「同窓会・オブ・ザ・デッド」
俺は5年ぶりに地元に帰った、高校の同窓会に出るために。
「よお、脩。元気だったか!? いま、仕事なにしてんだ!?」
会場はホテルのフロア。
人数も数えられない程、たくさんの男女が立食式のパーティに参加する。
確か、学年の人数は・・・1クラス40人×7クラスで280人か。
まさか全員が参加してるとは思えないけど
"○○高校41期生の集い"と表記されていた。
少なくとも100人は集まっているだろうか・・・
「よお、洋。元気そうだな、俺はいま・・・」
「なあ! 透見たか!? 俺とお前と、透の3人でやってた倶楽部! まだ存続してるらしいぞ!」
「へー、ゾンビ対策部が?」
ゾンビ対策部。
正式名称は科学部だが。
当時の俺と、洋、透の3人は理科準備室にあるテレビで、放課後毎日『バイオハ○ード』シリーズをやっていたからそう勝手に名称した。
3人とも今で言うヲタクで、ゾンビが実際に学校を襲ってきたらどう対処するか等、妄想談義に華を咲かせていた青春時代。
俺の青春は他にあった。
俺がわざわざ東京から飛行機を使って帰ってきたのにも訳がある。
「なあ、2組の石川さん見たか?」
「お! 脩! まだ石川さんの事好きなのかよー。」
石川さん。
隣のクラスの女子バスケットボール部の女の子。
彼女とは、2年の体育祭で出会った。
中学までバスケ部だった俺が率いた2年1組はトーナメント順にも恵まれ、決勝戦まで勝ち進んだ。
その試合で審判をしていたのが・・・石川さんだった。
第4クォーター残り10秒。
2点差で負けている俺たち。
3ポイントラインに立ちパスを貰った俺は激しいマークを受けながら放ったシュート。
リングに当たり、弾かれ、落ちたボールは敵チームが掴み・・・
ピィー!
勝利の女神が鳴らすホイッスルが高らかに体育館中に響き渡った。
シュート時のファウル、フリースロー。
汗を垂らし、ポニーテールに結んだ審判、石川さん。
体育祭という催しものの中、真剣に笛を吹かない審判たちとは違い、石川さんは俺の受けたファウルをしっかり見ていた。
そして、俺もそんな石川さんに見蕩れてしまったのだ。
「・・・結局、脩が1本しか決めれなくて負けたんだよな!」
「でも、その後。市民体育館で何度かデートしたぞ。」
「それは、デートじゃねえよ! 只の練習!」
洋も、透も知らないだろうが。
その後、俺と石川さんは付き合ったんだぜ。
イケてないグループの最下層に位置していた"ゾンビ対策部"のメンバーで唯一の彼女持ち。
俺が東京の大学に出ると同時に遠縁となってしまったが・・・
石川さんは元気かな?
顔を見たい。
話したい。
今でも後悔しているんだと。
伝えたい。彼女と別れてしまったことを・・・
「ギャーーッ!!!」
青春に思いを馳せている中"ヤツラ"は現れた。
確か、6組の鮎川さんだ。
新任教師と付き合ってると噂されていた女の子。
その子の悲鳴が聞こえた。
突然の悲鳴に場が静まる。
俺と洋は、人混みを掻い潜り、悲鳴の聞こえた方へと近づき。
そして
グチュ・・・ブチッ! グチュグチュ・・・ブチッ!
食べられている鮎川さんを見つけたのだ。
「ゾンビだぁぁぁー!!」
洋が叫んだ。
当時、何度も朝礼の時に叫んだ悪戯の言葉。
その言葉は5年越しに本物となった。
服はボロボロ、身体も濃い緑色に腐食していて、ところとごろ骨がむき出しになっている・・・たぶん男。
ソレが鮎川さんの首もとへとかじりつき、噛み砕き。
生々しい音が静寂のパーティ会場へと木霊した。
「逃げろぅー!」
誰かが叫んだ言葉を切っ掛けに会場は阿鼻叫喚。
逃げ惑う同級生たち。
何処からか入り込んだ腐敗した人間・・・ゾンビ。
扉へと、出口へと駆け出す奴等は。開けたドアに待ち伏せていたかのように居たゾンビたちに鮎川さん同様、喰われた。
どうすることも出来ずしゃがみこむ同じクラスだった村瀬さんは、ゾンビ化した鮎川さんに喰われた・・・
俺は呆然と立ち尽くしていた。
「脩!」
急に隣にいた洋は、俺の手を掴み走った。
その動きに俺は付いていき、
洋は、会場のスタッフ入り口である裏口の扉を蹴破り、先へと先へと走った。
「お前も足を動かせ!」
「あ、ああ。」
「こういう状況! 俺は何度もシミュレートしたぜ!」
5年前のシミュレートを活かすかのように、洋は後方から聞こえる悲鳴や足音を気にもかけず裏道を走り続けた。
「こんなのって!」
「あり得ないよな!」
何処か嬉しそうに叫ぶ洋に導かれて、俺たちは出口を求め通路を駆け巡った。
そして・・・
「洋?」
地下駐車場へと出たとき、洋は突然足を止めた。
「・・・透?」
洋の言葉に、俺も目線を上げると。
透がいた。
たぶん透だ。
なにぶん5年ぶりの再会だし、
何より、その身体は緑色に腐食していたから・・・
「ああぁーー」
「透!」
「よせ! 洋!」
一番、大事なゾンビパニック対策を洋はこの時忘れていた。
情を捨てろ。身内が親しい人がゾンビになったら迷わず殺せ。
洋が透に差し出した手は"透だった者"に掴まれ、引きずり倒され。
「透・・・俺だよ・・・洋だよ・・・」
「ああぁーー!」
馬乗りにされながらも透へと呼び掛ける洋の声が途絶えた。
ゾンビと化した透に、喉元を噛まれ、咬み千切られ声が出なくなったから・・・
俺はただ、立ち尽くしていた・・・
やがて、洋を食べた透と、透に噛まれてゾンビとなった洋が、俺へと、1歩、1歩近づいてくる。
俺はどうすることも出来ず、目を閉じた・・・
ああ、石川浅子。最後に君に会いたかったと・・・
「脩くん!」
女神の声が聞こえた。
俺を呼ぶ声が。
「乗って!」
幻聴ではなかった。
石川さんは、バイクに股がり俺の真後ろに綺麗なターンを決めたのだ。
「石川・・・さん?」
「早く!」
その手を掴んだ。
1度離してしまったその手を・・・
「しっかり掴まってて!」
俺は、石川さんの腰へと強くしがみつき
懐かしい髪の匂いへと鼻を寄せた。
石川さんの走らせるバイクは、近づく洋と透を振り切り、出口へと目掛けて走り出した。
バイクの音につられてゾンビたちが寄ってくる。
このまま、このまま出口まで。
「シャッターが!」
行けなかった。
出口へと繋がる道、外へと続くシャッターは閉まっていたのだ。
シャッターを開けるには、脇にある開ボタンを押さねばならないのだが・・・
「ああぁーー・・・」
「ああぁーー・・・」
「ああぁーー・・・」
囲まれた、ゾンビたちに。
俺と石川さんの乗るバイクとボタンまでのルートに入り込むゾンビたち。
絶体絶命かに思えた・・・
「脩くん・・・」
「浅子・・・」
石川さんは、俺にスマートフォンを渡した。
「今度は外さないでよ・・・」
ボタンまでの距離は5メートルそこそこ。
俺は、女神の祝福のキスを頬に受けながら・・・
スマートフォンをスローした・・・
推定カウント 169人-2人