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ー3ー イヴェール


 屋敷に戻ったイヴェールは何故か自室で自分以上にくつろいでいる男たちを睥睨する。

 けれどそんな視線には慣れっこな男と端からそんなものを気にしない少年は今日も今日とてイヴェールの自室で好き勝手に過ごしている。


「どうだった?なんて愚問か」


 クツリと笑った男にイヴェールは深く息を吐く。


「そうでもない。断らせないようにするので精一杯だ」

「貴方自ら出向いて?すごいね、その女性ひと。見る目あるじゃないか」


 愉しそうな少年の声にどういう意味だと睨みつける。


「まぁ、エアル嬢と言えば美人なのに壁の花に徹してるので有名だからな。

 誰に声をかけられようとサラリとあしらって終わりらしいぜ」

「知ってる」


 いつからかつまらなそうに壁の花に徹している彼女を目で追いかけるようになっていた。

 彼女が出る夜会には必ず参加した。当然、彼女に声をかけて撃沈していく男たちの存在も知っている。

 自分でも異常だと思うくらいに話したこともない彼女に惹かれていた。

 そして先日の夜会で自分をその他の男たちと同じように素っ気なくあしらった彼女にますます欲しくなった。

 あの美しい翡翠の瞳で自分だけを見てほしい。

 薔薇の唇で自分の名を呼んでほしい。

 望みは日ごとに増えて募っていく。

 いい加減身を固めて跡を継げとうるさい父上にならば、と願い出た話だった。

 逃がすつもりはない。

 けれど、彼女に好かれるにはどうすればいいのか見当もつかない。

 今まで女性に困ることはなかったし、いつだってあちらから群がってきていたから。


「それで、その女性ひとはいつこちらに来るの?」


 期待に満ちた弟分の視線にイヴェールは顔を歪めて吐き捨てた。


「……知るか」

「マジか」


 心底驚いた様子の幼馴染に苛立ちが募る。

 殴ってもいいだろうか。

 自分だって遅すぎる初恋に苦戦しているくせに。

 深いため息が漏れた。


「お互い苦労するよな。

 どうやったら好きになってもらえるのか見当もつかねぇし。

 嫌われてはないとは思うんだけど、うーん……」

「気持ち悪いんだけど。

 どうでもいいから早くその人たち連れてきてよ」


 自分たちの苦労になど全く興味がない少年はサラリと自分の要求を述べる。

 他人に興味を持たない彼が自分から積極的に会いたい、会わせろと強請ることを訝しむとそれが伝わったのか少年は不満そうに眉を寄せて自分たちを睨みつけた。


「何?

 貴方たちが選んだひとなら僕の姉さんみたいなものだろう?

 会ってみたいと思って何が悪いの?」

「~~~~っ!

 龍哉、お前ときどきすっげー可愛くなるよな。

 何が欲しいんだ?兄ちゃんに言ってみろ」

「普段はクソ生意気なくせに」


 じゃれる二人に口元を緩めて自分もその輪に加わりに行く。

 わしゃわしゃと頭を掻き撫でてやれば必死の抵抗が帰ってくる。

 それでも黒い髪から覗く耳がほんのり染まっているのを見るとまんざらでもないらしい。

 普段は凶暴で生意気で可愛げのない癖にたまにこうしてデレるから自分も幼馴染もこの少年――龍哉を可愛がらずにはいられない。

 このクソ生意気で可愛い弟分の願いを叶えるためにも、彼女に贈り物でもしてみようか。



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