第1話:守護者に挑む者
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石造りの小さな地下闘技場。
辺りは不気味なほど静まり返っているが、観客席は半分ほど埋まっており、皆が直立して中央を凝視していた。
主に屈強な戦士と思われる男達が多く、皆が『この迷宮』に挑んでいる冒険者達だった。
そんな各々の視線の先には、距離を置いて2つの大小の人影が対峙している。
片方は軽装備の人間の女性で、顔つきは凛々しく長い黒髪を纏めていた。
それに加えて白いハチマキと襷、そして対峙する相手に構える刀が、東方出身の人間だと言う事を表している。
一方、東方の剣士が刀を向けているのは大きな鉄の巨人。
彼女の3倍近くも高さがあり、体格もガッシリとしているので、冒険者達が『屈強』ならば何と形容するべきなのだろう。
普通に考えれば相手が2倍の高さだろうと勝負に成りそうも無いが、それに抗えるのが冒険者と言う存在。
この東方の剣士も勝算があるからこそ、鉄の巨人に挑もうとしているのだろう。
対して、先程までは静かに佇んでいるだけで動いていなかった鉄の巨人だが、唐突に地響きを鳴らしながら剣士に近付くと右腕を振り上げる。
そして直後に振り下ろされたコブシを東方の剣士が後方に飛んで避ける事で、戦いの火蓋が切って落とされた。
「うおおおおぉぉぉぉ!!!!」
「行けええぇぇーーーーッ!!」
同時に静まり返っていた闘技場に怒号が響き渡り、東方の剣士の背中を後押しする。
彼らが迷宮の奥へと進む為には『一対一』で鉄の巨人を倒す必要が有り、彼女の勝利は自分達の利益にも繋がるからだ。
だが冒険者にも色々な者がおり、ただの野次馬で来た者は勿論、迷宮には興味が無く勝敗を賭けている者さえも居る。
声を張り上げているのは共通しているので一見分かり難いが、東方の剣士が鉄の巨人の攻撃を避ける度に顔を歪める様子を見れば、賭けているのを察するのは容易だろう。
「ね、姉さん……大丈夫かな?」
「今はスギナを信じるしか有りませんわ」
引き続いている怒号の中で、静かに東方の剣士の背中を見守る者も居た。
先ずは所謂彼女の『パーティーメンバー』であり、その数は2名。
一人は顔以外の全身を黒いマントで隠している、短い黒髪の盗賊風の少年。
今の言葉通り、鉄の巨人と戦っている東方の剣士は『スギナ』と言う彼の姉なのだろう。
もう一人はレイピアを腰に差した、剣士風の美しい金髪の女性だ。
頭のティアラやネックレスの装飾を見るに高貴な身分と思いがちだが、冒険者と言う事なら、それらは何らかの効果が有るのだろう。
そんな仲間の2人だが、互いに祈る様な表情で様子を見守っているので、本来スギナが鉄の巨人と戦うのは反対だったのかもしれない。
現にスギナは鉄の巨人の攻撃を避けながら刀の一撃を何度か食らわしているが、装甲を僅かに削る程度に留まっている。
「ねェアディス。勝てそう?」
「……どうだかな」
続いて静かに様子を伺っているのは、このダンジョンの『制覇』を目的とした冒険者達。
観戦者の殆どは、道中を守る鉄の巨人……いや、『守護者』を倒して貰って更に奥へと進む事で、より多くの魔物を倒して稼ぐ事しか考えていないが、『アディス』と呼ばれた男性冒険者の様に、ダンジョンの最下層に待ち構える『創造主』を倒そうとする者も居る。
無論それには命を始めとした多くのリスクが伴うが、撃破出来れば高額の報酬と名声が王国より授けられるので、それを夢に冒険者を志す者が多い。
つまりアディスの様な冒険者にとって『守護者』など数ある障害の一つに過ぎず、それと誰が戦おうと興奮する意味は無いのだ。
それよりも重要なのは『守護者』が倒れた後に、奥に突入するタイミングである。
他の制覇目的のパーティーも静観しているので、彼らライバルの動きの方がアディスにとって気に成った。
更には立ち位置が癪に障ったので、舌打ちしながら心の中で呟く。
(加勢する気は無し……か)
大剣を背に掛けた、燃え盛る様な赤い髪が特徴な人間の青年、アディス。
