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6 思わぬ機会





「あの……どちら様で?」



 武器を構えてはいるものの、その雰囲気から敵対するような様子は見て取れなかったので、とりあえずは対話を試みてみる。



「あぁ君はこの村の人かな? 僕たちはこの森を抜けた先の街から来たんだけど、良かったら宿を案内して貰えないだろうか?」


「宿……ちょっと、村長に聞いてみないと分からないですね」


「そうか。なら村長を呼んで来て貰えないだろうか?」


「分かりました。少しそこで待っていて下さい」



 四人組をその場で待機させたまま、俺は村長宅に駆けて行く。

 家の中では村長とその奥さんが仲睦まじく談話していたので、事情を説明して一緒に付いて来て貰う。



「旅の者、事情はここに居る者から聞かせて貰いました。ただ、誠に申し訳ないのですが、この村には宿という建物は存在していないのです」


「そうでしたか……」


「ですが、空き家を使うという事でしたら構いません。ここから左手に数件ほど空き家がありますので、ご自由にお使い下され」


「おお、それは助かります!!」


「では早速案内します。ライトさんは畑仕事が終わったらマリアさんの所に戻って頂いて結構ですよ」


「あ、分かりました」



 村長は四人組を柵の内側に招き入れると、そのまま何処かへと連れて行ってしまった。



「……何だったんだろう、あの人達」



 突然の来訪者に首を傾げるも、俺は僅かに残っていた自分の仕事をこなすのだった。



















──────────────────────





 今朝の四人組がこの村で滞在することが決まった夜、俺は四人組が泊っているという空き家を訪れていた。



「やぁ、君は今朝の」


「どうも」


「それで、こんな時間にどうかしたのかい?」


「いや、少しお話を聞かせて貰いたいなと思いまして」



 その言葉に頷いた男性は、快く空き家のリビングに通してくれた。

 リビングでは迎えてくれた男性以外の三人が、何やら楽しそうに話し合っていた。これは少しタイミングが悪かったかな。


 この四人組は男三人女一人で構成されていて、武装からして男の方は全員前衛職なのだろう。鎧だったり剣だったりが煌いていた。

 対して女の方は黒ローブを纏っていたから、恐らく魔法使いか何かなのだろう。生魔法使いだ、ファンタジーって感じがする。



「それで、一体何の話を?」



 席に着くと出迎えてくれた男性が話を振ってきたので、俺は仕事を探している事や街に興味がある事などを伝えた。

 村に稼ぎ先が無い事を考えれば、これはまたとないチャンスなのだ。



「なるほど、仕事を……」


「実は自分、たまたまこの村で居候をさせて貰っているだけで、この村出身では無いんです」


「そうだったのかい? てっきりこの村の青年だと思っていたけど……なるほど、それなら辻褄が合う(・・・・・)


「と、言いますと?」


「この村の男女比の事さ。この村には君以外の若い男がいない、それがどうにも不思議でね。君だけが浮いた様な感じになっていたんだよ」


「そうだったんですか」


「うん、まぁちゃんと答え合わせが出来て良かった、といった所だね。

僕個人としては何故ここまで男手が無いのか凄く気になるんだけど」


「……いや、それは知らない方が良いですよ」



 知って別に得する話でもないし、寧ろ事情を察してしまって悪い気分になるかもしれない。そもそも、部外者があれこれ語る様な内容では無い。

 その事をどう伝えようか思索していると、察してくれたのか男性は胸の前で軽く手を振った。



「ああいえ、本当にただの興味本位だから。こういう事に首を突っ込み過ぎるのは良くないって分かっているからね」


「はっはっは、よく言うよルアンは。お前それで何回クエストに失敗していると思っているんだ?」


「それは言わない約束だろ?

……っと、話を戻そう。仕事ならやっぱり冒険者組合にでも行ってみればどうだ?」


「冒険者組合?」



 初めて聞く単語に疑問の声を上げると、先程の男性ではなく向かいに座っていた黒ローブの女性が代わりに話し始めた。



「冒険者組合というのは、主にモンスター討伐や素材の納品依頼を、組合に登録した人に斡旋する場所の事。組合に登録した際に発行される組合証を持つ人以外が依頼を受けると、依頼達成時の報酬が半分になる」


「半分になっても、依頼を受ける事には受けられるんですよね?」


「受けられる。けどそんな事をする人は殆どいないし、組合に入ると組合で売られている商品を割引で買えたり、組合で管理されている書物の閲覧が出来たりするから、入った方が得」


「へぇ……」


「流石、友人に組合職員が居るだけあって説得力が違うな。そんなスラスラと利点を挙げれるのは凄いよ」


「……別に。毎晩聞かされているだけ」



 そう言ってそっぽを向いてしまった女性に、周りの男達は笑顔を向ける。素直に、こういう関係って良いなって思えた。



「ま、このスーシィの言う通り、組合に登録するのが仕事を見つける最短ルートだと思うよ?

腕に自信があるなら冒険者組合、商売とかをするなら商業組合、物作りをしたいなら鍛冶工房、農作物を作っていきたいなら農業組合、って所かな」


「……だったら、自分は冒険者組合ですかね」



 よく『異世界内政チート』とか聞いたりするけど、残念ながらその辺の知識は全く持っていないし、昔から不器用だと言われてきた俺に物づくりは無いだろう。農業は……ちょっと違う気がした。



「そうかい。僕としては同業者が増えてくれて嬉しい限りだよ。

あっ、そう言えば自己紹介がまだだったね。僕はこのパーティのリーダーをしているルアン。僕の隣にいるお調子者がデラ、口数の少ない彼がマーク、そしてパーティの紅一点のスーシィ。

パーティ名は”昼花”って言うんだ」


「ライトです。一応旅人をしています」



 互いに軽い自己紹介を済ませた後、ルアンさんからある提案を持ち掛けて来た。



「ライト君。僕たちは明日の明朝にこの村を出発して街に戻るつもりだけど、もし冒険者組合に行くのであれば一緒にどうだい?」


「えっ、良いんですか?」


「せっかくの縁だからね。君さえよければの話だけど」


「願っても無い話です。宜しくお願いします」



 この機会を逃せば、次街へ行く機会が訪れるか分からないからな。乗れる話には乗っておこう。



「分かった。なら明日の明朝五時半ぐらいにこの家の前に来て欲しい。それでいいかな?」


「はい。明日はよろしくお願いします」




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