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転生ナイトは喋れない  作者: F-Shinji
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第2話:孤高の騎士

 『守護者』は直ぐ『ナイト』を新たな標的と認識したか、硬直を解くと右腕を振りかぶる。


 その動作は素早いとは言えず、厚い装甲と超再生を持つ反面、動きが鈍いと言うのが『守護者』唯一の弱点と言えた。


 よって接近戦で相手にする際には、大振りの隙を突くと言う対ゴーレム共通の戦法が有効だ。


 先程『守護者』と戦っていたスギナも、しっかりと定石通りの動きをしていた。


 アディスを含む此処に居る全員の冒険者も、『守護者』と戦う事に成れば同じような方法で戦うだろう。



「な、何やってんだ?」

「自殺志願者かよ!?」

「避けろ! 避けろって!」



 だが『ナイト』は驚くべき事に、未だその場から動こうとはしなかった。


 正気を疑われても仕方がない反応であり、野次とは言え冒険者達の言葉は間違っていないのだが、呼びかけも空しく拳は振り下ろされ、金属と金属がぶつかり合う音が響く。


 それをナミキの様な人間は直視できず、思わず目を逸らしてしまったが、戻した視線の先に有ったのは、姉みたく倒れ伏した『ナイト』では無かった。


 何と『ナイト』は左足を踏み込みつつ構えた左腕のシールドで、『守護者』のパンチを完全に防御していたのだ。


 数倍もの体積と重量を誇る『守護者』の拳を。


 一撃で何人もの冒険者を戦闘不能に陥らせた拳を。


 ごく僅かな挙動で防いでしまうなど、誰が予想できただろうか。


 まさに冒険者達は『開いた口が塞がらない』状態であり、その驚きも束の間。


 『ナイト』は『守護者』の鉄の巨体を、左足を更に踏み込む事で押し返してしまった。


 それにより『守護者』は仰向けに転倒。


 『守護者』が右腕を戻そうとした引力と、左腕を繰り出そうとした無理な体勢を利用した結果だが、生半可なパワーで行える筈が無い。


 何らかの強化を利用していなければ、明らかに迷宮のランク不相応の力を持っていると言えよう。



「フィドル」

「はいよォ」



 それを早々と察したアディスは、背後に居るパーティーメンバーの一人の名を口に出す。


 すると『フィドル』と言う魔術師風の『獣族』の男が呼び掛けに応え、アディスの横まで早足で歩み寄った。


 その直後に『分析魔法』の発動の準備に入る。


 流石はパーティーメンバーと言った所か、フィドルはアディスが言いたい事を最初から分かっていた様だ。


 分析魔法の発動の条件として、握り拳から親指を立て、人差し指を伸ばした両手で長方形を作り、その中に『ナイト』を捉えなければ成らないが、そうすれば体に掛かっている強化が何か調べる事が出来るのである。


 だが『ナイト』は先程の場所から姿を消してしまっており、フィドルは一瞬、彼を見失ってしまうが……



「アホ。後ろだ」

「面目ないッス」



 アディスの言葉で直ぐに気付いたか、両手で作った長方形の向きを修正させると、『ナイト』を枠の中に捉えて魔法を発動させた。



「アナライズ」



 一方、対象の『ナイト』はアディスの言葉通り、起き上がろうとしている『守護者』の背後に回り込んでいた。


 重装備ながら俊敏かつ身軽らしく、『守護者』を押し倒す際にボディを蹴って跳躍していたのだ。


 更には今まさに、右手の白銀のロングソードを、『守護者』の頭に振り下ろそうとしている。


 まるで野菜を切る際に、包丁を用いるが如く自然な動作で。


 その攻勢に意味が有るとは思えないと、誰もが考えただろう。


 普通なら無造作な剣の攻撃など、巨人でも無ければ鉄の装甲にアッサリと弾かれて終わり。


 例え十分な腕力が有ろうが、武器が余程の業物でも無い限り折れてしまって終わり。


 更にはスギナの様に『守護者』に通用する刀と技を持っていても、コアを破壊できなければ意味が無い。


 そう考えると、『ナイト』の取っている行動には多くの矛盾を感じざるを得ないのは当然だが……



 


 ――――粉砕。





 振り下ろされた剣が『守護者』と交差した瞬間、爆発に近いような音が響き渡った。


 何と『ナイト』の剣の一撃が、『守護者』の頭部から上半身にかけてを完全に破壊してしまったのだ。


 その一撃の余波は瞬く間に胴体の全てに及んでゆき、原形を留めているのは四肢だけと成った。


 余程の威力だったのか、『守護者』が幾ら動き回ってもビクともしなかった地面にまで損傷が及んでいる。



「あ、兄貴……」

「どうだった? エンチャントか?」

「いや。特に何も掛かって無かったです」

「はァ!? ……冗談だろ?」

「本当ですって!」

「だとしたら、何であんな奴が、こんなチンケな迷宮に……」



 アディスとて『ナイト』と同じ様な事が出来ない訳では無い。


 彼はBランク冒険者であり、伊達に修羅場は潜っていないのだ。


 仮に仲間と連携して支援も受けれれば、この程度の『守護者』が何体束になって掛かって来ようと怖くは無い。


 だが惜しみなく資金を投資して作ったエンチャント装備や、自分の持つ技を駆使しなければ、『ナイト』と同じ火力を出すのは不可能だ。


 強化を掛けず無造作に剣を振り下ろすだけで『守護者』の胴体を粉砕するなど、Aクラス冒険者ですら出来るとは思えない。


 ならば、あの『ナイト』は一体何者なのだろうか?


