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5 違和感と迷い人達




 兵士と交戦し始めてから少しの時間が経過した。



「「参りました」」


「お、おぅ……」



 目の前で二人の兵士が装備を地面に捨てて土下座していた。……どうしてこうなった。


 確か武装した二人が襲い掛かって来て、それを手に入れた体術スキルで全部捌き、手刀で武器を落とさせた後それぞれに一発ずつ腹パンを入れてやった。

 ただ、腹パンの威力が思っていた以上に高かったのか、兵士達はその場に蹲ってしまった。前に立った途端に、二人共が全速力で土下座をしてきたのだ。……弱過ぎじゃないか?



「申し訳ありませんでした。だからどうか、命だけは……」


「いや、別に命を取るつもりは無いけど」


「な、何と慈悲深い!!」


「いやいや、そう言うのじゃないから……」



 驚く程の手の平返しに苦笑する俺は、この二人の兵士から色々と事情を聞かせて貰った。

 村にいた老人以外の男性は全員労力として帝国に連れて行かれ、今も尚どこかで働かされている事や、高額の納税と引き換えに村周辺のモンスター狩りをしている事、村に稀に訪れる商人は帝国が斡旋している事など、村と帝国の関係について知っている事を洗いざらい吐かせた。



「……自分達から話せるのはそれぐらいです」


「そうか。……で、お前達の言動については」


「「完全に調子に乗ってました」」


「あ、そう……」



 野郎二人のシンクロ土下座なんてもう見たくないんだけど……放置しておくか。

 棘の取れた兵士達を他所に、俺は村の人達の方に視線を向ける。



「えっと……この二人、どうします?」



 罰するにもまず、一番の被害者の意見を取り入れるべきだろう。そう思って話を振ったところ、意外な事に村人達は難しそうに眉を寄せていた。



「……ライトさん。貴方が思っている以上にこの村と帝国の関係は複雑なのですよ」



 未だに蹲っている村長に代わり、奥さんがそう言葉にしていた。



「この村が森の傍にあってもモンスターに襲われなかったのは、帝国の兵士が見回りをしていたからです。もしそうでなかったとしたら、私達はとっくの昔に全滅していましたから」


「…………」


「出来るなら今までされた分の仕返しをしたいですよ。一度殺すだけじゃ足りないぐらいには、皆殺意を持っていますから。

……でも、それをした所で私達の生活が裕福になるとは思えません」



 俯きながらそう話す奥さんの拳は、痛い位に握り締められていた。いや、奥さんだけでは無い。他の村人達も皆、同じ感情を抱いているのだ。

 憎しみを持っていても自分達の生活の足しにはならない。長い間それを身に染み込ませていたこの村人達の中では、恐らく帝国兵を罰するという考えが風化してしまっていたのだろう。



(……力を持たない者は、力を持つ者には逆らえない、か)



