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休憩休息

ったく、とんでもない帰還だぜ。


「あぶねぇ試合をしてんじゃねぇ。自棄酒の準備をするところだったぞ」

「良い勝ち方しやがって、俺達も混ぜろよ」



帰還と言うが、また敵地にやってきただけである。

シールバックの先発の2人。予定通りの登板のため、敵地のホテルで身体を休めて調整していた。本当にチームがここに戻ってくるか、不安に3試合を観戦していた。あのメンバーが戻ってくるとより実感し、自分の役割を必ず果たしたい使命感が引き締まった。



「神里、川北」

「帰って来たぞ、俺達はな!」


阪東の宣言通り、再び敵地に戻ってこれたシールバック。

エースの神里に2番手エースの川北。

オールビーは五戦目に大エースの田中昌を急遽登板させての敗北。先発の質だけならほぼ横に、対等になったと言えるだろう。



「準備はしっかりと整えているだろう?」


阪東の問いは明らかに愚問。



「当然だ。6戦目は俺に任せろ、阪東。例の物もできたんだろ?」

「最終戦は俺だったな」


全国シリーズ、6戦目の先発は神里 VS ベアストーン。

最終戦の先発は、川北 VS 辰真。

これがほぼ決定的となった。先発の質が低いシールバックにとって、戦力として数えられる先発の2人が、再び登板できるまで持ちこたえのは大きい。



「特に地花、本当によくやったぜ」

「神里さん!」


普段は野手陣をボロクソに、悪口を吐いている神里が珍しくみんなの前で選手の一人を褒めた。なんだか珍しいが、それだけの結果を見せたのだと地花は鼻にかけていた。本城よりも凄いに決まっている。しかし、神里の返し言葉も決まっていただろう。



「地花のスリーベースのおかげで、あの攻守において、厄介な伏世が負傷しやがった。もう全国シリーズの試合に出てこねぇのが決定だ」



このど畜生。失敗したとはいえ、ガッツ溢れたプレーをそのように把握する。悪意に満ち溢れた発言だけでなく、その表情はとっても喜んでいるというよりゲス過ぎると誰もが理解できる。性格が腐り切っているが、投手は並のメンタルではいけない。特に優しさの欠片を持っていないことが重要だ。



「あの、別に狙ってねぇーっすよ」

「もう過ぎた事はどーでも良い。俺の中で、あの試合のMVPはお前だ。ははは、ありがとなー」



地花だって、伏世だって、一生懸命のプレイをしただけだ。

しかし、神里にこうして悪い意味で"よくやった"と言われると複雑過ぎるし、地花は自分が投手をするにはとてもマネできないメンタルだと理解できた。

神里のような下種や悪意の塊、川北のような熱意や熱狂、根性といったタフさがない。



「神里の言うとおりだな」

「阪東まで言うか」

「当然だ。何しろ主力選手の離脱は1日そこらで改善できん」



あくまで、阪東の発言は賞賛されるべきプレーを行なった伏世だからこその、戦略的な発言だ。必死に戦って、2勝3敗が限界であった。その中で広い守備範囲としっかりとした2番打者が不在になる残りの2戦は、ようやく五分五分の戦力となるだろう。

とはいえ、阪東達に油断や慢心は作っていない。まだ、試合が始まってすらいないのだから。




◇  ◇



「田中昌と伏世は難しいか」

「はい。伏世は骨にヒビが入っており、田中昌もショックが大きいかと。球数もそれなりでしたし」



本拠地へと帰って来たオールビーの面々。澤監督はスタッフ全員を集めて残り2戦で、1勝するための会議をとっていた。

阪東や神里が発言する通り、要の選手の離脱は相当な痛手であった。層の厚いのオールビーといえど、大エースとセンターを守り、小技も盗塁と決められる大ベテランの離脱は埋められない。

また、中継ぎの一人。皐月がメッタ打ちにあったことで信頼感に揺らぎがあるのも事実。



「6戦目はベアストーンだが」

「万が一、6戦目で敗れてしまったら……」



辰真と神仏のいずれか。両者共にシールバックを相手に好投を魅せている。その結果が安心できるが、勝って来た勢いを抑えられるか。



「上草は?」

「心配ないです。しっかりと立て直すはずです」


守護神、上草は敗戦投手となってもやはり揺ぎない。セットアッパーの一人、富士海も調子は悪くない。

リードした後半の安心感はある。しかし、それはシールバックも同じだろう。絶好調に達した井梁の投球は、まったく手をつけられない。


「打線はどうするのですか?そもそも、センターは……」

「2番はホモリンにするというのはでしょうか?」

「センターは重要なポジション。打撃偏重で固めるよりも、守備に徹した方がいいかと思います」

「となると、控えの田岡か。打力はないし、9番か8番にするしかないな」



向こうの先発は予定通り、神里と川北だろう。様々な策を弄してきた阪東ならば、ここから奇手をやってくるとは思えない澤監督。定石通り、実力のある先発のままで来る。2人共良い投手であるが、直に対戦しているという経験は大きい。戦力差が縮まる6戦目、7戦目。



「6戦目で決めたいところだな」



7戦目は最終戦。先発、中継ぎ、抑えという役割を無視した総力戦となる。エース対決ならば、2番手といえどベアストーンの方が神里より勝ると見ている。


「ふむ」


大まかなゲーム展開を描いた一同。ベアストーンは田中昌と違い、しっかりと休養をとっている。必ず試合を作ってくれる。あとは神里をどう攻略するか。彼には1戦目で6回1/3を1得点に抑えられた。この1得点は流合のソロホームランであり、打線全体が攻略できたとは良い難い。