彼がリーダ―を務めるパーティーのメンバーは、自分を含んだ4名全員、下層へと降りる階段の反対側の観客席で戦闘を眺めている。
具体的には最前列でスギナの様子を見守る仲間2名のやや後方であり、佇んでいた『守護者』の背後の方に下り階段が存在していた。
またアディス達の後ろには上り階段が有り、皆が闘技場に降りて来たのも其処からである。
さて置き、アディスが癪に障っていた他のライバル・パーティーの立ち位置は下り階段の周辺に限られていた。
理由は簡単。
仮にスギナが『守護者』を撃破してくれれば、その直後に『創造主』撃破の為、真っ先に下層へと降りるつもりなのだろう。
能率を重視すれば、この上なく賢明な判断だ。
「それにしてもさァ」
「何だ? ブラウ」
「どうしてサムライと『守護者』が一対一で戦ってんのよ?」
「あん? お前はそんな事も知らねーのか?」
ライバル達の何が気に食わないのか、腕を組んで不満そうにしているアディスに、仲間の一人である栗毛のスカウト風の女性が声を掛けた。
ラフな服装に加え『獣族』特有のピコピコと動くフサ耳と、フリフリと揺れる尻尾が彼女の魅力を引き立てている。
そんな『ブラウ』と呼ばれた女性は、本気でスギナと『守護者』がタイマン勝負をしている理由が分からない様なので、アディスは視線を移さずに言う。
「アイツは従来の迷宮と比べると特殊らしくてな。一対一でしか戦えないタイプの『守護者』なんだよ」
「一対一でしか戦えない……?」
「オマエ目が良いだろ? 良~く見てみろ」
「ん~?」
そう言われてブラウが目を細くすると、観客席と戦場の間を『透明な壁』の様な物が遮っている事が分かった。
只の見掛け倒しでは無く、この障壁を破壊する事は不可能であり、越える為には『二つ』の方法を除いて手段は皆無。
ひとつ目はスギナの仲間2人の直ぐ傍に置かれている『水晶』に触れ、単独で『守護者』の正面に転移する事。
ふたつ目はその『水晶』に他の誰かが触れる事で、既に転移している者と入れ替わる事。
この二つの方法をアディスがブラウに説明すると、ブラウは何かに気付いたようで瞳を見開く。
「あッ! だったら、あのサムライが『守護者』を倒せない限りは――――」
「あァ。代わりの誰かが入れ替わってやるしか、戻って来る手段が無いのさ」
「……って事は、奴に勝てなきゃ死体が一つづつ増えてゆくだけって事かァ」
首を傾げながら『守護者』の周囲に散らばる白骨死体に目を移して呟くブラウ。
原形を留めていない骨の残骸は、言うまでも無く『守護者』に叩き潰されて命を落とした冒険者の慣れ果てである。
敵わない相手だと知るや『身代わり』を求めて絶叫を上げながら死んだか。
若しくは絶望に陥る前に即死してしまったか。
そんな光景を想像してブラウは顔を顰め、今まさに戦っているサムライも、『守護者』を倒さなければ同じ末路を辿る事を理解した。
しかし勝ちさえすれば障壁は消え、彼女は多額の討伐報酬を受け取る事が出来るだろう。
「ランクは?」
「C間近だってよ」
「ふ~ん。納得」
『守護者』に通常の剣撃は通じないと察したか、刀を鞘に収めて柄に手を掛けた体勢のまま『守護者』の攻撃を回避し始めたスギナ。
その様子を眺めながら、次に浮かんだ疑問をアディスに投げ掛けると、返って来た答えに今の状況の経緯を察する。
アディス達のパーティーは攻略が滞っていると言う情報を聞いて此処を訪れたのだが、Cランクと言えば中堅の冒険者。
迷宮の『創造主』を倒せる実力が身に着くのも大体この辺りのランクなので、スギナならば『守護者』を倒してくれると期待して、これ程の数の冒険者が集まったのだろう。
無論、殆どの者が『身代わり』を担う気など無く、撃破直後の利益を頂く魂胆である。
迷宮は何処も甚大な広さと深さを誇るが、モンスターの数は限られており、冒険者同士の奪い合いなのだ。
そう考えると、アディスのパーティーは『守護者』挑戦の先を越されてしまった事に成るが、逆にスギナに倒して貰えれば、迷宮制覇の大きな障害の一つがリスク無しで消えるとも言えるので、アディスの心境は複雑だった。
