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 ユークリッドとの面会してから、ミレイナは徐々に回復していった。

 精神的に消耗しきっていた彼女はベッドから上半身を起き上がらせることにも難儀していたが、徐々に体に力が入るようになった。

 次に面会した時に、ユークリッドはボロボロになっていた。

 バルクとの橋渡しを頼まれたのでやってみたが、アドニスと同じようにとても激しい訓練をこなしていることを告げられた。


「無理は、しないでね」

「もちろん!」


 素晴らしい笑顔でユークリッドは断言した。

 ミレイナはこれを信じた。

 けれど、ユークリッドはこれを無理の範疇には入れてなかった。

 これは無謀な事なのだ。

 だからと言って止めることはしない。絶対に。

 何度も、何度も、二人は面会し、言葉を交わした。

 それだけで、力が沸き上がった。

 やがてミレイナが動くのに支障がなくなると、再編されたパーティーと会った。

 そこにはバルク、ランディ、アドニス、ウェア、ユークリッドの面々がいた。

 ユークリッドは約束を守ったのだ。今度こそ勇者パーティーとして一緒に行動できるのだ。

 それがとても嬉しかった。


「皆、また、よろしく!」


 再び、勇者は立ち上がれた。


 ◇◇◇◇◇


 勇者の力の源は女神の加護だ。

 それがただの村娘に力を与えている。

 しかし、勇者のみに作用する訳でもない。

 勇者が仲間だと認識した者にも、加護は作用する。正確にはその余波だが。

 その余波は仲間たちの力を増幅させる。筋力や魔導力はもとより、回復力や肉体強度そのものまで強くなる。

 だからこそ勇者パーティーとして選ばれる戦士たちは厳しい審査によって選ばれる。そうして選ばれた精鋭が勇者の加護の余波で力を増し、少ない戦力でありながら魔物との激戦をこなしてこれた。

 新たに編成された勇者パーティーは今までで一番人数が少ない。それでも、出撃してからは今までと同じとは言えないが、しっかりとした戦果を上げた。

 それは加護の余波を受ける人間が少数だからだ。

 余波というものは一定量が勇者から放たれている。それを受ける仲間が多ければ多いほど増加量は少なくなり、受ける仲間が少なければ増加量は増える。

 さらに言えば、ミレイナの意識の違いも影響している。

 ユークリッド、アドニス、ウェアの三人はミレイナにとって大切な仲間だ。今までの勇者パーティーの仲間たちも大切だが、歳が離れていたり勇者という立場に遠慮されていたりと、少しだけ隔たりがあった。

 しかしこの三人との距離は近く、同年代ということもあってかなり親しく、また三人ともミレイナを心から信頼しているために余波を受け取りやすい。

 連携も見事だ。お互いがお互いを思いやり、話し合い、練習をして、さらにできることを模索していく。

 量より質を高めていく方針だ。

 前衛をミレイナとユークリッドが務め、前衛のサポートや後衛のフォローといったことを遊撃手としてアドニスが行い、後衛としてウェアが魔導術で援護する。それだけではなく、後衛が前衛と肩を並べたり、前衛が後ろに下がって援護したりと、画一的なものではない柔軟な対応も当然のように行っていた。

 後方支援として神官戦士のランディが細やかな気配りをしたり、回復術を施したり、若者たちが十全に戦えるように奮闘していることも多大な功績である。

 誰もが己の職務を全うするために全力を尽くした。


 しかし、バルクだけは違った。


 彼は騎士でありながら剣以外にも槍も斧も使うし、弓も使う。他にもスリング、ボーラ等の投擲武器、毒も使うし罠も使う。

 前衛から後衛まで満遍なくこなせるオールラウンダーとしてパーティーに貢献していた。

 一番の貢献は、ミレイナを狙う欲にまみれた者たちを誰に知られる事なく処理してきたことであるが。

 そんな彼は、旅の途中から徐々に力不足に陥っていった。

 他のメンバーよりも早くに消耗し、負傷も多くなり、早々に戦闘から離脱する回数も増えていった。

 それでも、バルクは生き残った。今までもそうだったように、生き足掻いてきた。

 しかし、それも限界だった。

 バルクは死線を何度も何度も潜り抜けてきた。その度に心にも体にも癒しきれない傷を負ってきた。どんなに治癒を受けても、こびりついたように傷は残った。

 その上で、勇者パーティーとして戦い続け、さらに勇者を狙う者との暗闘もこなす。

 許容できる量など、とっくに超えていた。

 年齢も理由のひとつだ。若い頃ならまだまだ無茶ができた。今、バルクは四十二。まだまだだと言う者もいるが、年齢一桁の頃から戦い続ければ、体にガタの一つや二つ、来てもおかしくはない。

 もう一つ付け加えるなら──加護の余波がバルクに届いていないのだ。

 あくまでも他者が強化されるのは副次的な効果に過ぎない。

 勇者が意識して力を与える、ということは出来ない。

 女神の加護は勇者だけに与えられるもの。おこぼれに預かっているだけなのだから。

 加護の余波が届かないということは即ち、素の状態だということだ。

 強化された人間でさえ容易く命を落とす戦いの日々を、無強化のまま生き延びる。

 後方要員だったりすればそれも可能だろう。

 しかし、バルクがいたのは前線だ。前線で戦い続けてきたのだ。

 彼の実力は上の下。直接的な武力と、その圧倒的な手札で戦い続けてきた。

 それが、もう通用しなくなってきた。

 魔王が出現してから時間がたち過ぎて、魔物はどんどん凶暴化し、個体自体の強さも上がっている。

 そんな状況下で、動きの精彩を欠き、すぐに息切れする者がいれば──。

 このままいけば、遠からずバルクは死ぬ。

 今の勇者パーティーのメンバーにとって、バルクは大切な仲間だ。

 善き父親、善き友人、そして大恩ある師。

 そんな彼を死なせたくない。

 でも、神殿に残って大人しく待つことを、バルクはよしとしなかった。

 ミレイナたちも、彼がいることで安心感があった。危険を承知で、彼に依存していた。甘えていた。


 それも、終わりが来た。


 神殿からの定期報告で、各国の王たちがようやく魔王の討伐作戦を決めたのだ。

 それは魔王の所在が掴めたことを意味する。

 魔王は常に、人に似た形態を取る。大きさも人間と同等。古代から綴られる文献によると、子供くらいの大きさから大柄な大人まで多様。

 この広い世界で、魔王を見つけるのは多大な時間がかかる。魔物が活発化して危険な世界を調べるのだから、相当な苦労だ。

 それが完了し、各国がそれに向けて動き出した。

 魔王の周囲には魔物で溢れている。魔王に近ければ近いほど、より強化されているのも文献に記載されていた。

 これから各国が連合を組み、多大な軍勢を以て魔王の周囲にいる魔物を誘導し、勇者パーティーが一点突破で進撃し、魔王を殺す。古より伝わってきた、魔王討伐の戦法を実行するとき。

 もしかしなくとも、誰かが死ぬ。

 最悪全滅もありうる、最大の戦いだ。

 それでも。

 いや、だからこそ。


 勇者ミレイナは。

 聖騎士ユークリッドは。

 弓士アドニスは。

 魔導士ウェアは。

 神官戦士ランディは。


 騎士バルクを、勇者パーティーから外すことを、決定したのだった。

 生きて、再び会いに行くために。


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