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12 一件落着……?




「……ごめんなさい。みっともない所を見せてしまって」



 暫くして、涙が収まった彼女は俯きがちにそう呟いていた。

 当たり障りのない返事を返していると、俺は慌てて彼女に背を向ける。落ち着いてしまうと、見えていなかった物が見えてしまう。



「……? どうかしましたか?」


「その……前を隠された方が良いかと」


「えっ────あっ!?」



 俺に示唆されてようやく気付いたらしく、彼女は慌てた声を上げていた。あんな事があった直後はお互いに気が気じゃなかったからなぁ。



「着替えとか持ってますか?」


「あ、はい一応は……」



 衣類を入れている鞄を持っている様子は無かったけど、本人があるというのならあるのだろう。現に背後から布の擦れる音が聞こえて来る。

 何と言うか……変な気分になるな、これ。綺麗な女の子が自分の後ろで着替えているなんて……いや、あんまり考えるのはよろしくないか。



「着替え終わりました?」


「はい……」



 彼女からオッケーのサインを貰い振り返ると、破かれた服と同じ様な厚手の長袖を着ていた。歳相応の華美さは無いが、冒険者としては基本的な格好である。

 振り返ったはいいものの、何と声を掛ければ良いのか困っていると、俺を見た彼女は深々と頭下げた。



「えっと、取り敢えず助けて下さってありがとうございました。

私の名前はノアって言います。貴方のお名前を聞いても?」


「俺はライト。好きな様に呼んで下さい」


「じゃあライトさん。何かお礼をしたいんですけど」


「いや、別にお礼を貰うような事はしてないですから。

それに今考えるべきなのは、あの男達にどうやって賠償金を払わせるかですよ」



 たとえそれが異世界で、未遂であったとしても強姦は犯罪だ。それも集団で襲う様な真似が、そう許されていいものではない。



「こういう輩は一度痛い目を見ないとまた……ってど、どうかしました?」



 男六人組への対応を考えていると、彼女は何故かクスクスと笑っていた。無意識のうちに何か変な事を言ったのだろうか?



「ふふっ……すいません。でもライトさんが余りにも真面目な事を言うものですから、それが可笑しくって……」


「そ、そんなに変でした?」


「変ですよ。襲ってきた相手に賠償を求めるなんて、普通思い付かないですよ」



 笑いながらそう言葉にする彼女だったが、俺にはそれが不思議でならなかった。彼女の言い方では、まるでこの世界には法が定まっていないと言っているようなものだったからだ。

 この世界の法律について同尋ねるべきか悩んでいると、彼女の方からとある提案をされた。



「ねえ、ライトさんってソロパーティですよね?

もし良かったら私と組みませんか?」


「組むって……パーティを、ですか?」


「はい。パーティとして貢献する事でお礼が出来れば良いと思いまして」


「い、いや。別にそこまでしてお礼をして貰う必要は無いですから。本当に大した事していませんし」


「……見た目以上にお堅い人ですね。ではお礼とか関係無しに私とパーティを組んで貰えませんか?」



 この子、お淑やかな見た目と違って随分と積極的だな。いい意味でギャップを感じる。


 しかしパーティを組もう、と言われてもそう簡単に頷いていいものなのだろうか。パーティを組むと多少なりとも普段の生活に変化は生じるだろうし、何より男女でパーティを組むと性別的な問題が増えてしまうかもしれない。……別に俺の貞操観念が緩いって話じゃないぞ、うん。



「……男とパーティを組むのに抵抗は?」



 さっきの事があった以上、男に対しての嫌悪感は抱いている筈。だとしたら俺と組むべきではないだろうとそう思っていると、彼女は首を横に振って答えた。



「勿論、男なんかと組みたいとは思いません。男なんて皆等しく卑しい生き物です、即殲滅されるべきです」


「そこまで!? い、いやだったら俺とも組めないのでは……」



 言っている事が矛盾している気がするも、俺がそう尋ねると彼女は再び顔を左右に振った。



「それは違います。私が組みたいのは貴方であって、一人の男とでは無いですから」



 ……つまりどういう事だ? 俺とは組みたいけど、男としての俺とは組みたくない。そう言ったニュアンスの事を彼女は言っているのか?



「……あの、何か勘違いしているかも知れませんけど、俺だって一応”男”ですよ?

