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ー21ー


 翌日の朝食の席でエアルは目を瞬いて固まっていた。

 イヴェールがあげた抗議の声でそれが自分の聴き間違いではないことを理解するとヒクリと頬を引き攣らせる。


「お義母様、イヴェール様のおっしゃる通り流石にそれは無理では……?」


 恐る恐る口を挟むと今まさにイヴェールとエアルに爆弾を投下した本人である侯爵夫人は不思議そうに首を傾げた。


「私の時は当日発表だったぞ?それも開始2時間前だ」

「「……………」」


 イヴェールとふたりで思わず侯爵を見ると彼は素知らぬ顔でコーヒーを啜り一言。


「逃げられては困るからな」


 ギョッとして侯爵夫人をみると彼女は感心した様子で頷いた。


「流石、先代と奥方様だな。確かにあと1時間でも猶予があれば逃げていた」


 信じられない言葉に思わず遠い目をして現実逃避をする。


 婚約披露を当日に知らされるってどういうことですか?

 準備とか準備とか準備とかはどうしたんですか?

 というかあと1時間猶予があったら逃げてたって……!

 本当にどういう経緯で結婚されたんですか!?


「まぁ、そういう訳だ。今日はドレス選びに消費されると思ってくれ」

「私も選ぶのを手伝おう」

「ふざけんな!誰がアンタに選ばせるか!!」

「うん?お前は仕事があるだろう?

 いやー。娘はいいなぁ。

 エアルさん、ドレスや宝飾品以外にも欲しいものがあったらなんでもいいなさい。

 お父様が買ってあげるから」

「表に出やがれクソ親父」


 見たことのないくらいに苛立ちを露わにしているイヴェールを侯爵は飄々と躱しては更に煽るような言葉を続ける。

 もはやエアルの口を挟む余裕はない。

 一緒に食事の席についている龍哉はまだ半分夢の中のようでパンをかじりながら舟をこいでいる。

 エアルを置いてきぼりにしてどんどん進んでいく話に不安が募る。


「エアル、大丈夫だ。何も心配しなくていい」

「お義母様……」


 見透かしたように微笑んだ侯爵夫人にエアルは縋るように視線を向けた。


「面倒なことは全部男どもの仕事だ。

 我々はただあいつらの隣で適当に微笑んでいれば周りは勝手に納得する。

 納得しないやつらの対処も男どもがする」

「おい」


 あまりの言いように侯爵が半眼で侯爵夫人を睨む。

 けれど彼女はどこ吹く風でキッパリと言い切った。


「事実だろう。そうでないなら私はここにいない。

 何故私やエアルがお前たちに群がる雌猫の相手までしなければならないんだ」


 心底面倒くさそうに自業自得だろうと言われてしまえば侯爵もイヴェールも何も言えない。


「怖いんだけど」


 いつの間にか覚醒した龍哉がボソリと呟き、呆然と親子のやり取りを見ているしかなかったエアルも思わず頷いた。


「ああ、龍哉。ついでにお前の分も仕立てよう」

「は!?嫌だよ。面倒くさい」

「いいじゃないか。お前、また背が伸びただろう?」

「ちょっと僕をご機嫌取りの道具にしないでよ!」

「龍哉。諦めなさい」


 飛んできた火の粉を必死に払おうとする龍哉の声を聞きながらエアルはそっとイヴェールに視線をやる。

 苛立ったように侯爵を睨みつけていたイヴェールがそれに気づいて振り返る。

 ぶつかった視線にオロオロしていると夜の瞳がすっと細まる。


「イヴェール、さま?」

「……父の選んだドレスだけはやめてくれ」


 絞りだすように零された言葉に不思議に思いながらも頷くと安心したように小さく息を吐いたイヴェールにエアルはますます訳が分からなくなる。

 そもそもイヴェールと同じように仕事で忙しいはずの侯爵がわざわざ自分のドレス選びに付き合うはずもない。先ほどの言葉はただの冗談だろうとエアルは思っている。

 それでもイヴェールが望むのなら侯爵夫人と選ぼう。

 自分で好きなデザインを選ぶという選択肢はエアルにはない。

 今まで着ていたドレスだって夜会やお茶会に行きたくないと渋るエアルの為に周りが用意したものだった。たいていは呆れた姉と妹がエアルの分の用意もしてくれていた。

 もちろん好みはあるけれど流行なんてわからないし、イヴェールの横に立って恥ずかしくないコーディネートを自分でする自信はエアルには全くない。

 頼れるのはイヴェールの好みを把握しているであろう侯爵夫人だけ。

 そして当の侯爵夫人ほんにんもエアルと龍哉を着せ替え人形にする気満々なのだから大人しく彼女に従っておこう。

 そう心に決めてエアルはイヴェールと選べないことを残念がっている自分から目を逸らした。




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