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ー22ー

 キラキラした静奈の瞳を受け止めながらエアルは怒涛に過ぎていった1週間を思い出して遠い目をしてしまう。

 夜闇の侯爵家ってすごい。本当に1週間で婚約披露の場を整えてしまった。

 オマケに陛下の御前。招待するのが難しいからって王宮の夜会で発表って色々可笑しい。

 今まで学んできた貴族の常識とか此処に嫁いだら全く役に立たなくなるんじゃないかしらと思わずにいられない。

 ここまでくるとすごいのを通り越して恐怖すら感じてしまう。


「エアルさん??」

「ダイジョブです。ちょっとこの1週間を思い出してしまって……」


 渇いた笑みを零したエアルに静奈が微苦笑を零す。

 アルセのところに滞在している静奈は暇があれば侯爵家に入り浸っていた。

 侯爵夫人の指揮の下、エアルの手伝いをしていた静奈は詰め込みに詰め込まれた1週間をよく知っている。


「がんばった」


 労いの言葉をかけてくれた静奈にエアルも感謝を伝える。


「静奈さん、たくさんお手伝いしてくれてありがとうございます」

「お役に立ててなにより」


 まだたどたどしくはあるもののこの1週間で静奈はこの国の言葉が随分上手くなった。

 このくらい自分も和の国の言葉が喋れるようになっていればいいのだけれど、そう上手くはいかないと微苦笑を零して椅子から腰を浮かせると静奈が先回りして扉を開いてくれた。

 扉まであと少しというところで足を止めてしまったエアルの心を見透かすように静奈はにっこりと笑った。


「大丈夫!エアルさん、とっても綺麗!!」

「静奈さん……」


 緊張に震える手を一度ぎゅっと握りしめて息を吐くとエアルはまた足を動かし始めた。

 きっともうイヴェールは準備を終えて待っている。

 侯爵家にきてから初めてすれ違いの時間を過ごした。

 必ず顔は見たけれど喋れる時間は比べようもないほどに減っていて、今日のドレスだってイヴェールに見せるのは初めてで、侯爵夫人や静奈は似合っている、綺麗だと言ってくれたけれど、不安は消えなくて。


 視界の端に黒を捕らえる。

 夜闇の瞳がエアルを捕らえた瞬間、大きく見開いた。

 その反応をどうとればいいのか分からずにエアルは足を止めて俯きそうになるのを必死にこらえる。

 イヴェールの姿をハッキリ捉えた瞬間、エアルの足は自然と止まっていた。

 いつもと、ちがう。かっこいい……。

 真っ白になった思考で考えられたのはそんなことだけだった。

 イヴェールと初めて会った夜もこんな風だったのだろうか。

 いつの間にか近づいて来ていたイヴェールが熱のこもった瞳でエアルを見下ろす。

 それだけで火が出るほどに恥ずかしくて瞳が潤む。

 イヴェールの眉間に皺が寄ったと思ったら逞しい腕の中に閉じ込められた。


「い、イヴェール様!お化粧が」

「くそっ!誰にも見せたくねぇ……」


 慌てて距離をとろうとしたエアルをしっかり抱きしめて、耳元で小さく囁かれる。

 それだけで壊れそうなほどに心音が加速して、のぼせてしまいそうだった。


「あー気持ちは分からねぇでもないんだけどさ、そろそろ時間だから」

「あ?」

「僕らにまで凄まないでよ。というか彼女そろそろ限界だと思うけど?」

「ちっ」


 呆れたアルセと龍哉の声に一気に現実に引き戻されてエアルは真っ赤になって羞恥でプルプル震える。

 涙目で差し出された大きな手に手を重ねると満足そうな笑みが返ってきた。

 自然と近づいた距離にドキドキと煩い心音がイヴェールにまで聞こえてしまわないだろうか不安になるほどだ。

 エアルは必死に冷静を手繰り寄せているのに平然とした声で「……綺麗だ。よく似合っている」だなんてひどい。

 会場に着くまでに冷静さを取り戻せればいいけれど、たぶん無理だ。

 半ば諦めの境地でエアルはエスコートされるままに車に乗り込んだ


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