一方、スギナは刀を鞘に収めてから30秒ほど精神を集中させると、大振りの後に体勢を戻そうとしている『守護者』の側面から攻勢に入る。
「居合い斬り!!」
常人では何時刀を抜いたかさえ理解できずに、一太刀で命を狩り取られるサムライの剣術・居合い斬り。
発動の条件は、刀を収めた状態で精神を一定時間集中させる事。
それが放たれスギナが刀を再び鞘に収めると、唐突に動きを止めた『守護者』の胴が斜めにズれ、地面へと崩れ落ちた。
「や、やったァ!!」
「お見事ですわ……!!」
倒れた『守護者』を見て、仲間の一人である盗賊風の少年は飛び上がって喜びを露にする。
もう一人の仲間の金髪の女性も、両手の掌を合わせて表情を綻ばせている。
当然、周囲の冒険者達の盛り上がりも最高潮であり、奥に進む事など半分忘れているかもしれない。
一方『守護者』を真っ二つにしたスギナは、無表情で額の汗を拭って溜息を漏らしながらも、内心は安堵していたのだが……
「うわッ! 倒しちゃったよ。凄いじゃん、あのサムライ」
「いや。まだだな」
「えっ? でもゴーレム真っ二つ……」
「障壁が残ってやがる」
「あッ……」
盛り上がる野次馬の冒険者達を他所に、制覇を目標とするパーティーの各々は特にリアクションを起こしていない。
何故なら障壁が消えなければ『守護者』を倒した事に成らないのを知っているからだ。
どうやらこの鉄の巨人は『守護者』の特性により、コアを破壊しなければ再生を続けてしまい、機能が停止しない模様。
普通のゴーレムであれば、真っ二つに成った時点でコアが機能していようと悶えるだけだが、『守護者』と成れば相場が違うのだろう。
「な、なんだと!?」
自分の勝利を確信していたスギナ。
それなのに『守護者』が再生してしまった事で、常に冷静だった彼女の表情が初めて歪んだ。
スギナが『守護者』を無力化させるには発動に30秒掛かる『居合い斬り』を使わなければ成らないが、相手は30秒経たずに再生してしまう。
だとすれば一撃でコアを装甲ごと斬る必要が有るが、そこまでスギナはゴーレムについて詳しい訳では無い。
何よりこの迷宮の『守護者』を、先程の様な状況に出来た冒険者が居なかったのが致命的だった。
中堅未満か更に下のレベルのモンスターばかりが徘徊していた迷宮が、一対一で『守護者』と戦わせるのを強いて来るのは極めて珍いが、だとすれば自分なら負けない相手だろうと完全に安く見ていた。
しかし蓋を開けてみれば、自分では何をどう足掻いても倒す事が出来ない強敵。
冷静な彼女だからこそ思考の結果、早くも絶望的な答えを導き出してしまい、柄に手を掛ける事も忘れ動きが停止してしまう。
対して、感情の無いゴーレムである『守護者』は再度スギナに向かって拳を振り上げる。
「姉さんッ、危ない!!」
「スギナ!!」
「くそッ!!」
スギナの考えを他所に、勝利を信じている2人の仲間は大声で彼女を正気に戻す。
それにより正気に戻ったスギナは、再び精神を集中させると必殺技の準備に入る。
そう……自分はこんな所で死ぬ訳にはいかない。
たった一人の肉親を守る事は勿論、命を拾って貰った仲間に恩を返していない。
何より『守護者』との勝負を反対を押し切って望んだのは自分なので絶対に勝たなくてはならず、スギナは諦めずにコアの切断を狙い続ける。
しかしながら、二発目の居合い斬りを放とうと、三発目の居合い斬りを放とうと、刃はコアへの直撃を逸れ何事も無かった様に再生してしまう。
振り上げる拳の勢いも衰える事が無く、地面は頑丈なのか不思議なほど傷付いていないが、骨の残骸が更に悲惨な事に成ってしまっていた。
そして戦いが始まってから十数分後。
『守護者』の再生回数が、両手の指では数え切れないほど繰り返された時。
スギナの疲労は遂にピークに達してしまい、目立った外傷は無い様だが、膝は笑っており滝のように汗が流れている。
「拙そうですね……」
「良い女なのによォ」
疲労困憊のスギナの様子を見てこう漏らしたのは、アディスとブラウの後ろに立つ残り2人のパーティーメンバーだ。
