「超絶味覚」
開幕です
私の口を通して、彼の熱い息が入ってくる・・・
どんな暖房器具よりも、心も身体も芯から暖めてくれる彼の息。
私の頭を掻き寄せ、吸い付き、絡め合い私たちの舌は口内を踊る。
あ、香辛料の味・・・今日。祐司お昼にカレー食べたな・・・
おっといけない、探ってしまった。
私は小さい頃から味に敏感で、フードコーディネーターの職は天職だった。
彼は一流フレンチのコック。
同棲する彼とは、5年目のクリスマス。
今年かな。サンタクロースが。リングをくれるのは・・・
結婚して二人だけのお店を出すの。私がプロデュースして貴方がコック長。
そんな未来を、二人の絡み合う舌で描いていく・・・
「・・・チェロス?」
「え?」
彼の顔を押し退ける。
・・・確かにチェロスの味がした。彼の舌に残っていた。感じ取れた。
ファミマの?
ミスドの?
・・・違う、違う・・・
これは。
「祐司、ディ○ニー○ンドのチェロス食べた?」
「・・・へ?」
盛り上がりに水を差すような発言に祐司は挙動不審になる。
困ったときの癖、右ほほを親指でさすっている。
いや、違う。
「昨日、ディ○ニー行ったの?」
「行くわけないじゃん。」
「じゃあ、何でチェロス?」
「知らないよ。勘違いだろ・・・」
勘違いするわけない。祐司の舌から確かにディ○ズニーのチェロスの味がした。
彼は目線を泳がせ、顎をさすり思考を巡らせる私から目をそらす。
祐司とのはじめてのデート。二人で食べたチェロスの味を忘れるわけないよね・・・あ。
「そういえば、昨日、美咲が友達とディ○ニー行ったって呟いてたよね。」
「!」
美咲は祐司が働くレストランのデザート担当。
私とは専門学校からの友人通し。
当然、祐司とも親しく・・・
「誤解だよ! 行ってないよ! 食べてないってシナモンチェロスなんて!」
「・・・シナモン?」
「・・・ん?」
シナモン味か、このくぐもった甘さは・・・
そういえば、美咲。Facebookに挙げてたなぁ・・・
友達と行きました。
美咲がシナモンチェロスにかじりつく写真・・・
「食べてない! 行ってない! 誤解だよ! 偶然だよ!」
「じゃあ、みせてみろ!!」
私たちの未来を描く夢色のインキを染み込ませた筆。
彼が愛用する包丁を手に持っていた。
「・・・ちょ。」
彼が何か言い訳する前に、
彼の仕事道具を使って、探索開始。
青ざめた祐司のお腹目掛けて突き立て、切り裂き
その裂け目から手を突っ込む。
グチョグチョ、グチョグチョ。
複雑な構造ね人間の身体って、色んな臓器が邪魔してくる。豚くらい単純なら楽なのに。
それに生暖かくて気持ち悪い。
やっぱり食用加工された食品を扱うのが一番よね・・・
あった! 胃だ!
胃を目掛けてもう一度、刃を立てる。
彼は私にたいしての罪悪感からか、身体を小刻みに動かすくらいで抵抗もしない。
スパリ、グチョグチョ、グチョグチョ、グチョグチョ・・・
ガシッ!
ズブズブ、ズブズブ、ズルン!
「ほら! やっぱり食べてた! 嘘吐き!」
赤くドロドロに溶けたチェロスの欠片を掴みあげ、私は彼に突きつけた・・・
彼は黙ったまま項垂れていた。
キルカウント 1