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ー12ー


 容赦なく閉まったドアを呆然と見つめる。

 あとは二人でごゆっくり、じゃない。

 どうしよう。エアルの頭にあるのはその一言に尽きる。

 泣き顔を晒して、迷惑をかけて、本当にどうすればいいのか分からない。

 羞恥と自己嫌悪でせっかく治まった涙がまた溢れそうだ。


「……どうしてそんな状況になったのか聞いてもいいか?」

「はい」


 気遣うイヴェールの声にそう答えながらエアルはどこからどう説明すればいいのか分からなかった。

 混乱していたせいか支離滅裂になりながらも龍哉にはすべてありのままを言えた。

 だけど、泣いて泣いて冷静になってしまった思考がそれを咎める。

 姉のことは言ってはいけない。無意識にそう思ったエアルはその部分を濁して言葉を紡いだ。


「色々あって、伯父様のところにお世話になることになって、それで……。

 私、きっと、どうかしてたんです。

 皆心配してくれてたのに、その気遣いを払いのけて、ひとりで伯父様のところに行こうだなんて……」


 すっとイヴェールの目が細められる。

 でもエアルはそれ以上何も言わなかった。

 それ以上は喋らないと理解したらしいイヴェールが浅く息を吐く。

 エアルが肩を震わせ伺うようにイヴェールを見ると少し困ったようなイヴェールと目が合う。


「子爵家と伯爵家には連絡を入れるとして、エアル嬢はどうしたい?」

「え?」

「もしよければ、伯爵のところではなくうちに来ないか?」


 思いもしなかったイヴェールの提案にエアルは目を丸くしてイヴェールを見た。


「本当はもう少しエアル嬢の気持ちの準備ができてからにするつもりだったんだが」


 どこかバツが悪そうなイヴェールにエアルは止まった思考をなんとか動かし始めた。

 伯父のところではなくて、イヴェールの、夜闇の侯爵家にお世話になる……?

 結婚前に?

 それっていろいろまずいんじゃないだろうか。

 でも、いくら可愛がってもらっているとはいえ、いきなり伯父の家にお世話になるのは抵抗がある。

 何よりも、意地悪な従兄に何を言われるか分からない。

 姉や妹には紳士的に接する従兄は何故かエアルにだけは態度が悪い。

 彼のことを思うと気が重い。

 だけど、だからと言ってイヴェールの言葉に甘えてしまってもいいのだろうか。


「、ご迷惑ではないですか?」

「そんなことはない。

 両親も貴女を気に入っているし、貴女の安全のためにもうちに来てもらえると助かる」

「私の安全、ですか……?」

「こんな職業だから恨まれることも多いんだ」

「そんな!イヴェール様を恨むのは逆恨みではないですか!」


 夜の闇は確かに裏社会に君臨しているけれど、それは治安を守るためであり、表と裏の政治のバランスをとるためだと聞いたことがある。

 それで恨まれるだなんて。

 たれ目を釣り上げて憤慨するエアルにイヴェールは柔らかく微笑む。

 その笑みに毒気を抜かれてしまってエアルは釣り上げていた眉を下げた。


「……こういう言い方はずるいな。まるで脅してるみたいだ。

 俺は、貴女にうちに来てほしい。

 もちろん、貴女の許しなくそういうことはしないと誓う」


 真剣なイヴェールの声に、表情に、エアルの心が揺らぐ。

 頷いてしまってもいいだろうか。

 この人の手をとっても、いいのだろうか。

 甘えてしまっても、本当にいいのだろうか。


「私、なにもできませんよ?

 社交もお姉様みたいに上手くできないし、マノン―――妹みたいにいるだけでその場を明るくすることもできない。

 お茶を淹れたり、お菓子を焼いたりくらいはできますが、それ以外は本当になにもできないんです」

「十分だ。

 それでも貴女が足りないと思うなら学べばいい」


 その言葉にエアルはハッとする。

 祖父もよく言っていた。

 学ぶことをやめてはならないと。

 自分の力不足を感じたなら一層努力しなさいと。


「お世話に、なってもいいですか?」


 悩んだ末に出したエアルの答えにイヴェールは嬉しそうに微笑んだ。



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