15 久しく見るのは
カレンの家に居候する事が決まってから早四日が経過した。
最近の俺の行動は、朝から夕方まで冒険者組合でクエストを受けて街の外で活動し、依頼完了の手続きを終えて組合を後にすると真っ直ぐカレンの家へと戻る、といった具合である。そして居候させてもらっている家賃として、稼ぎの半分を彼女に渡すようにしている。
家ではいつもカレンが夕食を作って待っている。俺が冒険者をやっている間は街の飲食店を訪れて回っているらしい。働き口と料理の勉強が出来そうな所を探しているのだとか。
しかしそう簡単に雇ってくれる店もないらしく、少し悲しげな表情をしていた。こちらの世界の飲食業は意外と厳しい世界なのかもしれない。
突然の居候に最初は申し訳なさで委縮しがちだった俺だけど、彼女の朗らかさもあって今ではこの環境を受け入れつつある。というか、結構楽しかったりする。
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所持Zp:209p
利用/ステータス変換/履歴
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今朝トイレに籠っている間にポイントカードを確認すると、念願の200pに到達していた。つまりこれはアレだ。忘れない内に習得しておかなければならないやつだ。
・収納魔法Lv1
というわけで早速習得した。
使い方とかはどうするのかと思い詳細な説明を開くと、どうやら頭の中で『収納』と強く念じれば良いらしい。するとブラックホールみたいなのが出現し、そこがアイテムの出し入れ口になるのだとか。
そしてここが大事な点なのだが、レベル一のままだと最大一キロ分までの重さの物しか出し入れ出来ないらしい。レベルが上がれば最大容量も増えるらしいので、ポイントが貯まればレベルを上げていきたいと思う。今はスペアキーだけを入れておくことにした。
リビングに戻ると、カレンが朝食を作って待っていた。どうやら今日のメニューは白パンと昨日の残り物のスープのようだ。
「お、早く朝飯食べようぜ?」
対面に座ってカレンの言葉に頷いた俺は、目の前の白パンを手に取って齧る。パン屋のパンだから柔らかくて美味い。それ以上の感想は特になかった。
カレンお手製のスープは完全に砂糖と塩の分量を間違えているので、結構甘い味付けになっていた。間違いなく不味いけど決して飲めない味ではないので、一思いに喉を通して朝食を食べ終えると、嬉しそうにカレンが笑っていた。
「今日もスープ飲んでくれたな」
「カレン、それ毎日いう必要あるか?」
「なんだよ。別に言うぐらい良いだろ~?」
まるで拗ねた子供のように頬を膨らませるカレン。大人がする行動ではない気がするが、カレンのその態度に不覚にも可愛いと思ってしまった。容姿だけは整っているからな、こいつ。
今日の食器当番はカレンなので、俺の分も一緒に台所まで運んでもらう。時計の針は六時半を指していて、家を出るまではまだ余裕があった。
「……なぁカレン。教会ってどこにあるんだ?」
「教会? ならこのアパートの下の通りを、組合とは反対側にずっと進めばあるぞ」
俺が彼女にこの質問をしたのにはちゃんとした理由がある。こちらの世界に来る前にあのギャルお姉さんが「教会に寄って頂戴」と言っていたのを思い出したからだ。寄るだけで良いのだから、また忘れない内に行動しておきたいのだ。
「ん、ありがとう。じゃあ俺はそろそろ行くよ」
「おっけー行ってらっしゃい。今日の晩飯は肉炒めにする予定だから楽しみにしてろよ~?」
「……まぁ、うん」
「あっお前今絶対バカにしただろ!? せめてもっと────」
朝っぱらから元気だなぁ、カレンは。長話に付き合わされる前に早いところ家を出ようっと。
今にも襲い掛かりそうな勢いで文句を言ってきそうな彼女から逃げるように、荷物をもって慌てて家を出た俺は、少し駆け足で教会の方を目指した。カレンなら追っかけてきてもおかしくないからな。
幸いな事にカレンが追っかけてくる様子はなかったので、一息ついてから街道を歩いていく。この時間帯は人が少ないので、ゆったりとした気持ちで街を歩ける。こういう時間は結構好きだったりする。
歩き始めてから二十分ぐらい経過しただろうか、前方に青い屋根と白く綺麗な装飾が特徴的な建物を見つけた。天使のような銅像が幾つかあるので、そこが教会だとすぐ気付けた。
近づくと入り口近くで掃き掃除をしている一人の修道女が目に付いた。軽く会釈すると向こうも会釈し返してくれたので、ちょっと嬉しかったりする。
教会の中は日本の教会のように、一番奥に女神様らしい像が置かれ、そこまでに続く中央の道を挟んで左右等間隔に長椅子が並べられていた。
中には既に数人の参拝客がいて、長椅子に座って手を組み祈りを捧げていた。
(こういった文化は地球のと変わらないんだな……)
実際前の世界で教会に訪れたことはなくとも、ドラマやネット記事などで何度も目にしていた光景に親近感を覚えていると、俺の方に小さな箱を持った修道女が近づいてくる。
「ここに来られるのは初めてですか?」
「え? あぁはい、そうですけど」
「そうでしたか。参拝される方には50リンの寄付をお願いしているのです。寄付の方をお願いしてもよろしいでしょうか?」
なるほど、こっちではそういうシステムなのか。よくよく考えたら神様にお祈りするのがタダってのも変な話だしな。
リュックの中から小銭入れを取り出し、50リン、大石貨五枚を……無かったので、100リンに当たる銅貨一枚を差し出した。
細かい小銭をもらうのも面倒だったので、お釣りを返そうとする修道女に「お釣りは結構です」と告げ、空いている席に腰を掛ける。
目を閉じて手を組み、特に何も考え事をせず祈りを捧げていたその時だった。
座っていたはずなのに、急に尻の下にあった椅子が無くなり尻もちをついてしまっていた。
「痛っ!? 何が……はぁっ!?」
「やっほ~久しぶり~!!」
一体何事だと目を開けると、久しぶりに見た真っ白な光景に、ニヤニヤと笑みを浮かべた例のギャルお姉さんが立っていた。