 他の仲間は居なさそうだし、攻略の滞りが故に派遣された冒険者か?


 逆に、普通に様子を見に来たが、『守護者』に勝てると踏んで救助に入ったのか?


 だとすれば気の迷いか何かで、高ランク冒険者が正体を隠して腕試しにでも来ていたのか?


 考え出すと幾らでも思い浮かんでしまってキリが無いが、少なくとも自分達より実力が上なのは間違いない。


 此処にはAランクに上り詰める一環として来たに過ぎなかったのに、面白い者を見れてしまった。



「凄えッ! 何て強さだ……!」

「やりやがったぞ、あいつ!!」



 ロングソードを腰に差し、左前腕の盾をそのまま、足元に転げ落ちている、丸い『何か』を拾い上げた『ナイト』。


 それは『守護者』のコアであり無傷だったが、他者の手に渡った事で『創造主』の制御から隔離され、機能は完全に停止された。


 つまり今を持って『守護者』が撃破された事が確定し、今度は怒号では無く、『ナイト』の勝利を称える歓声が響き渡る。


 中には挑戦者の負けに賭けた者も含まれているが、彼らとて一世一代の大勝負に臨んだ訳では無い。


 結果的に『守護者』を倒して貰って奥に進めれば容易に負けた分は取り戻せるし、それはそれで構わなかったのだ。



「おいッ。行くぞ!」

「わ、分かった……」



 周囲が歓声で包まれている中、他の制覇目的のパーティーの面々も『ナイト』のパワーに驚いて言葉を失っていた。


 だが歓声で正気に戻った者に声を掛けられると、障壁が消えて侵入可能と成った戦地に次々と飛び降り、駆け足で階段を下りて行った。


 『守護者』に足止めを食らっていたが、『迷宮制覇レース』の再開と言う訳だ。



「アディス。先を越されちゃうよ? 急がないと」

「そうだな。エリード、フィドル、行くぞッ!?」

「了解」

「よっしゃ!」

「創造主を()るのは俺達ってな!!」



 そのレースには当然アディス達もエントリーしているので、この状況では流石に『ナイト』は二の次にするしか無い。


 ブラウの言葉に早くも気持ちを切り替えたアディスは、仲間の聖職者(エリード)魔術師(フィドル)に声を掛けつつ走り出すと、観客席から飛び降りて真っ直ぐに下り階段を目指す。


 途中で『守護者』のコアを掌の中で転がしている『ナイト』と擦れ違うが、互いに視線を交わす事は無かった。



「おっと、俺達も稼ぎ時だな!」

「遅れるんじゃねェぞ!?」

「あんがとな、背の高い兄ちゃん!」

「賞金入ったら奢ってくれや!」



 制覇目的のパーティーが動き出すと、次第に歓声は薄れてゆき、冒険者達はゾロゾロと下層へと降りてゆく。



「私達の方は時間を置いてから行くか」

「そうしましょう。声を出して疲れちゃいました」



 若干下のランクと思われる者達は少し休憩してから動く様で、パーティーによって探索方針も異なっている。


 降りた人数は50人を下らなかったが、意外にも功労者の『ナイト』に面と向かって接触する者は一人も居なかった。


 此処が安全な場所だろうと、迷宮内では緊急の場合を除き、別のパーティー同士で干渉をしないのも暗黙のルールの一つだからだ。


 『守護者』や『創造主』と戦っているパーティーの邪魔をしないのは勿論の事、迷宮によっては冒険者を装って騙し討ちを仕掛ける魔物が居たりもするので、何時の間にか自然と生まれていたルールである。


 『ナイト』が平然と『守護者』の残骸を見下ろしているのも、最初から接触されない事を分かっているからなのかもしれない。


 よって本当に興味が湧いたのなら、街の何処かで見た時にでも声を掛けるのが定石。


 直ぐに見つかれば、それで良し。


 その些細な出会いで新たな英雄が生まれる事も多々有った。


 逆に二度と会えなければ、何処かで死んでしまったか、迷宮で戦っていた様子すら幻だったと割り切るべき世界で彼らは生きている。


 交流を深めていた別のパーティーが翌日、クエスト失敗で壊滅する事など良く聞く話だ。



(い、言わないと……)



