スレンダーマンVS八尺様
変わった異種格闘技場が日本には存在する。
知る人ぞ知らない。
いや、正確には知る人はみな死ぬからだ。
「大和田、今日のファイトは凄いらしいぞ。」
同僚の金城は、父親が一流ホテルのオーナーで子供の頃からありとあらゆるモノを楽しみ、味わい、見てきたそうだ。
そんな金城が俺に勧めてくれた最高の娯楽。
「前回は、何だったか・・・ツチノコVS河童だったか。」
「いやいや! あんなチンケな見世物と同じに考えてもらっちゃ困る。
今回は本物だよ。」
毎回、そう言っているが。
金城が俺に勧めてくれたのは、いわゆる"見世物小屋"のようなもの。
世界中から珍しい生物やビックリ人間を集め、そして、戦わせるというもの。
「ツチノコって、あれどう見てもネズミを丸呑み中のヘビだったじゃねえか。
河童に至っては全身緑に塗ったオッサン。」
「あそこはダメだ、昔は本物を集めてたんだが最近は、ほら厳しい世の中だからよ。
今日、行くのは本物の見世物格闘技だよ・・・」
よくもまあ、金城の様なアホがこの会社に入れたものだ。
俺は早大卒でギリギリだったってのに。
ああ、金か。親父の七光りか。
何だかんだ金城の馬鹿に付き合うのも悪くない。
バカだが金もコネもある。
常識離れの面白いモノは見れるものだ。
「スレンダーマンVS八尺様・・・おい金城帰るぞ。」
某地下鉄駅の奥の奥。黒スーツの屈強な男が入り口を固める、地下に作られたという完全会員制の闘技場。
その、メイン演目が・・・
「いいから! いいから! 大和田! 結構かかってんだぜ!
見るだけ見てこうぜ!」
踵を返そうとする俺の手を引き必死に引き留める金城に免じて、付き合ってやろう。
スレンダーマン。なんだ長身の外人が出てくるのか?
八尺様。2メートルの女か?
期待感ゼロで金城の後に付いていく。
「お、ちょうどだな。」
闘牛場を思わせる程の木造の低い壁で囲まれたリング。
その回りを大勢の人が取り囲んでいる。
「違う、違う。アイツらは一般だよ。」
「ん?」
その輪に加わろうと重い足取りで近づく俺を制止する金城。
「俺はVIPだからよ。2階の個室だよ。」
「ああ、親父に感謝だな。」
「俺に感謝しろよ!」
金城は、また黒スーツと話をし、二階へと案内される。
革張りのソファに、ガラス窓、備え付けのバーカウンターまである豪華な個室部屋に案内された。
「・・・スゴいな。」
「だろ!」
まるで自分の手柄のように威張る金城だが、置いといて。
こんな個室まである闘技場と、催物の内容には思えなかったが・・・
窓から下を眺めてみれば、闘技場と一般客たち。
それを見下ろすに2階の個室が何個か作られているようだ。
1階、闘技場と観客席とは完全に別離したVIP部屋。よくみれば1階のフロアを囲うように、強固な造りの金属壁がもうひとつ外側に出来ている。
これではまるで、闘技場と一般客たち両方を同じく見ているようではないか。
「おい、入場だぜ!」
俺の覚えた違和を感じることもない金城は、冷えたドイツビールを手にソファへとドサリと腰かけた。
アナウンスが聞こえる。
「ファイト!」
え?
まだリングには何もいないのにゴングが鳴らされた。
当然、1階の客たちも同様に混乱しているようだ。
「ほら、大和田。スレンダーが1歩リードだぜ。」
「何もいないだろ・・・」
「見えねえよ、クッキリとは。
本物はな。ほら、あれ見てみろよ。」
金城は、リングの頭上にある電光掲示板を指差した。
スレンダー 12 対 八尺 0
「何の数字だ・・・」
『ギャー!!』
鋭い悲鳴が会場を包む。
・・・見えた。
いる、確かに。
真っ黒で、骨と皮しかついてない程に細く。そしてデカイ。
回りにいる一般客と比べても3倍の身長はあるほどだ。
ん? 回りにいる?
スレンダーマンを見た一人の男が悲鳴をあげた。
それもそのはず、男の目の前に立ちはだかっていたからだ。
スレンダーマンは、ただ驚く男の顔を覗き見るように腰を屈めると。
その男は突然、糸を切った操り人形のように倒れこんだ。
スレンダー 13 対 八尺 0
「金城・・・金城・・・金城あれって。」
「ああ、"そういう闘いなんだよ"。
ほら! 八尺もやっと出てきたぞ!」
金城の吐く言葉、動作。
階下で起きる観客たちの死に、俺は黙って見守ることしか出来なかった。
金城の指差す方に、白い傘が見えた。
大きな白い傘に、白い帽子。真っ白なワンピース。
スレンダーマンと同様に逃げ惑う観客たちよりも数倍大きい女。
一人の男が果敢にも八尺様に掴みかかろうとしたようだ。
次の瞬間、女の姿は消え、空を切った男はそのまま地面にダイブして。
そのまま動かなくなった。
スレンダー 15 対 八尺 1
「やっぱり、本物は違うなぁ!」
金城は、ビールを煽りながら階下の惨状を眺める。
逃げ動く人々が、次の瞬間、動かなくなる。
スレンダー 21 対 八尺 10
金属の高い壁を、叩く人が泣き叫ぶ。
その人間も次の瞬間、動かなくなる。
スレンダー 30 対 八尺 18
命ごいを叫ぶ者、しゃがみこみ耳を押さえてうずくまり震える者、どうにか攻撃しようと殴りかかる者。
みんな次の瞬間、動きを止める。
スレンダー 85 対 八尺 41
そして、誰も動かなくなった。
「ダブルスコアかよーまあ、前よりは頑張ったんじゃねえかなぁ・・・」
金城が差し出してきた、ビールをやっと貰うことにした俺は。
あおり飲み、タバコに火をつけた。
階下では、
黒い人と白い人がやがて、動きを止め立ち尽くしていた・・・
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