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*プロローグ 憧れていた世界へ!!





 昔からよく「人助けをすると廻り廻って自分に返って来るから、困っている人を助けられる人になりなさい」と言われてきた。


 因果応報、とでも言うべきなのだろうか。その言葉を重んじていた両親は俺を、正しい行いが出来る人になる様に教育していた。それが悪い事だとは絶対に思わないし、寧ろ感謝さえしている。お陰で悪い事には「悪い!!」と言える人間になれたし、この事は自分でも誇りに思っている。



 だけど、ふとした時に考える事がある。



「……人助けって、何だ?」



 困っている人の手助けをするのが人助けだ、という人がいる。恐らくそれは正しいのだろう。

 だけど、実際に困っている人を見かけ、いざ助けると「……困る前に助けて欲しかったかな」と答える人もいる。その人は感謝を告げる事無く、寧ろ機嫌を悪くして人込みに消えていってしまう。これでは前述した人助けに当てはまらないではないか。


 見る人からしたら「くだらない話だ」と思うかもしれない。しかし、その事に真摯に向き合うよう教育されてきた俺にとっては大問題であり、青春はこの問題と共に歩んで来たと言っても過言ではないぐらい、長きに渡って考察し続けて来た。



 そうして二十を迎えた翌日の事。とうとうコイツに俺なりの答えが出せた。




”助けたいって思ったらそれが人助けだ”




 この結論が出せた時、俺の中でずっとしこりになっていた問題が氷解した。この事を、あの両親に今すぐ知らせたくなった。

 因みにだが、これを思いついたのは気分転換のついでにコンビニに向かおうとして、夜中にアパートを出た瞬間だった。……何故かは俺にも分からない。



 アパートからコンビニまでは歩いて十分ぐらいの距離にあり、閑静な住宅街を抜けた先の角に建っている。

 ここら一帯でコンビニと言えばそこしかないので、結構な頻度でお世話になっている。早朝シフトの店員には顔を憶えられているレベルだ。俺も憶えている。



「……何買おうk────」



 今食べたい物って何だろう、などと考えながら階段を降りようとしたその時だった。

 運悪く階段を踏み外した俺は、そのまま下へと吸い込まれる様に滑っていってしまった──────




















───────────────────────







「ぎゃはははははっ!!!!!!!」


「…………」



 前略。目覚めたら目の前で、金髪ゆるふわカールの如何にもギャルっぽいお姉さんに笑われていました。……何で?



「ひゃはははははっ…………はぁっ、ふぅ……いや~、久し振りに大笑いしたわ。お腹痛い……」


「は、はぁ……」


「……あっ、そっか君知らないんだ!?

そりゃそうだよね~、階段踏み外して頭ぶつけて気絶したもんね~」



……あぁそうだった。ちょっとだけ思い出せた気がする。確かコンビニに行く為にアパートを出て、そのアパートの階段で転んだんだっけ。

 でも、だとしても、扉も窓も電気も何も無いのに明るい真っ白な空間で、俺とこのギャルお姉さんが向かい合って座っている事とどう繋がるって言うんだ。誰なんだ、このギャルお姉さん。


 色々説明が欲しいと思っていると、そのギャルお姉さんから衝撃の事実を突きつけられた。



「いや~、あんまりショック受けない様に聞いて欲しいんだけどね?

君、階段で気絶した後、そのまま滑り落ちていっちゃって。んで、結構スピード出てた訳よ。そしたら階段の先で偶々工事していたマンホールの中にすっぽりホールインワンしちゃってさ!! それも頭から!!

まぁ、ここまで言えば分かると思うけどさ? 君、死んだんだよ」



 死んだ。……死んだ?

 つまり、何だ。俺は命を失ったという事なのか。


 いや、しかし。その事実を伝えるには、彼女の喋り口調では余りにも信憑性に欠けてしまっていた。



「死んだって……それは無いだろ?

今だって、こうしてあなたと喋れている訳だし……」


「そりゃ喋れるわよ。だってあたし神様だし?

死んだ君をあたしの前に連れて来るのなんて、朝飯前だし」


「神様? いやいや、それこそ無いだろ……」



 正直、このギャルお姉さんは胡散臭すぎる。

 神様なんている訳が無いし、もしいたとしても、そう簡単に人の前に現われていいモノじゃない。そもそも、俺の死に方が有り得なさ過ぎるだろ。何だよ、マンホールに落ちて死んだって。


 思った事をそのままぶつけてやろうか、そう思った俺だったけど、それよりも先にギャルお姉さんが目を細めて言い返して来た。



「へぇ、信じないんだ?

だったらさ、この空間がライトみたいな光源無しで明るい理由を説明できんの? 扉の無いこの空間を出入りする方法を説明できんの? 君の()()()()()()()()()のに、生きているって説明できんの?」


「っ!?」



 ギャルお姉さんの言葉に、俺は無意識に自分の左胸に手を当てていた。……う、動いていない。鼓動も、血液の流れさえも感じられなかった。



「な、何で……」


「ほら、説明できないでしょ?