 一方、此処に居りまするは盗賊風の少年ナミキ。


 姉は気絶しており、仲間のリスティエは彼女を治療しているので、彼は完全に手持ち無沙汰だった。


 その為、ナミキが次に取った行動は必然だったかもしれない。


 無意識のウチに観客席から飛び降りると、『ナイト』の方へと歩み寄ってしまっているのだ。


 三人で旅を開始してから半年。


 まだナミキは冒険者としては未熟だが、『暗黙のルール』については既に理解している。


 だが仲間(にくしん)を助けて貰ったのに、礼の一つも告げずに去ると言う気にはなれなかった。


 本来、迷宮では他人を助ける義理が無ければ、助けられて礼を言う必要も無い。


 下手をすれば(へりくだ)った態度を逆手に取られ、都合よく利用されてしまう事さえ有る。


 その使い道は多々ある。


 多いのは迷宮での捨て駒や、金銭の要求だ。


 冒険者家業は綺麗事では成り立たない。


 例え自分達を救ってくれた者であろうと、警戒心は解くべきでは無いのだ。


 しかし彼どころか、スギナもリスティエも冒険者の『汚い部分』を詳しくは知らなかった。


 よってナミキは、自分の選択を疑う事も無く、有る程度距離を詰めると『ナイト』に声を掛けた。



「すみませんッ!」

「……!?」



 ナミキの叫びに『ナイト』は僅かに肩を揺らした。


 こちら側を向いていたが、未だ残骸を吟味していたらしく、彼の接近には気付いていなかった様だ。


 『ナイト』は僅かに顔を動かし、『守護者』の残骸越しにナミキの姿を捉えると、目を合わせずに直ぐ腰に掛かっていたポーチに手を伸ばした。


 そして取り出したのは、(ラド)の文字が印された1個の(ルーン)


 『帰還のルーン』と言われる消耗品のアイテムだ。


 戦闘中は勿論、障壁内でも使用不可と制限は多いが、迷宮の入り口まで戻る事が出来る。


 それを右手に持って表を向け、胸元辺りで印通りに動かすと、『ナイト』の体は瞬時に淡い光に包まれて消えた。


 足元には、印の消えたルーン(いしころ)が落ちている。



「あッ……」



 ナミキは思わず手を伸ばしていたが、意味は無い。


 『ナイト』は自分が声を掛けた事で、ダンジョンを脱出してしまったのだ。


 実際に何の意図が有ったかは定かでは無いが、ナミキの立場からすると、そう考えるのは必然。


 更には罪悪感を得てしまい、立ち尽くすだけだったが……



「お、おいッ! あの騎士、帰っちまったぞ!?」

「マジか!? ……って事は……」

「あの『資源』は早い者勝ちだ!!」

「拾え拾えーッ! 先に降りなくて正解だったぜ!!」



 『守護者』の残骸は立派な戦利品。


 迷宮産の鉄は従来の物より丈夫で重宝し、様々な部品も金を生んでくれる。


 それなのに『ナイト』は本当に一人で来ていたのか、コアだけを持って帰ってしまった。


 即ち、『守護者』の残した収集品(がらくた)の所有権を放棄した事を意味し、残った冒険者達は血眼になって残骸を拾い始めた。


 此処に残った実力不足の冒険者達にとっては、大量のゴールドが散らばっている様に見えるのである。



(もしかして僕、悪い事しちゃったのかな……?)



 対して、苦笑して目の前の光景を眺めるしか無かったナミキだったが。



「ナミキッ! そろそろ帰ります! 手を貸してください!!」

「わ、分かりました!! すみませんッ!」



 スギナの応急処置を終えたと思われる、リスティエの叫びを耳にすると慌てて観客席に引き返す。

 

 その途中で一度振り返って『守護者』の残骸を確認すると、既に殆どが回収されようとしていた。


 彼らに後ろめたさなど無し。


 街に戻って『ナイト』を見掛けたとしても、面と向かって礼を言う事も無いだろう。


 命に係わるので当たり前だが、スギナを見殺しにしようとした事に関しても同様。


 後にスギナ達を見掛けても、自分達の力不足を謝罪する筈が無い。


 ナミキ達としても、彼らを責める気は毛頭ない。


 『冒険者ギルド』からは全ては自己責任と、初っ端に釘を刺されているのだから。

 

 

(後で謝らなきゃ……お礼もちゃんと……)



 だがナミキは他の冒険者達と違い、些細な過失と受けた恩を忘れない純粋な少年だった。


 姉のスギナは敵が幾ら強大でも、決して諦めない闘志を持った、芯の強い女性だった。


 そしてリスティエも、仲間の為に自分の身を犠牲にする覚悟を持つ女性であり、三人とも冒険者としては善人過ぎる性格と言えた。


 現にスギナが危険だった様に、『英雄』としての素質を持っていない限りは、典型的な早死にするタイプである。


 即ち『ライグローク王国』には、吐いて捨てる程転がっているパーティーの一例でしか無いのだが。


 定石とは少し方向性の逸れた各々の行動が、自分達に運命的な出会いを(もたら)せる事と成る。

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