一人は聖職者らしい服装をした人間で、眼鏡をかけた知的な男性。
もう一人は魔術師風の男だが軟派な雰囲気であり、『獣族』の様で御馴染みのフサ耳が目立つ。
互いにスギナを心配している様子なので悪い者では無さそうだが、流石に前衛を担う事が出来ない職業で『守護者』に単独で挑むのは自殺行為なので、リスクを負うつもりは無い様だ。
それ以前に、先着順である『守護者』との一対一での戦いには暗黙のルールが存在しており、原則的に戦っている者が助けを乞わなければ『水晶』を利用してはならない。
また助けを乞われようと助ける義務も無く、例え多額の報酬を払うと叫ぼうと殆どがハッタリなので、野次馬達に笑われるに過ぎないのだ。
スギナもそれが分かっている為、助けを乞う事も無く未だ『守護者』と向かい合っており、再度居合い斬りを放とうとするが……
「なっ!?」
遂に限界が来てしまったか、スギナの愛刀が『守護者』の装甲に弾かれて折れてしまい、クルクルと宙を舞った。
彼女の集中力は未だに切れていなかった。
疲労困憊だろうと、放たれた技は正確だった。
ひょっとしたら、次の剣撃で『守護者』のコアを両断できたかもしれなかった。
それなのに刀が折れてしまうと言う現実。
スギナの思考を再び絶望へと誘うには十分な結果であり、彼女は青ざめながら折れた刀を凝視するしか無かった。
よって今度は仲間の声も届かず、無防備なスギナの腹部に『守護者』の右足が炸裂する。
無意識のうちに後方に飛んでおり、直撃を避けた事など何の慰めにも成らない。
まるでボールが蹴り込まれた様に吹っ飛ばされたスギナは、障壁に背中をしたたか打ち付けられると、バラバラに成った防具と共に地面に落ちる。
そして側臥位のまま、殴られた腹部を抑えて激しく嘔吐する。
「ぐっ……ゴホッ! ゴホッ!」
吐瀉物の中には血液も多く混じっている。
恐らく骨の3~4本は軽く持って行かれているだろう。
防具が無ければ、内臓がズタズタにされて即死だった可能性も有る。
最早立つ事すら出来ない状態なのは明白であり、『身代わり』を担う者が居なければスギナの命は後僅かにしか残されていない。
「くっそーッ!」
「お止めなさいッ、ナミキ!!」
「で、でもリスティエさんッ! このままじゃ姉さんが……!!」
『ナミキ』と呼ばれた盗賊風の少年は、姉の死を避ける為に、咄嗟に水晶に手を伸ばそうとする。
だが『リスティエ』と呼ばれた女性に伸ばした手を掴まれると、涙を流しながら自分の無力さを悔やんで唇を噛み締める。
非力な盗賊である彼は、リスティエの腕を振り払う力さえ持っていないのだ。
対するリスティエは掴んだ腕をそのまま、周囲の冒険者達に視線を移すと、彼らの様子を見て瞬時に『叫ぼうとした言葉』を呑み込んだ。
10分ほど前まで飛び交っていた怒声は何処へ行ってしまったのか。
スギナの敗北は濃厚だと当に察していた野次馬達の顔は、今や失望と嘲笑を表しており、此処から帰ろうとする者までも居る有様。
だとすればスギナの代わりに助けを乞おうとしても、鼻で笑われているウチに殺されてしまって意味が無い。
かと言って、このままスギナを見殺しにする訳にはいかない。
現に『守護者』はスギナの命を奪おうと、刃を無くした柄を踏み潰しながら迫って来ている。
そして彼女をも踏み潰した後は、元の配置に戻り、再び次の挑戦者が現れるまで眠りにつくだろう。
ならば親友を救う為に、リスティエが行うべき事はひとつ。
自分がスギナと入れ替わるしか無い。
それによる結末が何を意味するか理解している彼女は、震えながら水晶に手を添えようとする。
「アディス~ッ」
「……しゃーねーな」
対して、黙って静観を維持していたアディス。
彼はブラウに自分の名を呼ばれながら肘で腰を突かれると、彼女の意図を察して頭をポリポリと掻く。
同時に水晶の方へと歩みを進めており、何を隠そう彼が此処で控えていたのも、スギナの敗北が確定した場合に即助けに入る為だったのだ。
反面、他の迷宮攻略を目指すパーティーは助ける気が無いので、下り階段の近くで観戦していたが、それがアディスが癪に感じていた事である。