説明できないって事は、それはつまり君の常識では有り得ない事がここでは起きているって事なの。分かる?」


「……わ、分かるけど」


「うん、分かればよろしい。んじゃ、話を戻すけど、君はまぁ無惨な死に方をしまし……ぷっ、思い出しただけで笑ってしまいそう……」



……さっきからこのギャルお姉さん、結構失礼じゃないか? いや、まぁ笑われるような死に方をした俺にも非はあるのかも知れないけど。



「……笑ってないで話を進めてくれよ……」


「くくっ……ごめんごめん、つい、ね。

えーと、何処まで話したっけ……そうそう。君は死んだ訳なんだけど、人が死んだ後は死者担当の神様達が”魂の整理”をするのよ」


「魂の整理?」


「そう、魂の整理。言ってしまえば、死んだ人の一生を振り返って、良い魂と悪い魂に分別するのよ。

良い魂はそのまま再利用できるけど、悪い魂は一度クリーンにしてからじゃないと再利用できないのよね。これがまた面倒でさぁ? こないだだって────」


「……また脱線してるぞ」


「────っとごめんごめん。話を戻すけど、その魂の整理を君でした時にさ、短いけど君の一生を見させて貰った訳よ。そしたらまぁ『何この子真っ直ぐな生き方してるじゃん!!』ってなってさ、ついこうしてここに呼び出したってわけ」


「な、なるほど……?」


「あーあー、理解出来なくていいよ。こんなのは神様側(コッチがわ)の話だし、君が気にする事じゃないからね。

……んで、本題なんだけどね。君、異世界(・・・)に興味ある?」


「……へっ?」



 急な展開に、俺は思わず聞き返してしまっていた。異世界? 何その夢がタップリ詰まったファンタジーな提案は。



「ははっ、そりゃ急に言われてもビックリするよね。

異世界ぐらいなら君も知ってるでしょ? 君の前持っていた本とかのテーマにもなってたし。

要は『この神様であるあたしが君を異世界転生させてあげましょうぞ~』ってな話よ」



 物凄く噛み砕いて話をするギャルお姉さんだけど、正直メチャクチャ良く分かった。こういう時に砕けた口調って有難みを感じると言うか、何と言うか……

 しかし、まさかこの俺が異世界転生する事になるなんて思っても見なかった。嬉しい、うん、今にもガッツポーズしたい程嬉しい。あぁ嬉しい。



「……そのカンジだとオッケーそうね」


「そりゃあ、異世界転生して嬉しくない男なんていないって」


「へぇ~、そんなモンなの?

ま、いっか。そんな事より大事な話だけど、当然ただの人間である君がそのまま異世界なんて行ったらさ、それこそもっと酷い死に方するに決まってるじゃん?

だから、神様のあたしからあんたにピッタリのプレゼントを用意してみました~」



 ノリノリなテンションで喋るギャルお姉さんは、着ているパーカーのポケットから何やら黒いカードを取り出して、(おもむろ)に投げつけて来た。



「うおっ、いきなり投げつけるなよ……んで、これは?」


「それはね、”善行ポイントカード”って名前のカードで、持っているだけで君の行いに対して”善行ポイント”が徐々に貯まる様になってるんだわ」


「善行ポイント?」


「善行ポイントってのは人助けとか、善い行いをすると貯まるポイントの事。それを貯めると、色んなモノと交換できるようになってるよ。って言っても分からないだろうから、取り敢えず試しにそのカードの中央辺りを親指でぎゅっと握ってみ?」


「こ、こうか……っておぉう!?」



 言われた通りにカードを握った直後、目の前に半透明な画面が浮かび上がって来た。

 よく見るとカードから出ているらしく、原理はホログラムみたいなものなだろうか、横長なその水色の画面には『所持Zp:0p』という表記と、『利用/ステータス変換/履歴』という表記が書かれていた。最初の表記は白色の文字で書かれていたのに対し、最後の表記だけ黄色だった。



「おっ、ちゃんと出せたじゃん。この画面を見たらわかると思うけど、Zpってのが善行ポイントね。これを貯めると、その下にある『利用』とか『ステータス変換』とかで使うことが出来るってわけ。『履歴』はまぁ、説明しなくても分かるっしょ。

ポイントを使う時はその文字に触れればいいから。ま、それはポイントが手に入ってからのお楽しみって事で」


「……因みに、この画面ってどうやったら消せるんだ?」


「あーそれはあれだよ。もう一回カードの中央を強く握ったら消えるってシステムだよ。

それとなんだけど、カードは五分以上触らなかったら自動的に君の身体に戻るし、そうじゃなくてもカードを右手首に押し付ければ身体の中に収納できるよ。取り出すときは右手首を指で一往復なぞればオッケー」


「……おぉ、本当に吸い込まれてった」


「でしょ? これあたしが作ったんだけどさ、ケッコー便利じゃない?

……っと、そうだった。あんまり長時間話してると君が消滅するんだった」


「……はい? 消滅? ……それ、マジで言ってんのか?」


「マジマジ、超大マジ」


「……」


「……?」


「……いやいや、もっと早く言えよッ!? 何だよ消滅って!?

あれか!? 俺が霊体みたいなもんだから成仏的なそう言うノリか!?」


「ちょ、落ち着けって。まだもう少し余裕あるし、今の内に異世界飛ばしちゃうからっ」



 そう言ってギャルお姉さんは俺の前で両手を突き出すと、眉間に皺を寄せながら「むむむ……」と唸り出した。何、そんな古典的な感じで異世界に行っちゃうの、俺。


 ものの展開に少々不安を感じていたけど、俺の足元を中心に灰色の歯車みたいな魔法陣が出現した事から、急に実感が湧いてきた。今から本当に異世界に向かうんだ。



「むむ……よし、これでオッケーね。

君、一応言っておくと、異世界でも馴染めるように向こうの人っぽい見た目にしてあるから。服装も向こうでの庶民の服にしておいたし、向こうの大陸共通語なら聞き取れて話せるようにもしておいたから。ありがたいでしょ?」


「おぉ、それはすっごく助かる。ありがとう」


「でしょ。あ、それと名前も変わってるから注意してね? 向こう着いたら教会に寄って頂戴?

んじゃ、異世界いってらっしゃーいっ」



 何とも陽気な見送りをされつつ、魔法陣から出る光に包まれる俺は、異世界という未知のロマンに期待を膨らませ、その場所から姿を消すのだった。




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