003 必殺技の習得
僕が6歳の誕生日を迎えた次の日の事だった。父上が僕に必殺技を伝授すると言いだしたのは。
「アレクよ、自主的に勉強を頑張っているようだな」
「はい父上。メイドに教わってだいぶ読み書きが出来るようになりました」
今メイドという言葉に父上の顔色が一瞬変わったような気がした。
「そ、そうか。そのまま勉強を頑張りなさい。7歳になったら本格的な勉強をするために教師を付けよう。だがその前にアレクにはベルマン家に伝わる魔法と血の宿命について教えようと思う。教えると言っても成人するまでに習得すればよいので焦る必要はないがな」
そういうと父上は僕を抱き上げると中庭に向かって歩き出した。
「われらベルマン家は妖精族、それも女王の血が流れている。そのおかげで妖精族の魔法が使えるのだ。これからアレクに教えるのは妖精族の魔法だ。妖精族はいくつかの種族魔法が使える。1つは『小さな妖精の加護』。これは加護を与えたものに幸運を与えるものだ。ご先祖は伴侶となった妖精女王の加護が有ったから大成したと言われている。しかしこの『小さな妖精の加護』は人の運命を大きく変えるもの。不用意に使ってはいけない。下手をすると自分の運命さえも狂わせてしまう可能性がある。最も使いたくても簡単には使えないがな」
加護だから自分には使えないか。これは他人の為に使う力だ。
「2つ目が『妖精の眼』。これは本来人には見えない『霊』を見る力だ。妖精族は常時発動しているが人である我々は魔力を消費して発動させる。厳密には魔法とは言い難いが魔力を使うので魔法の一種だと思った方がいい。これも不用意に使ってはいけない。間違って幽霊を見てしまうと夜寝られなくなるぞ」
『霊』を見る力か。死後の世界の事を覚えているので魂の存在は信じているけれども。いるんだ、地上をさまよう幽霊。
「最後に妖精族が唯一もつ攻撃魔法『フェアリービーム』。今から教えるのはこの魔法だ。詳しい説明をする前に実際に撃つ所を見せよう。あの標的に向かってビームを放つからよく見ておくんだぞ」
そう言うと父上は僕を下して中庭に立ててある案山子を『見た』。そして…
「ベルマンビーム!」
「目からビームが出た!」
目からビームである。この世界の妖精は目からビームを出せるのか。その威力はと思って案山子を見ると案山子は無傷だった。
「標的は何とも無いのを確認したな。この『ベルマンビーム』は基本はただ光を出すだけの魔法だ。しかし自由に追加効果を付与することができる。麻痺に火傷、衝撃や『霊』などの種族特効。危険なものだと即死もある」
自由に効果を付与できる魔法。直線しか進まない…、いや追尾の効果を付与すれば追いかけるし曲げることもできそうだ。この魔法1つで攻撃魔法は十分そうだ。
「普通の妖精族の大きさは手のひらに載るほどの小人サイズだ。その成果魔力も低く、フェアリービームの効果も大した事は無い。魔力が高ければ簡単に防げる。しかし人間サイズの女王種は魔力が強大でビームの威力も高い。その血を引く我らの『ベルマンビーム』も使い方を間違えれば簡単に人を殺してしまう」
「そんな危険な魔法をどうして今の僕に教えるのですか」
どう考えても6歳児に教える物では無い。
「そうだな。それはアレクなら大丈夫だと思ったからだ。本を読んで様々な事を学び、魔力操作の鍛錬もこっそりしているだろう。何もしなくても『ベルマンビーム』にたどり着くと考えたのだ。だからその前にしっかりと教えようと考えた。アレクは賢い子だから分かってくれるな」
そう言って父上は僕の頭を撫でた。僕にはもったいないくらいの立派な父親だ。だから僕はその思いに答えるために案山子に向かって何の効果も付与していないただのビームを放った。
「父上、約束します。この力は決して邪な事には使わないと」
「う、うむ。所で私が教える前に『ベルマンビーム』の事を知っていたのか?」
ビームを撃てた事に動揺した様子の父上が聞いてきた。
「いいえ、でも父上のビームを見てこれは自分にもできるものだと本能で理解して出来ました」
魔力のコントロールの訓練をしていたおかげか簡単に出来た。
「そうか、妖精族は誰から教わるでもなく『フェアリービーム』を撃つことができると言う。アレクは先祖帰りかもしれないな。だとしたら気を付けないといけない。妖精族はいたずら好きと言う。過去の当主の中には簡単に『ベルマンビーム』を習得したものがいる。その方たちは総じていたずら好きだったと記録されている。アレク、その血に負けていたずらを繰り返さないようにな」
「はい、分かりました」
そう約束したものの後にイタズラ心満載の祭りを行い、ベルマンの名物行事にしてしまうとはこの時は思わなかった。
そして妖精族の3つの魔法が僕の人生に大きく影響を与えることになる。特にたった一度しか使わなかった『小さな妖精の加護』の影響力は計り知れないものになるのだった。