 どこの世界でも地位という明確な差に悩まされる人はいるのだと、改めて痛感させられる。この人達は、現状の『解決』ではなく『回避』を望んでいるのだ。



「……お前達」


「「は、はいっ」」


「村の人達の優しさに感謝して、今回は見逃してやる。与えられた仕事だけ全うしろ。次は無いからな?」


「「は、はいっ」」


「よし、ならさっさと仕事だけして帰れ」



 俺の言葉を聞き終えた兵士二人は、地面に転がっていた剣を腰の鞘に納めると、深々と一礼して村の入り口の方へと向かって行く。



「……あ、ちょっと待て」



 少し駆け足の二人を見ていると、ふとある事が気になったので呼び止めて尋ねる事にした。



「な、何でしょう?」


「村周辺のモンスターを狩っているのはお前達か?」


「い、いえ。自分達は納税の徴収だけを命じられています」


「そうか。分かった、止めて悪かったな。行っていいぞ」



 視界から消えるまで兵士二人を見送った後、自分の中に変な違和感がべったり張り付いている事に、俺は首を傾げるのだった。



















──────────────────





 兵士達が去っていった翌日。俺はいつも通り二階のベッドで目覚めていた。

 あの後、村人達から称賛されはしたものの、心の底から喜んでいる様子では無かった。皆が皆、兵士に歯向かってしまった事へ何かしらの感情を抱いているのだろう。



「……あっ、ライトさんおはようございます」


「おはようっライトお兄さん!!」


「おはようございます」



 よって、俺の生活にも何ら変化は起きなかった。朝食はいつもの様に味気ない質素な物だし、自活する為の職を見つける目途も立っていない。

 本当は帝国兵に職について尋ねるつもりだったけど、あんな奴らに聞く気にはならなかった。というか、聞いても真っ当な答えが返って来るとは思えない。



「ライトさん。今日なんですけど、村長の畑を手伝ってきて貰えませんか?

昨晩、手が足りないと言っていたので」


「あ、はい分かりました」


「ライトお兄さん。それが終わったらセシルと森に行こう?」


「うん、分かった。早く戻って来れるように頑張るよ」


「うん!! 頑張ってね!!」



 そう言って満面の笑みを咲かせるセシルちゃんは、今日も天使でした。この子の笑顔を見ると、今日も一日頑張ろうと思えてくる。これが親心と言うヤツなのだろうか。



「それじゃあ行ってきますね」



 リビングでまだ朝食を取っている二人に言葉をかけ、俺はそのまま家を後にする。

 村は相変わらず閑散としていて、この時間に起きているのは娘を持つ母か老人達だけ。畜産業などもしていないので、動物の鳴き声すら聞こえてこない。


 そんな村を入り口と逆方向に歩いていくと、奥に一階建ての横長の建物が見える。それが村長宅である。



「おぉライトさん。おはようございます」


「おはようございます、村長。

今日は畑仕事を任せたいと聞いているんですけど」


「そうなんだ。ちょっと畑の雑草抜きやら整地やらを手伝って貰いたくての。頼めるか?」


「ええもちろんです。(くわ)と鎌をお借りしても?」


「畑の横に道具は全て仕舞ってありますので、それを自由に使って下され」


「分かりました。終わったら呼びに来ますね」


「よろしくお願い致しします」



 家の前で待っていた村長と軽い打ち合わせを済ませた後、俺は早速家の裏手の畑へと向かう。

 この村では老人であろうが女性であろうが、一家に一つ畑が用意されている。納税の為と自らの食料の確保の為に、全員が毎日あくせくと働いているのだ。

 育てるのは一週間から二週間で実を付ける栄養価の高くない作物が中心で、土の栄養を殆ど必要としない物ばかりだった。



「……うし、働くか」



 目の前に広がる畑には、確かに所々に雑草が生えているのが分かる。畑の隅の方は、収穫を終えた後なのか未だ掘り起こされたままの土が見えていた。

 畑仕事があるとは聞いていなかったけど、長袖長ズボンの畑仕事向きの格好をしていた俺は、右手の方に置かれていた道具を借りてサクサク仕事を進めていく。


 畑仕事はこちらの世界に来てから生まれて初めて体験したけど、あくまでも手伝いなので大した知識や経験は必要なく、思っていた以上に上手くこなせていた。



「ふぅ……雑草はそこに固めておくか」



 引っこ抜いて手の中に貯めていた雑草が持ち切れなくなり、俺は村を覆う柵に近い所に雑草を固める事にした。

 村の配置的に入り口から一番遠い所が村長宅なのは分かるけど、それでも村長宅の裏が畑や柵を挟んで森というのは、些か不用心だと思う。本人たちは殆ど気にしていない様だけど。



 雑草を抜き、鍬を振るいながら仕事を進めていく中、終わりが見え始めて来た頃だった。

 森の方の茂みが不自然に鳴るのが聞こえた俺は、作業の手を止めそちらに視線を向ける。



(……まさかモンスター? いや、しかしこの掻き分けるような音は……)



 直感的にモンスターじゃない気がするも、鍬を構えて迎撃の準備をしておく。


 そうして待つ事数分。森の方から出て来たのは、武装した四人の人間(・・)だった。




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