事。森を抜けた先の平原ではゴブリンやホグが出没するだろうから、その時は素材回収も兼ねて討伐しながら進もう」


「一つ良いかい、ルアン?」


「どうしたデラ、何か問題でもあったか?」


「いや、そこのライト君がどれだけ戦えるか、ってのは知っておかなくて大丈夫なのかって思ってね」


「……それは確かにそうだな」


「デラにしては珍しくまともな意見ね。私も賛成よ」



……あれ、何だこの流れは。随分と話の雲行きが怪しくなっているんだけど。


 嫌な予感が背中を這いあがっていくのを感じ表情を歪めているその時だった。背後から殺気のような威圧を感じ取った。



「っ!!」



 ヤバい、その場に居たら殺される。そんな感覚に襲われた俺は咄嗟に横跳びすると、俺の居た場所にゴツイ岩の様な……いや、あれは違う。あれは人の手だ。人の拳が、俺目掛けて振り下ろされていた。


 一体誰が。顔を上げて拳の先にいる人を確認すると、そこには無言でこちらを見下ろすマークさんがいた。



「っな……」


「へぇ、あの一撃を躱せるのか」


「悪くない身のこなし、ね」


「……良い」


「おおっ!? あの堅物マークが喋ったぞ!!」


「む……俺だって、喋る」



 何が面白いのか仲間内で盛り上がっているのを下から見ていると、俺の方に視線を向けたルアンさんが近付いて手を差し伸べてくる。



「いや、うちのマークが試すような真似をして悪かったよ。でも、死角からの一撃を躱せるのなら問題は無さそうだ。だろう、デラ?」


「あぁ、全くと言っていい程問題無いな」


「あの……今のは?」



 ルアンさんの手を取り立ち上がった俺がそう尋ねると、思っても見なかった答えが返って来た。



「この森を抜けた先の平原で出て来るゴブリンは狡猾でね。今みたいな不意打ちや奇襲を仕掛けてくるから、普段は良いとしても緊急の時は君を庇えなくなる。その時に君一人でも戦える、或いは時間が稼げるかを確認させて貰ったんだよ。こういうのは口で説明するよりは行動で示した方が早いだろ?」


「は、はぁ……」


「ま、取り敢えずは問題無さそうだから、早速出発しようか。

休憩は一度だけ挟むけど、森を出るまでは歩き続けるからそのつもりでいてくれ」



 何だか色々誤魔化されたと言うか、はぐらかされた様な気もするけど……実力を認めて貰えたのならそれでいいか。

 こうして俺は、お世話になった村に一礼した後、ルアンさん達と一緒に静かに村を後にするのだった。




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