だがアディスも偽善者では無いので、パーティーのリーダーと言う立場から、皆が反対するならばリスクを負ってスギナを助けたりはしない。
とは言えアディスは例えスギナの救助を自分から提案しても、ブラウ達3人が首を横に振る様な者では無いと最初から分かっていた。
それなのに、ブラウが救助を煽るまで行動を起こさないのは、アディスの捻くれた性格を表していたと言える。
よって、既にアディスはリスティエの直ぐ近くにまで迫っていたのだが、予想外にも彼の直ぐ横を何者かがすり抜けて行った。
「んなッ……」
アディスが間抜けな声を漏らしてしまったのも、無理はなかった。
建前は気乗りしない態度ながら、活躍する自分が嫌いでは無い彼は内心気分が高揚していたのだ。
あのサムライを助けた上に、『守護者』を倒して下層への道を切り開いた時の気分は最高に違いない。
しかしながら、いざ暴れる前に、自分を追い抜いた者が姿をハッキリ確認する間も無く『水晶』を利用して、その場から消えてしまう。
それと同時に倒れ伏したスギナが『水晶』付近の地面に現れ、直ぐにリスティエがしゃがみ込んで介抱する。
何時の間にか意識を失ってしまっていた様で、容態を確認しているリスティエにナミキは膝を折って声を掛けた。
「ね、姉さんは大丈夫なんですかッ?」
「ふむ……気絶しているだけですね。命に別状は無さそうです」
「良かった……」
「とりあえず、わたくしの魔法で応急処置を行いましょう」
剣士の様な風貌ながら、リスティエは回復魔法に通じたヒーラーだった様だ。
スギナの状態を早くも理解していた辺り、専門的な知識を持っているのが伺える。
リスティエはスギナの患部に右手を添えると、直ぐに回復魔法の詠唱を開始した。
ナミキは彼女の腕を十二分に理解しているので、コレなら安心だと胸を撫で下ろすと立ち上がる。
「一体、誰が代わりに……」
そして視線を向けたのは、先程まで自分の姉が倒れていた場所。
唐突に対象が変わった為か『守護者』は少しだけ硬直しており、『入れ替わった者』もその場から動いていないので、今は姿がはっきりと確認できる。
頭から肩までをフードで覆い隠し、白銀のロングソードとシールドを手にし、全身鎧を身に着けた長身だと言う事から、恐らく男性だろう。
ただ『長身』と言っても相当な高さで、190センチは軽く超えているのが『守護者』との対格差で大体把握できた。
しかし表情はフードと白い前髪で隠れていて確認できない為、彼の心情を何も察する事が出来ないが、スギナの命を救う為に『入れ替わってくれた』のは紛れもない事実だ。
よって、例え『守護者』撃破のついでであろうと、ナミキにとっては姉の命の恩人なので、自然とその『ナイト』に視線が釘付けになっていた。
誰よりも強いと思っていた姉が倒された『守護者』は尋常では無い強敵。
それなのに、あの超再生を見て入れ替わったのは自信が有ってでの行動だろうし、彼ならば『守護者』を撃破してくれると言う期待が有ったのだ。
「な、なんだアイツは!?」
「誰だッ? ランク知ってる奴は居るか?」
「俺は知らん。それより賭けはどうなる?」
「継続に決まってんだろ!!」
入れ替わった『ナイト』の登場で、周囲の冒険者達は当然どよめいていた。
生憎、彼を知っている者は居なかった様だが、それは大した問題では無い。
重要なのは、わざわざ足を運んで来たと言うのにスギナの敗北が確定し、得をした者は彼女の敗北に賭けた者だけに成り、冷めた空気だった中、新しい挑戦者が現れたと言う事だ。
ならば冒険者達が次に選ぶべき行動はひとつ。
全ての期待を『ナイト』に移し、彼の勝利を煽る事だ。
それにより闘技場内は、先程の怒号が飛び交う状況に戻っている。
一対一で戦うタイプの『守護者』が待ち構える迷宮では良く見る光景だ。
だが此処に居る全員は夢にも思わなかっただろう。
皆の視線の先で『守護者』と向き合っている『ナイト』が、いずれ伝説の騎士と呼ばれる程の男だと言う事を。
更には、その『ナイト』が公の場で初めて戦うと言う、歴史的な瞬間を目にしている事も。




