ー16ー
『(和の国の言葉)』でお送りします。
「」は普通の黎明の国の言葉。エアルたちの言葉です。
注意書き忘れてました。
混乱した方ごめんなさい。
イヴェールに和の国の挨拶を教えて貰いながら歩く。
部屋が近付くにつれて緊張していくエアルを安心させるようにイヴェールが言葉をかけてくれるのが嬉しいのに、どんどんそれどころじゃなくなっていく自分に情けなくなった。
部屋の前でドキドキする胸を宥めるように両手をキュッと握りしめて、イヴェールが扉をノックするのを待つ。
けれどイヴェールは手を挙げたままの状態で眉間に皺を寄せてノックをするのを躊躇っているようだった。
エアルが声をかけようとしたとき、部屋の中から扉が開く。
「いつまでそうしているつもりです。
さっさとお入りなさい」
「母上……」
「とても面白いことになっていますよ」
エアルの前では崩れてしまった侯爵夫人の仮面をかぶって愉しそうに笑う彼女にイヴェールの表情が歪む。
エアルは何がどうなっているのかサッパリ分からずにイヴェールと侯爵夫人の顔を見ることしかできない。
『あなたたちいい加減にしなよ』
聞き慣れた声が耳慣れぬ言葉を紡ぐのを聞いて、エアルはそうっと部屋を覗き込んだ。
『別にー?私は全っ然気になんてしてないわ。
こうして龍哉に会えたもの。ね?龍哉!』
ぎゅうっと龍哉の腕に腕を絡めてプイッとアルセから顔をそむけるどこか幼さを残した美しい女性にエアルは目を奪われた。
絹のような射干玉の髪にキリっと釣りあがった黒曜石の瞳。少し日に焼けた健康的な肌。バランスよくパーツが配置された顔立ち。凛とした佇まい。彼女を象るすべてが美しい。
『なら僕を巻き込まないで』
「貴女も見てないで助けてよ」
口をへの字に曲げてエアルに視線を向けて不満を口にした龍哉に我に返る。
「えーっと、」
困ったように眉を下げたエアルに女性の視線が向かう。
何故かギロリと睨まれた。
『彼女は関係ないんだから、睨むのやめなよ』
『睨んでませんー。もともとこういう顔ですー』
『静奈、』
『なによぅ』
困り顔のアルセと呆れ顔の龍哉と何やら怒っている様子の女性。
時間を置いてきたつもりだったけれど、彼女の怒りはまだ冷めていないのだろうか。
出直すほうがいいのかとイヴェールを見ると心底面倒臭そうにアルセたちを見ていた。
エアルの視線に気づくと小さく息を吐いてエアルに手を差し出す。
差し出された手にエアルはぎょっとしてイヴェールを見た。
うっすらと笑みを浮かべたイヴェールは攫うようにエアルの手を取り、揉めている3人の元へと足を進める。
『お嬢さん。
そこの馬鹿が全面的に悪いとはいえ、そろそろ怒りを鎮めていただけないでしょうか?』
『あなたは?』
『ご挨拶が遅れて申し訳ありません。この家の次期当主でアルセの主のイヴェールと申します』
『あなたが次代の夜闇侯……。
初めまして。彼に半ば無理やり連れてこられた静奈と申します』
『……重ね重ね申し訳ない』
『別にあなたからの謝罪はいりません。それよりそちらの可愛らしいお嬢さんは?』
女性とイヴェールから視線を向けられてエアルは慌てて一歩前に出てお辞儀をする。
『お初にお目にかかります。エアルと申します。よろしくおねがいします』
『私の婚約者です。なので、あなたが心配されていることはないかと』
『!な、なんのことですか?心配なんてしてません!』
『ならよかった。あなたに睨まれたのではないかと不安に思っていたようなので』
『~~~~、悪かった、わ。』
じっとエアルを見て、バツが悪そうに何事かを呟いた女性にエアルはコテンと首を傾げる。
そして助けを求めるようにイヴェールを見るとそれはそれは意地の悪い顔で静奈に何事かを囁いた。
『ああ、彼女はかろうじて挨拶はできますが、和の国の言葉はまだ分かりませんので』
『~~~~~~~!!!』
今にも地団駄を踏みそうな女性にエアルは慌ててイヴェールを見るけれどシレっとした顔で何でもないと言うだけで教えてくれない。困ったときの癖で龍哉を見ても肩を震わせて笑っているらしくてエアルの視線に気付かないし、アルセは困り顔で彼女を見つめている。
オロオロしているエアルに手を差し伸べたのは意外なことに客人であるはずの女性だった。
「エアル、さん……いい?」
「あ、はい。」
「私、悪い。イライラする、だから、ごめんなさい」
「いえ!私たちこそ、配慮が足りずに申し訳ありません」
「私、この国の言葉、勉強中。変なとこ、ある。ごめんなさい」
「とてもお上手ですよ。私なんて挨拶しかできなくてお恥ずかしい……」
「挨拶、上手。私、仲良くする、いい?」
「はい!嬉しいです!!」
片言の言葉で必死に言葉を紡いで歩み寄ろうとしてくれる彼女にエアルは嬉しそうに微笑んで、彼女に伝わるようにゆっくりと言葉を紡いだ。




