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応援会場

「我が球団、時代センゴクに来てくれないか?」



それはとんでもないオファーだった。

最初は嘘だろうと思っていた。しかし、契約書は本当であった。


シールバックから戦力外通告を言い渡され、ショックを隠せないところ。すぐにやってきた一本の電話。それもついこないだ、シールバックに敗れて2位が決定した時代センゴクからのオファー。



「外野手のバックアップが欲しくてね。外野だけでなく、ファースト、時にはセカンドを守れる選手はとても貴重だ。1年契約、3500万出来高払いでどうかね?」


マルセドは少し悩んでいた。

年俸はシールバックの時の半分以下の掲示だった。


「そもそも、その役目が私ナンデスカ?」


戦力外通告を言い渡された後、上手いようにすぐに来た連絡。


「あれ?布宮社長とか、球団から連絡はなかったのかい?少し前から情報交換をしていたんだがな」


あの社長め……。少し毒気づいた。

帰国するか、独立リーグに行くか、実家に戻って新しい職を探すか、色々な選択肢が一瞬でなくなった。

家族が母国に残っているが、戻って自分にできることはこっちと変わりないだろう。シールバック時代の半分以下の年俸とはいえ、こちらでの生活と仕送りには問題のない額。しかしながら、最低限を掲示してきた。


「家族と相談させて欲しい」

「ああ、構わないよ」



マルセド。

シールバックの外野手兼内野手。シーズンでも試合を決定する本塁打を放ったり、堅い守備と複数のポジションを守れるサブプレイヤーとして活躍。

戦力外通告になったのはネックである外国人枠と、外野の競争率が激しいことにあった。


友田と尾波という不動のセンターとライトがおり、残った一つのポジションレフトには、本城、地花、千野、木野内……そして、マルセドを加えた5名が激しく争った。

ほとんど団栗の背比べみたいなもの。だが、どの選手も色があるためマルセドが争いに加入できたのも事実。守備に難のあった友田と尾波の、守備固めとして出場した事も多数ある。



「うーむ」


年齢もあって、こっちに来た時から全盛期ではなかった。

だが、自慢の肩と当たれば飛ぶパワー。外人選手には珍しい堅守で球団に2年も残ってきた。シールバックが要らないと言ったのは、外野の争いが激しくなるだけでなく、自分の居場所がきっとなくなるとみての言葉だろう。

たぶん、そうだ。本城と地花、千野はペナントレースが進むにつれて成長していった。一方で自分と木野内は出来る範囲が限られていた。ベテラン……いや、年老いた連中の辛いところだ。


「しかし、時代センゴクからのオファーか」


自分の居場所がどこにあるか。

仮の話。自分がセンゴクに行った時、自分は試合に出られるだろうか?守備固めが要らない、徳川と孫一がセンターとライトにいる。残ったレフトには大伴がいるわけだが……。シールバックほど競争率は激しくない。スタメンを勝ち取りやすいのはセンゴクの方だが、出場数ではシールバックの方だ。

外野を守れている選手は徳川と孫一のみ。また、打てる外野というのもその2人だけ。加えて、マルセドにはファーストとセカンドも守れるという強みがある。



『シールバックではもう外国人枠を便利屋として扱えない』



布宮が自分に降したイメージだった。

今の自分はどの球団に行ってもスタメンを獲得できるほどの力はない。

いや、これでいいんだろう。どうせメジャーでは自分のような日陰の選手は役に立たない。

年俸の下がりもあるからか、家族には仕送りが減ることを謝っておきたい。



「もしもし」



時代センゴクがマルセドを欲していた理由。

彼自身が複数のポジションと堅実な守備を持つ事、打率はあてにしないが一発があること。第4の選手としては高レベルにいるからだ。

また、センゴクの外国人枠が余っていることにもある。ダイアーが計算できる2番手エースであるが、それ以外の外国人はかなりハズレが多く、一番日本人が登録されている球団ともいえよう。

マルセドの獲得は安い年俸で、まずハズレではない。というレベルで選んでいる。徳川と孫一は計算できる外野手であるが、彼等がなんらかの理由で出場できない場合、マルセドを出せるという安心も買える。ともかく、足を引っ張る守備も打撃もしないだろうという計算。


最後にあげるとするなら、西リーグに2年間もプレイした経験があること。

同じくシールバックの外国人。コールドバークは河合クラスの長打力を持ちながら、大型扇風機のように空振りばかり。日本の野球に馴染めなかったのもある。当然、戦力外通告を喰らって母国へと帰国していった。

マルセドはいろんな投手との対戦経験もあるし、日本の野球も知っている。

また、性格の良さもシールバックの選手達から聞いている。おっさんばかりの時代センゴクとも何事も無く馴染むことだろう。



「来年、時代センゴクというチームでプレイをしようと思うんだ。年俸は大分下がってしまったが、再来年までに倍額にするよ。こっちでまだ頑張れる」




家族との電話相談を終えて、決心したマルセド。

来年、シールバックが後悔するような活躍をしてみせると決めた。



ただ、まだ今年だ。



「遅いぞ、マルセド!」

「応援会場の準備ができているんだぞ!」



シールバックの健闘を最後まで応援しようと思っている。


「外人は俺だけか」

「パリッシュとコールドバークは国に帰って、仕事を探してみるみたいだ」


時代センゴクとの話がなければきっと自分もそーいったことで忙しかっただろう。パリッシュは元いた母国の独立リーグに戻り、コールドバークはまた選手として3A傘下の球団に入ったと聞く。


「豪勢だな」



応援会場というのが名ばかりと思える雰囲気。

ほとんど、シールバックの選手達や関係者が集まった場所であった。


「うひょー!こんな馬鹿デカイマグロを初めて見たぜ!」

「河合の奥さんが釣り上げて持って来てくれたらしいぞ!」

「こっちにはワインやビール。そのケースが大量にあるぞ!」

「布宮社長の計らいだ!」

「シールバック、サイコー!勝ってもっと旨い味にしてくれーー!」


飲み会っぽい雰囲気を発する応援会場。巨大なモニターにはもう、試合前のスターティングオーダーが発表されていた。

いよいよ始まる運命の7試合。その初戦。


「勝ってくれーー!」

「打ってくれ!新藤ーー!河合ーー!!」



自分達はあの舞台に立てない。そーいった後悔を無くすように、酒を無理矢理喉に通した。そんな邪念は振り払え。精一杯、シールバックを応援する人間になれ。負けてしまえなんて、1ミリも思わない。思わないで……。



「悔しいな、やっぱり」

「戸田。まだ言っているのかよ」



先に飲んでいた海槻はそれなりに酔っていたが、戸田は礼に1杯だけ飲み干して止まってしまった。まったく、雰囲気に酔いきれない。


「勝っても、負けても悔しい試合を見るのは辛いな」


本音。


「おい、戸田。……それ以上言うな。俺だって……俺だってさ。あそこで投げたい。あそこで打ちたい奴、守りたい奴が、この会場にもいるんだ」

「知ってるよ」


悔しいから、酒が、声が、……普通に出るわけねぇーだろ。

良かったよ。スタジアムの方で見てたら、きっと真っ当なことができなかった。


絶対に勝ち取ってやる。来年こそ、一軍に定着して……エースになって。本当のプロ野球選手になってやる。


「早く来年になってくれ」



いよいよ、開幕する全国シリーズ。

両チーム。リーグ制覇を果たした者同士の死闘が開幕する。



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