その、もしかしたら不快に思わせる様な言動を取るかも知れませんし……」



 デラさんのように公の場で「娼館行こう」と言う事は無くても、それに近い事は言ってしまうかも知れない。というか、言わない保証は絶対できないと思う。

 正直、今だって「こんな綺麗な子と話せて嬉しい」程度の下心は持っているし、持つなと言われても持ってしまうと思う。彼女の期待に副えないのは確かだろう。


 誘って貰っておいて申し訳ないなと思いつつ彼女の方を見ると、思いの外しょんぼりとしていた。



「そう、ですよね……分かりました。パーティの件は無しにしましょう、お礼はいつか必ずさせて下さい」


「えっ、あっ……行っちゃったよ……」



 一方的に話して街の方へと走り去ってしまった彼女を呆然と見送った俺は、ポツリと残されたボアの死体を見て溜め息をつく。



「……これ、どうするよ……」



 もしかしたら途中で気付いて帰ってくるかもしれない。その可能性に期待するも、結局彼女は俺の視界から消えるまでの間に帰ってくる気配が無かった。

 忘れ物とはいえ、ボアの死体を持って彼女を追い掛けるのもどうかと思ったので、取り敢えず俺は自分のクエストをこなす事にした。というか、俺もボアの死体を放置したままだった。



「危うく忘れる所だった。これじゃ人の事言えないよな、はは……」



 自分の狩った死体の所へと戻り、覚えた手付きでボアから魔石を回収しようとする。ただ、ナイフで腹を裂こうとした所で手が止まった。



(待てよ……? このまま魔石を取ろうとしたら、間違いなく手が血だらけになるよな。研修中は傍に水が常備されていたからそれで洗い落とせたけど、水を持っていない今これをしてしまえば、血を落とす手段が無くて詰むのでは?)



 流石に手を血塗れにしたまま組合に戻りたくないと思った俺は、ナイフを一旦仕舞い久しく取り出していなかったポイントカードを取り出した。




──────────────────


所持Zp:97p


利用/ステータス変換/履歴


──────────────────




 予想以上に増えていた。前の村娘を暴漢から救った50pと今回の件がほぼ同じだと考えても、それと同じだけのポイントが別で入っていたのだ。

 驚きを隠しきれない俺は『履歴』を確認すると、以下のように新たな文字が並んでいた。



・女性を暴漢から救う > 50p

・その他の納品依頼 > 5p

・魔石の納品依頼 > 10p

・魔石の納品依頼 > 10p

・魔石の納品依頼 > 10p

・採取の納品依頼 > 5p

・採取の納品依頼 > 5p



 50p分は予想通りだったが、残りが分からない。納品依頼という文字だけを見れば冒険者関連の事なのは察しがつくけど、だからと言ってどうしてその事が”善行ポイント”と関係するんだ?



「……考えても無駄、か」



 ポイントが減った訳では無いし、寧ろ稼ぎ口を知れたのだから態々文句を言う事も無いだろう。そんな事よりも今は、前々から取ろうと思っていたスキルを習得しなければ。

 と言う訳で今回俺が習得したのは以下の二つのスキルである。



・生活魔法Lv4  ・共通言語読み書き



 生活魔法は小さな火を起こしたり汚れを取ったりする魔法で、数多くある魔法の中でも唯一無詠唱で魔法が使えるスキル。誰でも習得可能な事もあって、小さい子ですら平然と使用していたりする、割とガチで優秀なスキルだったりする。因みにLv4までで使用可能なのは汚れを落とす”クリア”だけである。


 もう一つの共通言語読み書きはその名の通り、この世界で使用されている言語の一つの『大陸共通語』を読み書き可能になるスキルである。習得には30p必要で、習得した途端頭の中に情報の山が放り込まれる感覚に襲われた。これで生活がかなり楽になるはずだ。



 スキルを取り終えた残りのポイントは37p、もう一つぐらいなら取れそうだがそれは止めておく事にした。理由としては一つ、どうしても欲しいスキルがあるからだ。


 その名も”収納魔法”。所謂『特殊スキル』に分類されるスキルで、Lv1での習得でも200p必要になる。

 しかしその能力は折り紙付きで、時間軸の無い亜空間に物を出し入れする事が可能という、鞄職人泣かせのスキルだったりする。



(……あと何日かクエストこなして、何とか手に入れたい所だな)



 新たな生活に間違いなくゆとりを持たせてくれるそのスキルを夢見ながら、俺は魔石回収作業を再開するのだった。





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