移動日という1日の空きを重要に使いたい。徹底的にデータを詮索しているスタッフ一同であった。



◇  ◇



彼女から呼び出しを喰らった。その手段はメールである。


「どうして、お前がここにいる?」

「どーせ、練習する気ねぇだろ?あと、お前の彼女は来てねぇぞ。まだな」


細かいことはどーでもいいだろうという、相手方。友田は宿泊していたホテルを抜け出して、会いに来たと思ったらまさかお前だったとは……


「杉上。暇なのか?」

「うるせーー!テメェを激励するために、呼んだだけだ!」

「お前がホテルの、俺の部屋まで来て言え」

「それしたら俺が変態じゃねぇーか!!この!可愛い彼女を作りやがって」

「高校時代からの付き合いだぞ。女子アナとかじゃねぇよ」


十文字カインの1番打者、杉上。敵チームから見れば、友田を一番ライバル視している男である。1番打者として相応しい盗塁王である。

一戦目こそ、かなりの活躍を見せた友田であるが、それ以降はイマイチ。守備が緩慢という面を見れば、足を引っ張っている部類の選手だろう。



「自慢げに内野安打を打って良いのか?」


杉上はこれまでの友田の不出来に一喝しに来た。特に五戦目で見せた内野安打。友田らしくないからだ。


「狙ってやれたら苦労しねぇよ」


そんな姿を少しばかり瞑っている友田の答え方。友田へのマークは徹底されており、難しいのは分かる。だからといって結果を出せなければいけないのだ。


「まぁまぁ、考えているさ」

「ホントだろうな?」

「お前に言われるまでもねぇ。お前に言われたくもねぇ」


くだらない激励だ。しかし、そーいった言葉を望んで向かった自分は欲しかったのだろうな。たとえ、ライバルだとしても


「ああ、あとな」

「なんだ?」

「テメェは、試合をみんじゃねぇ。ムカつくからな」

「ああ!?」



友田のこの宣言。とりあえず、ここまで抑えられたきっかけを粉砕する行動に出るのだろう。激励のために呼んでしまったのは悪かったが、


「おい、友田どこ行く!?そっち来た道じゃねぇだろ!?」

「悪い。合コンあんだ。お前も来る?」

「明日試合だろうが!お前、そのためだけにホテルを抜け出したのか!?」


その後、友田は杉上に引っ張られる形でホテルに戻されたのであった。



◇  ◇



1番、鈴一

2番、ホモリン


先輩、後輩。鈴一さんが生まれてきただけで、それはもう有頂天。幸せ。

やはり9番と1番の繫がりよりも1番と2番という繫がりの方が良い。この大舞台でこの繋ぎが実現してしまった。



「鈴一さん」



どんな日でも、寝る前には必ず偉大かつ敬愛している、鈴一初すずいちはじめのプレイ集を見ながら眠りにつくというホモリン。ちなみにこれは登録名であり、彼の本名は川碕忍寄かわさきしのよりである。



「ああ、鈴一さん」



選手ではなく、人間としてならば恐ろしいのはホモリンだろうと。オールビーの選手達、スタッフ達は思っている。その思考は確実なストーカーであり、本人は尊敬や敬愛と言った言葉を使って他者に伝えるが、その行動と心理はそーいった類ではない。他者から見てそう感じるのならば、ホモリンもそれを思っているだろう。


彼の憧れは叶っただけでなく、より冗長し、歪んだ深い愛が生まれてしまった。

自分以外の誰かが鈴一の隣にいることや邪魔をする者に対して、強い嫉妬と憎悪が膨れ上がった。

一線を越えて良いという覚悟を持ち、鈴一のためならばどんなプレイもやってみせようという、負の気迫。

鈴一に病みきっている。



「入るぞ」



その一言を発した、ホモリンの同期である田岡。そこで"ダメだよ"って言って欲しかった。


「うおぉっ!?」



ホモリンの部屋は魔境である。鈴一という名選手だらけの部屋。

野球道具の数々だけでなく、ホテルで使われている椅子はすでに片付けられており、鈴一が座ったことのある椅子ばかり並べられており、床には鈴一の数多くの写真が床一面を完全に多い尽くすほどの量が、愛が溢れ過ぎているような形で散乱していた。


そして、当の本人が。ベットに入りながら観ているVTRは当然、鈴一のプレイ集である。

まぁ、……うん。それだけならとても普通だったか。なんか普通に見えるんだ。


「それ自前?」


ホテルのシーツと布団までもが全て入れ替えられている。特注のシーツには数多く鈴一の姿が縫いこまれており、布団に至っては鈴一の肉体美がキッチリと載せられた布団。その中に入って、VTRを観ているホモリン。


「ああ、鈴一さん。素敵だ。凡退してもなお美しい」

「……気持ち悪い」


ドン引きするほどの鈴一への愛。重すぎるし、禍々しすぎる。


「明日は鈴一の後ろを任されるなんて興奮でたまらない。こちらから抱きついて、助けてもらいたい!!いつも僕の後ろにいるのだから、攻めて来てもいいですよ、鈴一さん!」

「こ、こっちが伏世さんの代役で緊張してるというのに……。いつも通りか、いつも以上か」


明日への試合に興奮して眠れないというより、いつもの如く鈴一に興奮し過ぎているホモリン。田岡はこの姿を見て溜め息をもらした。このオールビーは化け物ばかり揃っているが、こーいった一面を見ると常識とはかけ離れている。(特にホモリン)。

オタオタしていても意味がない。あーして、いつも通りしなきゃいけない。

ケータイで妻と子供に電話を入れる。明日、ちゃんとテレビを観て欲しい。



「由美子、俺。明日のスタメンなんだけど、中継観てくれる?」

『は?毎試合球場に行ってるんだけど?私達のこと、見てなかったわけ?野球しか目がないわけ?ベンチにいただけなのに?』

「………すんません。活躍するんで」



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